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少年は言った。
「我、第十二階位熾天使及び魔王の使徒七柱、との盟約によりて新たな真名を得ん。今この時より我が名はレーデル王領天命の騎士」
英雄は一息に言い切って自らの宿命を言葉に込めた。
「アイン」
決意と共に紡ぎ出された言葉は現実のものとなる。
この瞬間から少年は英雄に姿を変えた。
天使や悪魔など人外のものとの契約には代償が必要、そのことも承知している。
英雄は自身の仲間たちが息を呑む音を聞いた。
「祝福者は、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フュンフ、ゼックス、ズィーベン、アハト、及びノイン、以上7名」
アインと名乗る英雄は決意と共に先の言葉を紡いだ。
「この者たちの命を我と我が魔剣に捧ぐ」
アインがそう言い切ると仲間たちは初めからそこにいなかったかのようにその場からいなくなってしまった。
その様はまるで世界から存在そのものを否定されたかのようだ。
「魔剣の真名をヌルと定める、その効果は全ての魔族に必殺の効果をもたらすものとする」
一人になった英雄はその瞬間、仲間たちとのかけがえのない記憶も失ってしまった。
この選択には悔いも憂いも伴わないはずであろうが、英雄の相貌は言いようのない喪失感によって歪んだ。
英雄はその場に蹲って膝を折ると、ひとしきり呻き声をあげて嗚咽を漏らした。
しかし、数分後には感情に乏しい、孤独の戦士、天命の騎士アインそのものとなっていた。
英雄アインは魔剣を鞘に納めると二十一式転移魔法を用いて直ちにこの場を去った。
この魔法も元々は二十一という真名を持つかつての仲間を生贄に捧げて会得したものだ。
二十一という意味の名を持つ者はその場で蜻蛉のような羽を持つ妖精族に姿を変えたがそのことに気づいたものは誰もいなかった。
この事毎は英雄アインが魔王ゼロを討ち取ると神に誓約した刻限まで、あと二十一日に迫ったころの出来事だった。