第六章 ヒトの歴史
案内してくれた仲間と私は学習施設に潜入し情報が書いてあると思われる物や言語形態が解る物を片っ端から読み漁った。だが、私たちの希望は、この星の歴史で夜明け前に粉々に打ち砕かれた。「私たちが火を、文明を与えた種は既に滅んでいた。別の種が反映し、たった数千年で我々を遥かに超える発展を遂げたのか。」「そういうことらしい。こちらの文献の内容とも相違がない。」我々の百二十五万年は一体何だったのか。口には出さないが、その徒労感がそこにはあった。「なぜ彼らは、こんな風に発展ができたんだ。我々と彼らの違いは何だ?」「…恐らくだが、この星の生物にとって死が日常だったからではないだろうか?」「死が日常?」「老いて死に、病で死に、食われて死に、飢えて死に、戦って死ぬ。その繰り返しが、危機感を生んだんだ。死は避けがたいが避けられない。私たちと違うのはそこだ。」「そうか。我々は外的要因が無い限り決して死なない。老いず、病にもかからず、飢えることはない。だから戦いが起こらない。だからこそ殺し合わない。だが彼らは死ぬからこそ薬や武器、食物や掟を作った。死への恐怖が、屍の山が今の彼らの人類の文明の正体だと?」「単純に解釈すればそうなる。必ず死ぬのに死なないために生きている矛盾した生物がこの地球を支配した。」「我々のリーダーを撃ったのも」「ああ、この“銃”という武器だろう。」
圧倒的な脅威への沈黙の後、案内してくれた仲間がもう一度口を開いた。「勝てる見込みはあるのか。私たちは、それを探しにきたのに。」「分からない。だが、彼らの言語形態や社会形態は概ね理解した。私たちも活用して作戦を考える。それしかない。」
案内役は静かに頷き呟いた。「本は何冊か持っていこう。仲間たちも言語や歴史を習得する必要がある。」
「その前に名前を決めよう。」「何の?」「我々の個体ごとの名称だ。我々はお互いに名前が無かった。名前を付けて誰が誰だか判別できるようにすべきだ。作戦遂行の際にも個体名があった方が指示も出しやすい。」「なるほど。君の名前は?」「インベーダーでどうだ?」
「侵略者にでもなるつもりか?」「彼らが作った我々を殺すゲームから取ったんだよ。もう何人も殺されてしまった。でも全員は殺させない。先にゲームオーバーにしてやる。」「その意気だ。私も気の利いた名前を思いついたら、提案させてもらう。もうすぐ夜が明ける。早く行こう」
私が頷き両手に本を抱えて部屋を出ようとした瞬間、サイレンが鳴った。迂闊だった。ここが“図書館”であるならば本を持ち出すために何らかの手続きが必要なはずだ。上階から足音が聞こえる。我々は外を目指して走り出した。入ってきた小窓を目指すが、横からも足音が迫ってくる。小窓が見えた瞬間足音が止んで手前に本が投げられた。案内してくれた仲間が捕まったのだ。彼は叫びが背中に響く「これを持っていけ!」人間は驚いていた。「こいつ喋るぞ!気味が悪い!」「まるで人間だ。」「警察を呼ぶんだ!」彼の人間と争う声が聞こえたが、私は本を拾い上げ小窓から駆け出した。息が切れて物陰に潜んだ頃、生存反応がまた一つ減っていた。
インベーダー残り65人 死を恐れる70億人
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