運命の人
嘘だろ……!?
俺は心に強い衝撃を受けていた。
と言うのも、さっきの不思議な力が使えなくなっていたからである。
心の中で何度も誓ってみたが、力が現れる様子はない。
クソッ……どうして……
この状況に加え、目と鼻の先まで迫ってきている二体の影。
予想外の出来事と危機に俺は焦燥に駆られていた。
二体の影が大きく口を開け、襲ってくる。
万策尽きた俺は神様にでも祈るように、目をギュッと閉じた。
ん?……
一向に襲われた感覚がしなかった。
恐る恐る目を開けると、影は目の前で痺れたかのように立ち止まっていた。
影の意外な動きに目を奪われていると、後ろから声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか!?」
その声は可愛らしいが、どこか慌てた口調だった。
声の主は俺の顔近くでしゃがみ込み、上から顔を覗き込ませた。
あっ……!?
その姿を見た時、俺の心は一瞬で奪われた。
なぜなら、想像を遥かに超える美少女だったからだ。
その少女は肩までの長さの艶やかな灰色の髪で、両側の毛先を黒いリボンで結び、紫色にもピンク色にも見える神秘的な澄んだ瞳をしていた。
服装は、丈の短い黒いワンピースを着ていて、腰には拳銃が入ったベルトが付いていた。
そして中でも一番は声相応の……
「ロリだった……」
ニヤニヤしていた俺の顔を見て、少女は不思議そうに首を傾げた。
それから少女は俺の全身を舐めるように見ると、颯爽と立ち上がった。
「あなたって、すごいタフですね……間に合って良かった」
「ちょっと待ってて下さい、すぐ終わらせますから」
そう言うと少女は再び動き出そうとしている影に、両手で拳銃を構えた。
そして、パンッと影に向かって発砲した。
影は時間が止まったかのように再び動けなくなってしまった。
「やっぱり銃では殺せないですか、なら」
少女は銃を捨て、その見た目からは有り得ないほどの強烈な蹴りで影を吹っ飛ばした。その後、少女は影の方に突っ込んでいき、殴る蹴るを繰り返した。
数分後、影は影も形もなく、完全に消滅してしまった。
影を消し去った後の少女は雲一つない夕空をただ眺めていた。
その時、少女が何を思っていたのか俺には分からない。
◇◇◇◇◇◇
その後、少女はすぐに戻ってきた。
「そのケガで生きているなんて、やっぱりすごいです!……ホントに良かったです」
少女は俺のタフさに再び驚いていたが、ホッとしたような表情だった。
少女の顔を見ると、自分で転んだだけですとか恥ずかしくて言えない……
それよりもまずはお礼を言わないとな……
「助けてくれて……ありが……と……」
あれ?目の前が……真っ暗になって……
俺は少女との運命的な出会いにより、普通に意識が保っていられるようなケガではないことを忘れていたのである。
俺は消え行く意識の中でも少女の温もりを強く感じていた。
「大丈夫、私に任せて……ゆっくり、休んでください」
甘くとろけるような声を聴いて、俺は安心して眠りについた。
◇◇◇◇◇◇
「カミダマモル……私が待ち続けた運命の人」
少女はそう呟き、少年の身体に触れると、不思議な力で少年のケガは見る見るうちに治っていった。そして、治療を終えた少女は少年をそっと抱えて、山の上に立つ風車に向かって歩き出した。
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