表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京いんべーだーず  作者: 鯖鮨 握
62/73

第六十一章 空論

 政府が壊滅状態になってからこの国は周囲から狙われ緊張状態になってしまった。元々資源が豊かなこの国は周囲から狙われても無理はない。政府という指揮系統を失った今、他国からの救援物資だけでなく、資源への交渉などがここぞとばかりにきているのだ。食い物にされそうな未来が目に見えていた。これもそれも宇宙人のせいだ。政府が滅んだこの国を今支配しているのは軍部のトップで選挙が再び行われるまではしばらくこの状態が続くだろう。

 だが、そんな国で宇宙人がスピーチをするらしい。人間側の奴が謝罪も兼ねて訪れているとのことだ。警備は厳重だが、周りの人間は宇宙人たちをどうするのだろうか。許すようなことは無いだろう。爆破された建築物の前でのスピーチは人だかりができていた。テレビ越しでもピリピリしているのが伝わっている。

 ソイツは静かに壇上に立って会場が静まるのを待っているようだったが、会場は落ち着く様子が無かった。それどころか、エイリアンを殺せ、宇宙に帰れなどの罵倒が次々と飛び出した。宇宙人は震えながら静かに答えた。「私は爆破をしていない。だが、私の同胞はこの国の建物を社会を破壊した。それが事実だ。あなたたちは私たちの同胞を殺していないかもしれない。だが、人間の中には私たちを殺した者たちもいる。それも事実だ。」その言葉で会場は静まり返った。「だからもう止めなければいけない。血を流すことも、憎しみ合うことを止めなければいけない。許しあうことだけが、未来を作る道なのだ。だから私は人間を許す。今までの流れた血も受け入れよう。」スピーチライターでもいるのだろうか。彼の語り口に全員が聞き入っていた。「我々は共に生きていかなければ行けない。だから私たちのことを受け入れてほしい。ともに歩む未来のために今一歩、一緒に踏み出そう。」静かだが、拍手が会場に広がっていた。

だが、次の瞬間宇宙人はその場に倒れた。緑色の体液が壇上に広がっている。放送はすぐに止まってしまった。会場はどうなっているのだろう。SNSを見るとどうやら、宇宙人は暗殺されたらしい。平和の使者として訪れた彼を人間は殺した。受け入れられなかったのだ。

 平和の使者を殺した犯人は、あの日の爆発で犠牲になった政府の人間の子供だったことが数日後明らかになった。メディアは復讐劇としてはやし立てた。少年は今、監獄にいるのだろうか。親の仇の同族を殺したことをどう思っているのだろうか。それともどうとも思っていないのだろうか。平和を望む宇宙人のモニュメントや慰霊碑などを立てようとする動きもあるらしいが、意味など無いだろう。この国も平和ももう死んでしまったのだから。

他国からは非難が次々ときた。無責任な連中だ。政府を失ったわけでも、ないくせに。自分が血を流していないのだからどうとでもいえる。少なくとも私はそう思ってしまう。子で人類は宇宙人と分かり合えなくなったという宣言も国連から出されてしまった。元々分かり合う気が合ったのだろうか。決定的になったから言葉にしただけでもともと理解し合おうとしていなかったのは間違いないだろう。動物として支配しようとしたのだから。それでもすべての責任が日本とこの国に乗せられてしまう。

問題を先送りにしながら、標的を探す国際社会によって、この国は近いうち他の国の政府に統合されるだろう。地図から名前が消えるかもしれない。その責任も復讐した遺族にあるのだろうか。終わらない問いが頭を駆け巡る。いつかきっと平和が来ると信じながら、我々人間は今日も引き金を引くのだ。


宇宙人残り11人 復讐者70億人


読んでくれてありがとうございます。

感想もいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ