第四十九章 星がきれいな夜に
原子力発電所の一時停止は難航していた。万が一爆破されれば、地球全体に問題が波及するとはいえ、停止することによるリスクもまた、人類にとって受け入れがたいほどに甚大だったためだ。だが、この炉を最後に一時的に全ての原子力発電所は、凍結されることになる。皮肉なものだ。兵器以外の核が、宇宙人との遭遇をきっかけに収まるとは。東京から各国に飛来した彼らは東京インベーダーズと世界で呼称されるようになって数週間のことだった。各地では電力供給が限定され星空がいつもよりもきれいだった。
彼らは知っているのだろうか。自分たちの作戦が無為な物になろうとしていることを、知ったら作戦を変えるのだろうか。そんなことを考えながら後にする。核廃棄物の問題も残っているが、爆破されるよりは余程いい。そう思った。この仕事についてから、頭に過らない日は無かった。もしも爆発が起こったら、自分は死ぬのだろう。そう毎日ふと思う。他の人間が思うよりもその頻度は恐らく高いはずだ。
そんなことを思いながら事務所に籠ってコーヒーを飲む。いつ何が起きてもいいように作業員として、見守る。炉が停止した今では、そのリスクも少ないが、有事の際は防護服を着て向かわなければならならないだろう。早く家族の元に帰りたいが、ここにいることが家族を守る事になるのだから仕方がない。
遠くで、爆発の音がした。どうやら宇宙人がいたらしい。周囲の警備も爆音の方へ向かってしまう。だが、これでまた宇宙人の数が減った。思わず安堵のため息が漏れる。防護服を着て作業をする手間が省けたというわけだ。
そう思えたのは束の間だった。後頭部を素早く掴まれ、首に刃物のようなものを突き付けられた。「喋るな。お前、原子力発電所の作業員か?」かわいらしい声と、ちらっと見える肌の色や手のサイズから見るに間違いない。宇宙人だ。警備の軍人たちは何をしていたのか。かいくぐられてしまったらしい。
「原子力発電所を起動、暴走させろ」声は耳元でささやいた。なるほど考えたものだ。爆破をするのではなく、暴走を指せるように人間を脅す。彼らに残された手段としては有効だろう。だが、私は手を貸すつもりは無かった。
「殺せ。」唇を震わせながらそう口を動かす。私の言葉に宇宙人は絶望したようにため息を吐いた。「なぜだ。我々は人間に一矢を報いたいだけなのに。」涙ながらに侵略者はそう告げる。「俺には家族がいる。暴走させれば家族が死ぬ。それよりは俺が今ここで死んだほうが良い。」自分にとっては当たり前のことだった。ここがもし暴走すれば世界中が危険なことになる。それより自分の命は明らかに軽かったのだ。宇宙人は長い沈黙の後たった一言そうか、と告げて私の首に刃を突き立てた。ドタッと倒れて窓からのぞく星はいつもより多くそして輝いて見えた。
宇宙人残り23人 犠牲者70億人
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