第六十七章 救いの手
もう爆弾は尽きてしまった。素材を集めるのも一人では厳しそうだ。人間たちの捜索網はどんどん広まってきており、このままでは遅かれ早かれ見つかってしまうだろう。下水道で息を潜め待つしかない。いや、何を待つというのだろうか。救援すら来ないこの状況で偶然にも事態が好転するのを待つのは愚かだ。とはいえ、死ぬ勇気を持たない私は待つしかないことは明白だった。
だが、そこにも捜索の手が来た。下水道に人間の足音が響く。逃げ出そうとしたがもう遅かった。目の前に人間が現れた。もう駄目だと思ったその時、その人間は意外なことを口にした。「本当にいたんだな。助けに来た。」銃口も向けられず私は部屋に連れて来られた。
「なんで、俺を助けるんだ?」「私は生物学者だ。君たちを助けるのは実験のためじゃない。保護のためだ。人類は君たちとの交渉を諦め、一方的に虐殺や実験を行う方針にシフトしてしまった。人数が一桁まで減ってしまった今、少しでも保護して未来に君たちを残す。それが目的だ。」「お前にメリットがあるのか?」「あるよ。パンダを孫に見せたいと思うのは自然だろ?君たちも後世の人類に見せたいのさ。」「それがメリットだと?」男は少し笑ってうなずいた。「でも、地球人は生存者数を把握しているんだ。生存者がいるうちは、捜索をやめないだろう。」「だからモジュールを摘出する。君の体に埋めこまれたそのパーツをね。」こいつは何を言っているのだろうか。疑う私に男は続けた。「君たちの仲間に、左腕が無い個体がいた。ソイツ用の義手を作ったのが私だ。義手を作った際に左腕を複製するためにモジュールも含めていろいろ調べたのさ。そこで分かったのは、あの生存数のカウントは正確ではないということだ。」「モジュールに肉体が接続していないと機能しないのか?」「そうだ。だからモジュールを摘出することで、人類全員を騙す。」その言葉は魅力的に耳に入ってくる。生き残れる。その事実に胸が躍った。人類への復讐心は生存できることの喜びを前に最早消え去っていった。
「手術を受けてくれる気になったかい?」うなずく以外の選択肢が私にあっただろうか。手術はすぐに始まり、麻酔で意識は遠のいていった。目が覚めた時、私の左腕からモジュールが完全に消えていた。確かに、手術前より生存者数が一人減っている。
「ありがとう。」伝えると男は笑っていた。「だが、すぐには外には出られない。まだ人間たちが世界中で見張ってるからな。しばらくはここにいると良い。そして協力をして欲しい。残りの宇宙人もモジュールを摘出して保護したいんだ。」男の顔は真剣そのものだ。自分の命が助かった事に喜んで、仲間の事を私はすっかり忘れていた。自分の浅ましさを呪いつつ、男の言葉に私は静かに頷いた。
宇宙人残り5人 庇護者70億人
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