プロローグ③
数日後、俺は意識を取り戻した。
真っ白い天井、机にある沢山の果物、そして独特な消毒の匂い。
どうやら、ここは病院らしい。
俺は生きているのか……?……なぜ?
俺は自分自身に疑問を持っていた。
そうしていると、ふと脳裏に最後に見た光景が蘇ってきた。
俺を守る彼女の姿。
あの後、彼女はどうなった……?無事なのだろうか……
そう思い続けていると胸が苦しくなってきた。
彼女の安否を確認するため、俺は痛みに耐えながら懸命に立ち上がろうとした。だがそれは叶わず、俺に気づいた看護師に止められて無謀に終わった。
その後すぐに、父さんが駆けつけて来た。
父さんは俺を見ると、そっと抱きしめながらただ無事を喜んでいた。
彼女のことを聞こうと思ったが、なぜだか今は聞かない方がいい気がした。
……いや、違う。本当は聞きたくなかったという方が正しいだろう。
◇◇◇◇◇◇
それから2週間後、俺は退院した。
俺は父から彼女のことについて知らされた。
彼女は死んだ。
刺傷は2箇所、刺された箇所は一つは腹部、もう一箇所は心臓部付近。
死因は出血多量によるショック死。
彼女は俺に覆い被さる様にして亡くなっていた。
葬儀は既に執り行われていた。
◇◇◇◇◇◇
冬休みが明けて少し経った後、俺は久々に登校した。
校門をくぐると、周囲の人間が俺の顔を見た途端にザワつき始めた。
学校内では彼女の友人、彼女のことが好きだった人、関りのなかった人までもが俺を必要以上に責め立てた。
「お前が悪い」や「お前が死ねばよかったのに」など憎しみの言葉を浴びせられた。
だが、俺はそんな言葉を浴びせられても少し刺さる程度だった。そんなこと分かりきっていたし、責められて当然だと思っていたからだ。
だけど、ある1つの言葉だけは俺の心を深く抉る様に突き刺さった。
『何で、守ってあげられなかったの?』
◇◇◇◇◇◇
帰宅途中、俺はその言葉について考えていた。
俺は彼女を守ってあげられなかった……なぜ?……なぜ?なぜ?……
行動力はあった……だけど守れなかった……なぜ?……力強さが足りなかったから?……それもあるが……違う……そうじゃない……現に自分よりも力が弱かった彼女に俺は守られた……
行動力・力強さだけでは到底できないことだ。
『彼女は命を懸けて俺を守った』のだ。
そして、俺はある答えに辿り着いた。
誰かを守るためには必要なのは【行動力】・【力強さ】加えて、【自分の命を懸ける覚悟】だ。
その中で一番大切なのは【自分の命を懸ける覚悟】だ。
これが俺に一番足りなかったもの。
そしてこれが俺が辿り着いた答え。
本当の意味で自分が目指す生き方をすることが……できる。
そんな気がした。
◇◇◇◇◇◇
気付けば、車の往来が激しい道路に出ていた。
ここは子供の飛び出し事故が多く、非常に危険である。
歩道では子供たちが鬼ごっこをして遊んでいた。危ないが歩道内なら大丈夫だろう。子供たちを見ていると、少しばかり昔の思い出が懐かしく感じられる。
二人の少年が俺を追い越し、横断歩道を渡ると鬼になったらしい少女に手を振っていた。鬼の少女は近道をしようとして、ガードレールの下を潜り抜けて道路を横切ろうとしていた。道路を見ると、子供に気づいていないのかトラックがスピードを緩めず迫ってきている。
少女は全く気付いていない。
やばい……
俺は戸惑うことなく道路に飛び込み、少女を思い切り突き飛ばした。その衝撃で少女はなんとか安全地帯に入れたようだ。それを見て安心したのも束の間、体勢を崩していた俺は身動きが取れずトラックに吹っ飛ばされた。
◇◇◇◇◇◇
救急車のサイレン、パトカーのサイレン音が重なり合いながら響き渡っている。
もう身動き一つ取れそうにない。自分の身体じゃないみたいだ……
霞んでいく視界に映るのは、さっきの少女だった。
少女はひたすらに泣いていた。
「ケガ……は……な……い?」
俺は声を振り絞って少女に尋ねた。
「お兄ちゃんーーーーーーーー!!!! ない! ないよ! だから死んじゃだめぇぇーーーーーーーー!!!!」
少女はさらに大きな声で泣き叫んだ。
死んじゃダメ? いや、もういい……もういいんだ。
俺は達成感に満ち溢れていた。
俺の名前は【神堕守】
『この名前のように誰かを守れる強い人間なる』
これが俺が目指したかった生き方。
もう人生に悔いはない。
でも、もし心残りがあるとすれば……
俺を守ってくれた彼女に……『もう一度逢いたい』……
そして伝えたい……
『守ってあげられなくてごめん』
『守ってくれてありがとう』
と……
俺は沢山の人に温かく見守られながら、息を引き取った。
御覧頂きありがとうございます。
序章となるプロローグは以上になります。
次からは、転生後の第一章になります。