第五十五章 人類のアキレス腱
「なぜこんなことをした!」取調室には怒号が響いていた。人類を裏切った男がそこにいたからだ。彼は宇宙人を治療し、彼らが持っていた爆弾よりも強力な爆弾を持たせ逃がしたのだ。仮に原子力発電所に彼らがたどり着けなかったとしても、住宅街などで使用されればその地域は吹っ飛んで無くなってしまうだろう。男は車で衝突した後、軍に拘束され連行されたのだ。
男は静かに口を開いた。「奴らの方が正しい。そう思ったからだ。なんべん言ったら分かるんだ?」そう答えた。「何を言ってる?なぜ人類虐殺が正しい?」「人類が作った仕組みを壊さなきゃいけない時が来たんだ。二千年かけた人類史の新しい変革だ。経済や国家、そのすべてを爆発でゼロにする。」男は滔々と語り出した。「人間は今、生まれた時から死ぬまで格差にさらされ続けている。その仕組みを破壊する。その時初めて人類は平等になって分かり合える。本当の平和がそこにあるんだよ。」何を根拠にしているか知らないが、男の目は確かにそれを確信していた。
「もういい、何体逃がした?この国では、宇宙人回収監査としての役割を行っていたが、ほかの国でも宇宙人のモジュールを活用し、何体か救援をしたはずだ。」
「さあ?夢中だったから覚えていないな。」男は不敵な笑みを浮かべてこちらを見つめている。テロリストを野に放っているような物なのに、こいつは事の重大さが分かっていない。いや、分かっているからこそ、これだけの余裕があるのか。殴られた箇所を擦りながらもこちらを見て微笑む男は気味が悪い。
奴の目的はただ一つ、人類の文明を滅ぼすことだ。宇宙人の生存反応が減った速報が入っても男の顔色は変わらなかった。それどころか高揚さえしていた。なぜなら宇宙人の死に場所が政治の中心地で、政治家が多く亡くなったためだ。男は一人興奮に震えていた。ただ奴らを救ったわけではないようだ。「何がおかしい?」「これは私の功績だ。」「お前が教えたのか?人類の政治の中心地を?」「ターゲットの一つだ。他にいくつも教えている。」不気味な微笑みが強まったように見えた。
エイリアンを救い、原子力発電所という標的を失った彼らに人類のアキレス腱を伝える。確かにこれは厄介だ。「どこを教えた?」奴の肩を掴んで問いかける。「数が多すぎる。伝えた所で、お前らは混乱するだけだぞ?どうしても失いたくない所だけ必死になって守るが良いよ。それに俺にあっていない連中は、原子力発電所をまだ目指しているはずだ。」男の言っていることは嘘ではないらしい。至急、軍本部に連絡をかける。
一つ吹き飛ぶたびに人類の既存の仕組みが壊れる。男の計画は周到だった。考えそうな目標に警備を配備する。広くは守らない。ただ、絶対に守らなければいけない場所を全軍を分散し固める。残った宇宙人は17匹、うち4匹は味方らしい。計13個の爆弾を人類は地球から撤去する。そのうち数個はとんでもない破壊力を秘めている。その事実は軍部すら混乱させる。これから始まる絶望を忘れさせるくらいに、窓から差し込む夕陽は美しかった。
宇宙人残り17人 功労者70億人
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