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東京いんべーだーず  作者: 鯖鮨 握
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第四十二章 裏切者

 雷の音が遠くから聞こえる。きっともうすぐ雨だ。東京掃討終了から一月が経とうとしていたが、東京以外の四か国では宇宙人たちが脱走してしまった。日本側は宇宙人とコミュニケーションを取れるので、逃げるように指示したなどと根も葉もない憶測が向けられている。非常に面倒だ。

 宇宙人なんで逃げるんだ。命を助けたというのに。そりゃ各国の要求に我が国が逆らえなかったという内情もあるが、何も逃げることは無い。殺されるために逃げるようなものだ。知的生命体と聞いていたが、思いのほか知能が低いらしい。

 毎日、各国と野党から責められて半ばノイローゼ気味だ。煙草をため息と一緒に吹かしても現状は変わらない。それどころか日に日に悪くなっていく。国会前の宇宙人解放デモは収まっていない。元々高くない支持率が宇宙人虐殺総理なんて名前が付いたせいで余計に下がった。宇宙人が人を殺したら、処分しろというくせに、宇宙人を殺したら怒る、なんて理不尽で自由奔放な生き物だろう国民という生き物は。聞こえてくる解放しろコールのバリエーションも尽きてきたのにデモ隊の人数は増え続けている。

 原因の一つかもしれないが、今では渋谷の一部で宇宙人をモチーフとしたグッズが売り出され、あの巨大なクジラらしき生物の墜落場所は観光名所と化している。都合の良い生き物だ。

 「総理、こちら専門家がまとめた宇宙人逃走のリスクの可能性についての文書になります。お時間がある時に目を通しておいてください。」「分かった。」思ったよりも分厚い資料で眉間にしわが寄ってしまう。東京のエイリアンたちは無事だが、もし今後、そういう事件が起きてしまったら質問攻めにあう、それはごめんだ。

 密猟者に乱獲されブラックマーケットで売買され暴力団などの資金源になる。血液による動植物の環境的影響。一部市民への傷害及び殺人行為、最後の一匹が人質に取られ身代金が要求される可能性。学者というのは面白い。言われたら確かに納得はできる条件だ。まあ、答弁の足しにはなるはずだ。いざ奴らが脱走すれば警察を配備して、自宅避難を勧告し、リスクを下げるしかないだろう。新しい煙草に火をつけようとした時、総理秘書が駆けこんできた。「総理、宇宙人の一人がお会いしたいとのことです。」「脱走した個体か?」「いえ、そんな報告は受けていません。恐らく、連行し損ねた五体のうちの一人でしょう。左腕がありませんでした。インベーダーの作戦を伝えに来たとのことです。」呆れて思わず笑ってしまった。「作戦?たった35名で何が作戦だ。」「ですが、宇宙人とは一応、同盟関係にあります。話だけでも聞かなければ今後の心象に関わるかと。」「分かった。通せ。」現れたエイリアンはモジュールがあるはずの左腕を失くしていた。

「あなたが、総理大臣か。インベーダーと話したんだな。アイツは危険だ。」「なぜだ?各国の脱走の事か?探し出して捕獲するだけのことだ。」私の話をさえぎってエイリアンは喋り出した。「各国の原子力発電所が狙われている。脱走した連中は原子力発電所を爆破して、この星ごとお前らと心中しようというつもりだ。」思わず心拍数が上がった。「何?」「予想外だったろう?お前ら人間が我々を侮っていることを利用した計画だからな。」専門家のリスク予測よりよほど危険な存在らしい。

 「なぜそれを伝えてくれた?君だってエイリアンだろ?」「地球を救いたいからだ。私を助けてくれた少女はアイツに殺された。アイツは危険だ。止めたいんだよ。あの子の母星を救いたいんだ。」嘘を言っている様子ではなかった。「必要なのは?」「各地への自衛隊の派遣と、各国への連絡と東京の仲間の解放だ。仲間と一緒に止めに行く。説得は俺がする。」交渉している時間は無かった。「分かった。すぐに車を手配しよう。防衛省にも連絡しよう。」なぜ私の代ばかり、こんなことが起こるのだろう。うんざりだ。宇宙人との遭遇と、宇宙人によるテロ、ばかげている。だが、嘆く時間もありはしない。ネクタイを締め直し、ドアを開けた。

 

宇宙人残り30人 人質70億人


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