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名前戦争 ~転生しても変わらず生きる~  作者: 七涙色ユウ
序章 神堕守の世界
3/5

プロローグ③

 数日後、俺は意識を取り戻した。

 真っ白い天井、机にある沢山の果物、そして独特な消毒の匂い。

 どうやら、ここは病院らしい。



 俺は生きているのか……?……なぜ?

 俺は自分自身に疑問を持っていた。

 そうしていると、ふと脳裏に最後に見た光景が蘇ってきた。


 俺を守る彼女の姿。


 あの後、彼女はどうなった……?無事なのだろうか……

 そう思い続けていると胸が苦しくなってきた。


 彼女の安否を確認するため、俺は痛みに耐えながら懸命に立ち上がろうとした。だがそれは叶わず、俺に気づいた看護師に止められて無謀に終わった。


 その後すぐに、父さんが駆けつけて来た。

 父さんは俺を見ると、そっと抱きしめながらただ無事を喜んでいた。

 彼女のことを聞こうと思ったが、なぜだか今は聞かない方がいい気がした。

 ……いや、違う。本当は聞きたくなかったという方が正しいだろう。




 ◇◇◇◇◇◇


 それから2週間後、俺は退院した。

 俺は父から彼女のことについて知らされた。


 彼女は死んだ。

 刺傷は2箇所、刺された箇所は一つは腹部、もう一箇所は心臓部付近。

 死因は出血多量によるショック死。

 彼女は俺に覆い被さる様にして亡くなっていた。

 葬儀は既に執り行われていた。



 ◇◇◇◇◇◇


 冬休みが明けて少し経った後、俺は久々に登校した。

 校門をくぐると、周囲の人間が俺の顔を見た途端にザワつき始めた。


 学校内では彼女の友人、彼女のことが好きだった人、関りのなかった人までもが俺を必要以上に責め立てた。

「お前が悪い」や「お前が死ねばよかったのに」など憎しみの言葉を浴びせられた。

 だが、俺はそんな言葉を浴びせられても少し刺さる程度だった。そんなこと分かりきっていたし、責められて当然だと思っていたからだ。


 だけど、ある1つの言葉だけは俺の心を深くえぐる様に突き刺さった。

『何で、守ってあげられなかったの?』



 ◇◇◇◇◇◇


 帰宅途中、俺はその言葉について考えていた。

 俺は彼女を守ってあげられなかった……なぜ?……なぜ?なぜ?……

 行動力はあった……だけど守れなかった……なぜ?……力強さが足りなかったから?……それもあるが……違う……そうじゃない……現に自分よりも力が弱かった彼女に俺は守られた……

 行動力・力強さだけでは到底できないことだ。


 『彼女は命を懸けて俺を守った』のだ。


 そして、俺はある答えに辿り着いた。

 誰かを守るためには必要なのは【行動力】・【力強さ】加えて、【自分の命を懸ける覚悟】だ。

 その中で一番大切なのは【自分の命を懸ける覚悟】だ。


 これが俺に一番足りなかったもの。

 そしてこれが俺が辿り着いた答え。

 本当の意味で自分が目指す生き方をすることが……できる。

 そんな気がした。



 ◇◇◇◇◇◇


 気付けば、車の往来が激しい道路に出ていた。

 ここは子供の飛び出し事故が多く、非常に危険である。


 歩道では子供たちが鬼ごっこをして遊んでいた。危ないが歩道内なら大丈夫だろう。子供たちを見ていると、少しばかり昔の思い出が懐かしく感じられる。


 二人の少年が俺を追い越し、横断歩道を渡ると鬼になったらしい少女に手を振っていた。鬼の少女は近道をしようとして、ガードレールの下を潜り抜けて道路を横切ろうとしていた。道路を見ると、子供に気づいていないのかトラックがスピードを緩めず迫ってきている。


 少女は全く気付いていない。

 やばい……


 俺は戸惑うことなく道路に飛び込み、少女を思い切り突き飛ばした。その衝撃で少女はなんとか安全地帯に入れたようだ。それを見て安心したのも束の間、体勢を崩していた俺は身動きが取れずトラックに吹っ飛ばされた。



 ◇◇◇◇◇◇


 救急車のサイレン、パトカーのサイレン音が重なり合いながら響き渡っている。

 もう身動き一つ取れそうにない。自分の身体じゃないみたいだ……

 霞んでいく視界に映るのは、さっきの少女だった。

 少女はひたすらに泣いていた。


「ケガ……は……な……い?」


 俺は声を振り絞って少女に尋ねた。


「お兄ちゃんーーーーーーーー!!!! ない! ないよ! だから死んじゃだめぇぇーーーーーーーー!!!!」


 少女はさらに大きな声で泣き叫んだ。


 死んじゃダメ? いや、もういい……もういいんだ。


 俺は達成感に満ち溢れていた。


 俺の名前は【神堕守】

『この名前のように誰かを守れる強い人間なる』

 これが俺が目指したかった生き方。

 もう人生に悔いはない。


 でも、もし心残りがあるとすれば……

 俺を守ってくれた彼女に……『もう一度逢いたい』……

 そして伝えたい……


『守ってあげられなくてごめん』


『守ってくれてありがとう』


 と……




 俺は沢山の人に温かく見守られながら、息を引き取った。

御覧頂きありがとうございます。

序章となるプロローグは以上になります。

次からは、転生後の第一章になります。

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