お手伝い 厨房編
次に目を開けたときには、違う場所に私は浮かんでいた。
「うわっ!」
ドタッと着地に失敗し、前のめりに転んだ。
「ドンくさいなぁ。」
「わぁ!大丈夫?」
「あっ。エトワール様は、瞬間移動初めてでしたね。」
こいつら〜、心配してくれてるのスーだけじゃん!転んだのがお姫様なんだから、もっと心配するもんでしょ!
あーあ、私と入れ替わってから、お姫様力下がったのかなぁ。
パッパと服をなおしながら立ち上がる。
「ビックリした…するならするって言ってよ!」
「すみません。いつも使っているので、つい忘れてしまいました。」
「なぁ、早く行こうぜ。いい匂いで腹が減ってきた。」
ケルの言葉を聞き、スンスンと匂いを嗅ぐと厨房の扉が閉まっているのにも関わらず、確かにお腹を刺激する香りがする。
「本当だ。いい匂い。」
「じゃあ、みんないい?開けるよ。」
コンコンとノックをして、ガチャと扉を開ける。すると、鼓膜が壊れるほどの声が響いた。
「なんだ!!お前たち!まだ飯の時間じゃねぇぞ!!」
私は咄嗟に耳を塞いだが間に合わなかったようで自分の耳に蓋がついたような感覚になる。
うわ!うるさ…あー、耳がキーンってなってる…
「おまえ、声デカすぎ!」
「本当だよ〜。耳が壊れる…」
3人も耳はへにょっと垂れてなんだか元気なさげで、それもそれでとても可愛い。
「わはは!すまんな!指示通すためについデカくなっちまうんだよ!で、なんのようだ?」
「エトワール様がお世話になってる皆さまのお手伝いをしたいとおっしゃりまして。何かと手が足りない厨房ならお仕事がもらえるかと思い来たしだいです。」
「ん〜。お姫様がねぇ。」
うぅ。品定めしてるのような感じ…
面接を思い出す…
しかも、この方身長も大きいしガタイもいい。見た目はなんか目がない、トゥルン系だし、伸縮可能な手みたいなのが沢山生えている…
今まで会ったことのある人たちは、人間ではないにしも、どこか親しいものを感じる人ばかりで、明らかに人外という見た目の人は初めて見た。
やべぇ冷や汗でてきた。
しかし、「はぁ、お姫様の手を借りるほどでもねぇよ。他あたりな。」という一言で全ての感情がこいつを見返してやりたいというものに変わった。
…はぁ?こいつ、お姫様甘くみてるなぁ。こちとて中身は一般人ですから、仕事できますし!飲食店のバイト経験者舐めんなよ!
「そうですか。じゃあ、次行きましょう。エトワール様。」
「ちょっと待って。あそこに貯まってるお皿はなんなのかしら。」
「んぁ?ちょっと手が回らなかっただけだよ。」
「そうですか。じゃあ、私が洗って差し上げましょう。」
「別にいいよ。俺らが後でやるし。」
「貴方、皿がないことがどんなに恐ろしいことなのかご存じないのですか?大丈夫です。私が完璧に仕上げて差し上げましょう。」
「いや、本当にいいって。オイ、コラ待て。」
ふーん。これだけの皿をためていながら、料理を出すのが困らないなんてね。さすが王のお城ってことかしら。だけど、皿をためて後悔するのは目に見えている。皿がないことでどれだけ焦るか…うぅ、思い出しただけでドキドキしてきた。
「ねぇ。スポンジはこれで、石鹸はこれでいいのかしら。」
「あぁ、それであってるが…」
「まぁ、やらしてやれって。もう、マリッジブルー事件起こしたくないだろ。」
「それもそうだが…」
「僕たちが見てるからさ。大丈夫だよ。」
「はぁ… 分かったよ。任せた。」
「はい。お任せください。」
渋々といった感じだったな。確かにお姫様のいっときの気まぐれに見えるだろう。
だがしかし!今にその鼻明かして見せましょう。
「ふ〜、なんとか終わったね。」
数十分たち、洗い場に山盛りになっていた皿を全部洗い終わった。
いや〜、久しぶりに働いた感!スッキリした!
「…すごいな。この短時間でやってのけるとは…」
「料理長!」
声を聞きつけたのか、後ろからのそっと料理長がやってきた。
「てっきり途中で投げ出すか上手くできないかと思ってたよ。」
「ふふ、お姫様舐めてもらちゃ困るよ。」
「ああ!そうだな!姫さんおみそれしたよ!」
ハハハと2人で笑いあい、がっしりと健闘を讃えあうかのように、多くあるうちの一本の手と握手をした。
「なぁ、またここに来て色々手伝ってくれないか?」
「おいおい、料理長。いくらそれは…」
「いいよ!いつも美味しい料理つくってもらってるんだし!」
「エ、エトワール様、いいのですか!?」
「うん。本格的な料理はできないけど、野菜とかの皮むきとか私できるし!」
「へぇー。お姫様ってこういうことしないイメージだったけど、できるんだね。」
「あっ、えっと… そう!できるよ!」
やべー。そっか、お姫様しないか、こういうこと。
少し一般人の部分を出してしまい、ヒヤっとしたが、料理長に見送られ、私たちは厨房を後にし、次の目的地へと向かった。