第五十章 癒えぬ病
原子力発電所まで来てしまえば、こっちのものだ。ここでは発砲もむやみにはできない。撃たれないのであればこちらにもいくらでもやりようがあった。さっきの人間は協力してくれなかったが、人間は70億もいるんだ。一人や二人、命惜しさに協力してくれる臆病者もいるはずだ。
建物の影に息をひそめる。すると遠くに仲間が見えた。良かった、自分以外にも生き残りがいた。そう思って駆け寄ろうとした瞬間、隣に人間が現れた。まるで友人にでも話しているように見えた。それで分かった、裏切り者だと。原子力発電所の停止のニュースを見た段階で頭の中に過っていたが、その現実を直視して思わず混乱した。
あれを許すわけにはいかなかった。たとえ見つかっても構わない。爆弾を裏切り者めがけて投げた。爆音が響き煙の臭いがした。どうやら裏切り者と人間が数名吹っ飛んだらしい。それに呼ばれたように周囲の人間がこちらに向かってくる靴音が聞こえる。
見つからないようにすごい勢いで走り出す。やってやった、裏切り者を始末できた。緊迫感と高揚感が息を荒くする。死体を人間と宇宙人が囲んでいる。奇妙な光景だった。互いに互いの同胞の死を悼んでいるのか。考えるだけで嫌気が差す。
どの面を下げて、祈っている?俺たちを散々殺しておいて、今更どうやって分かり合えるというのだろうか。爆弾がもう一つあったら投げていた所だ。だが、籠っていた私を何者かが掴んだ。「動くな、インベーダーか?」俺を知っている奴でこの態度ということは裏切り者らしい。掴まれている手は義手のようだ。
「なぜ裏切った?」思わずそう尋ねた。「裏切ったわけじゃない。お前こそ、あの日人間の女の子を裏切って殺しただろう!」なぜこいつが、あの少女を殺したことを知っているのだろう。しかも裏切って殺したことまでバレているようだ。それで思い出した。「貴様、あの少女と一緒にいた…」そうだ、少女と共にいた宇宙人だ。
「なぜ生きている?死んでいたはずだ。」「生きていたのさ、生存反応はあの後1戻った。一瞬だけな。だが、俺はモジュールが付いた左腕を切り落として、数値をもとに戻した。あの子の仇を討つためだ。」合点がいった。こいつだ、こいつが仲間をそそのかし、裏切らせたのだ。「仕方なかったんだ。人間を生かしておくわけにはいかなかった。」「なぜ、人を信じられないんだ。」「こっちが聞きたいくらいだ。なぜ人間なんぞ信じられるんだ?」裏切者はため息を吐いて話を続ける。「…出会った人間が違ったら、お前も信じられたのかもしれないな。」奴の腹に肘を食らわせ、全速力で逃げる。原子力発電所は間近だ。捕まるわけにはいかない。
「待て!インベーダー!」呻く奴の声と私を追う靴音が聞こえるが、気に留めている暇はない。もし、私が最後の一人でも絶対に吹き飛ばして見せる。人類にとどめを刺す。その決意は消して揺るがない。人間とは決して分かり合えない。どちらかが絶滅するまで殺し合うしかないのだ。
宇宙人残り22人 ターゲット70億人
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