第四十三章 幽霊が語ること
人間たちと共に現れたのは左腕を失った仲間だった。最終作戦の内容を聞いて怯えて逃げ出した仲間だ。人間に寝返ったに違いない。それを思うと腹立たしかった。「何しに来た。裏切者め。俺たちを人間に売る気か?」「違う。インベーダーを止めないか?」何が違うっていうんだ。どう考えても裏切り者でしかない目の前にいる奴にいら立ちは隠せなかった。「なんでだ?人間たちに何を吹き込まれた?」「もし原子力発電所が吹っ飛べば、誰も住めなくなるんだよ。」「そんな人間を滅ぼしてこの星に住むんじゃないのか?」
横にいる人間が遮るように答えた。「それは不可能だ。原子力発電所が吹き飛べば、住んでいる場所だけでなく、惑星全体が危険になる。五か国も爆破するのだから当然かなり危険な状態になる。人間もかなり数が減るだろう。他の生物もだ。君たちは放射能について理解していない。君たちは、それが強力な武器だと思っているが諸刃の剣だ。」そんなはずはない。「私たちの体は人間の体と違って、外傷が無ければ永遠に生きていけるんだ。」
科学者は首を横に振った。「放射能は生物の細胞を傷つける。それは君たちも同じだ。君たちの細胞は傷つくぞ。徐々に汚染されて死ぬのがオチだ。一部の人間たちはシェルターや防護服を着て生き残る。それに価値があるのか?」仲間たちの間にざわめきが起きた。
馬鹿言え、私はインベーダーを信じている。仲間を散々殺した種族と、そいつらの一人を殺した英雄どっちを信じるか、答えなんて決まっているのに。「ふざけるな。そいつの戯言を信じるのか?生き残った人類は殺せばいい。」裏切者がたしなめるように言った。「なあ、そもそもの私たちの目標を思い出してくれ。私たちはここに侵略や殺し合いをしに来たのか?違うだろう?第二の母星を探しに来たんだ。行き違いがあって死者が出た。お互いにだ。死者数はこっちの方が多いかもしれないが、今なら犠牲を減らせるんだ。このまま作戦を実施すれば、多くの人もこの星も死ぬことになる。それで良いのか?」問いかけに皆が押し黙る中、一人が告げた。「裏切ったら、俺たちの命は助けられるのか。」人間がすかさず言った。「この星に住み動物園ではなく、行政特区の居住区を作る。約束する。君たちをこの国の国民として扱おう。」
その言葉で趨勢は傾いてしまった。仲間が一人、また一人と裏切りを決意していく。「ふざけるな。人間に信じる価値なんてない。」そう叫んだのは、私だけだった。仕方ない、インベーダーのために一人でも裏切り者の数を減らそう。背中を見せた仲間の一人の首に後ろから腕を駆け締め上げる。「やめろ!」人間が檻を開けて駆け寄った時にはもう遅かった。言葉にならない悶えの後、私の手で仲間は息を引き取った。「裏切者は許さない。絶対に。」私はただ一人、檻に閉じ込められたままになった。だが、後悔はない。他の三人はあっちに付くらしい。人間の恐怖を味わったはずなのに、目先の不確定な利益に手を伸ばすなんて馬鹿げている。
外の世界への扉は閉じられたまま、座り込む。だが、私は信じている。いつかきっとインベーダーがここにきて、私を出してくれるはずだ。
宇宙人残り29人 扇動者70億人
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