第五章 守るための犠牲
生物学者として初めて地球外生命体の解剖をできるというのは興奮した。解剖学と生物学両方を研究している私を国が選んでくれたのは喜ばしかった。最初の一体は死体だった。滅多刺しになっている所を通行人が見つけ通報したが、どこかの馬鹿が埋葬したせいで死体が土だらけで見つかった。死体の状態があまりにも悪かったので覚えている。二体目は今私の目の前で生きていた。生きたまま解剖というのも考えたが、状態が良い遺体を確保したかったので安楽死させ解剖した。しかし、彼らを解剖、分析して驚いた。彼らには生殖器官がない。そして消化器官もない。血液は緑色、表皮は柔らかい。まさしく地球外の生命である。
そして何より恐ろしいのは、彼らの肉が腐らないということだ。ホルマリン漬けにはしていない。最初の遺体は死亡から数日経っているのにもかかわらず、死後硬直すら発生していない。死んだときのまま、体液をぶちまけても何も変わらない。まだまだ不明な点は多いが、二体目から細胞を調べてみればさらにいろいろと分かるかもしれない。研究室に来客が来たようだ。夜に生体のサンプルが計二体、さらに追加されるという連絡が警察から来ていたから恐らくそれが到着したのだろう。生体ならば、投薬や反射など実験はいろいろできるはずだ。そう思うと心が躍った。
「入ってきてくれ。」どうやら警察ではなさそうだ。ナイフを持ったフードの男がそこにはいた。「ここで宇宙人を解剖してるって聞いた。合ってる?」ナイフからは赤い血が垂れており、それが既に凶器として誰かに使用されたことは想像に難くなかった。
「学生か?」「俺の質問に答えてくれよ。まあ、背後のそれ見たらわかるけどさ。」手術台の上にあるそれを彼は指さした。「なんでこんなことが出来んの?」「死体を解剖した。未知の生物だ。学術的に意味があることなんだ。」「でもさあ、生きてたんだよ、こいつら。最初に撃たれたやつだってさ。人間だからって何をしても許されるのかよ?」「君こそ、そのナイフの血は誰のだい?」「だってお前らが宇宙人をバラバラにしてるから助けに来たんだよ。地球人の方が個体数は多いんだからさ、ちょっと減ったって影響はないでしょ?絶滅危惧種なんだよ、こいつらは。保護しなきゃいけない。それに宇宙人にだって人権はあるだろ!パンダとかといっしょだろ。」「パンダを守るために人間を殺していいことにはならないだろう?」
「うるせえよ。人殺し。」彼はナイフを持って私の胸に突き立てた。痛い。私が解剖した宇宙人にも大量の刺し傷があったが、確かにこれはひどい死に方かも知れない。遠くなっていく意識の中で彼が大量の警備員に取り押さえられるのが見えた。最後の力を振り絞って、データを保存した。
宇宙人残り66人 加害者と被害者70億人
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