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東京いんべーだーず  作者: 鯖鮨 握
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第五十三章 アクセルを踏む

 「宇宙人の遺体を見つけた。」そんなことを言う人間が増えた。その都度、我々は駆り出されるわけだ。その遺体が本当に宇宙人だった場合は、国から賞金が出ることになっている。そのため遺体の捏造などを行うケースも少なくない。国は総力を挙げて宇宙人を探し出そうとしているのだが、我が国では逃げ出した宇宙人を今もまだ一人も見つけられていない。

 それにこの国は恐らく焦っているのだ。軍備も他国と違い迅速に配備できず、できたことといえば他の国と同様、原子力発電所の一時停止という所だ。だが、少しでもエイリアンを捕まえるために国民を総動員して、賞金までつけて宇宙人を捜索している。だからこそ、普段は暇な部署で務めている俺も駆り出されるのだ。

 だが、実際一体は既に鹵獲できたのだから実際に効果はあるのだろう。次の行き先も本物だといいが、今週はもうずっと偽物だらけだ。車を降りると、待っていたのは子供だった。「車に轢かれたところを見つけたんだ。」瘦せ細っていてか細い声だ。もう何日も食べていないのかもしれない。そう告げた彼に連れていかれた先にいたのは確かに宇宙人だった。息も絶え絶えで、死にそうな感じだが、データの通りのエイリアンだ。

 「言葉がわかるやつもいるらしいが、お前はどうなんだ?」縛られた小さいエイリアンはこちらの顔を見て頭を傾げるだけだった。どうやら言葉がわからないタイプの宇宙人らしい。「確認したよ。本物だ。賞金を近いうち口座に送るから口座ナンバーを教えてくれ。君は国のヒーローだ。」そう告げると少年は笑った。口座に金が入るまで、この少年は生きていけるだろうか。

 宇宙人を後部座席に積んで、車を出す。目的地は決まっていた。この前捕まえた宇宙人のいる場所だ。俺の目的は始めからこの国を転覆することだった。そのために原子力発電所に奴らを連れていく。そのための運び屋として俺はいる。別に宇宙人に雇われたわけではない。気に食わないんだ。金が一部の金持ちにしか行かないこの国は。両親は貧困で俺を施設にぶち込み。そこで勉強した俺はどうにか市の職員に就けた。だが、そこにいて分かったことは自分が恵まれていることだった。

 飢えて死ぬ子供や老人が多発するこの国に未来があるのだろうか。宇宙人が地球にきて何か変わると思った。でもそんなことはなかった。発展した人間の文明は宇宙人すら殲滅し、人間のための惑星となった地球は宇宙人に牙を剥いた。だが、原子力発電所の計画を聞いたとき、俺は胸を躍らせたのだ。人間に復讐しようとする奴らの考えにワクワクが止まらなかった。ひっくり返らない人間社会をひっくり返すにはそういう出来事が必要だ。そう考えた。アクセルを踏み込んで原子力発電所を目指す。後部座席にはスーツケースに隠れたエイリアン。手筈は整っていた。それが宇宙人たちを合流させ、原子力発電所に送り込む。

私の目的だ。爆弾だって奴らのために飛び切りのを用意した。たとえ休止していたってその爆発は大きな影響を出せる代物だ。この国を滅ぼして一からやり直す。俺にはその考えしかなかった。

 人間では見つかってしまう。だからこそ、宇宙人に任せることに意味があった。どうにかこいつも助け出して、生きながらえさせるのだ。少しでも宇宙人の計画を成功させるために。携帯の着信音が響いてハンドルを握りながら電話に出る。「おい、また宇宙人の捕獲情報だ。今回のは死体らしい。」「分かった。住所送っておいてくれ。」電話を切ってナビに住所を入れる。死体には俺にとって価値がないが、仕事は仕事だ。ハンドルを回しアクセルを踏む。途中で薬局に行こう。宇宙人を救うんだ。


宇宙人残り19人 反逆者70億人


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