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東京いんべーだーず  作者: 鯖鮨 握
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第四十一章 ハンドルを握る

 今朝のニュースは海外の動物園からエイリアンや動物達が逃げ出したことと宇宙人への発砲事件で、もちきりだった。各国はさらに警備を厳重にし、一般公開は一時中止、日本も宇宙人管理国家として責任を問われ、海外に自衛隊の一部を派遣し宇宙人を捜索する可能性も出ている。死者がまだ出ていないのが救いだが、動物たちが脱走した地域は、危険な動物達が捕獲されるまでは自宅避難が余儀なくされた。

 日本の自衛隊が来たところでどうにかなるのだろうか。他国のことながら、宇宙人たちを我々は軽く見過ぎていたのではないだろうか。今更彼らを警戒しても遅いのかもしれない。人類が彼らの事を知らない割に、彼らは人間の事を知ってしまっているのではないだろうか。そう思うとあの可愛い見た目すら、高度な知性を隠すための擬態にさえ思えてしまう。

 我々は研究者として、彼らに何ができるだろう。つい考えてしまう。日本には彼らの言語を操る研究者までいるそうだが、我々にはその能力は無い。まだ、実験を続けるしかないのだ。各国の下、宇宙人を保護すると言えば聞こえはいいが、実質彼らから自由を奪っているのだ。実験もしていいのだから、実質モルモットとして飼い殺しなのは明白だった。

 濃いコーヒーを淹れて眠い目をこすりながら今日も彼らのブースへ向かっている。いつもいるはずの警備の人間がいない。トイレにでも行っているのだろうか。あとでクレームでも入れておいてやろう。そんな軽い気持ちは腰に突きつけられた銃口で一気に重くなった。「動くな。」かわいらしい声だが、銃は本物らしい。「この距離なら外さない。動かないでくれ。仲間の所に連れて行って欲しい。」どうやら宇宙人らしい。動物園から逃げた宇宙人だろうか。それにしては距離が遠すぎる。私はゆっくりとゲート開けてブースを目指した。監視カメラがあるのに反応が無いということは恐らく、警備員たちは喋れない状態か死んでしまっているのだろう。随分手際のいい宇宙人だなと思い、歩きながら質問を投げかけた。「警備員たちは?」「気絶している。助けを呼んでも無駄だ。人間が通れない場所もこっちは通れるんだ。最初にカメラ室を潰させてもらった。」「思った通りだ。君たちは十分人類の脅威になりうる存在なんだな。」声に怒気を込めて宇宙人は答える。「お前らが仲間を殺しまくったからだ。」引き金を引かれる前に案内を終えないと警備員たちと同じ目に合うのが目に見えていることもあり、仲間たちの閉じ込めた部屋まで連れて行った。「鍵を開けろ。」開けると、すぐにエイリアンたちが出てきた。再会を喜んでいるようだが、言語が理解できないのが悔やまれる。エイリアンたちに縛り上げられ、遠目で去っていくエイリアンたちを見ていた。明日にはきっと、誰かが助け出してくれるだろう。そう思って冷たい床で眠りについた。

  

 もっと暴れると思っていたが、聞き分けの良い人間もいるらしい。仲間たちを連れて先に進む。最終作戦の内容は賛成だった。人間はすべからく滅ぶべき、そう思った。問題は原子力発電所までの距離と移動手段だ。そもそも外にいる警備の連中は始末できていないので、逃げ回る必要がある。だから方法は、考えていた。五人いれば人間のあの車を運転できるのではないのだろうか。仲間の中には反対したものもいたが、現実的な方法として最終的には頷いた。警備員から奪った鍵が、役に立つ時が来た。車に全員で乗り込み鍵を回す、エンジン音に思わず胸が高鳴った。これが人間の車。アクセル担当とブレーキ担当と視点担当は決めたが、このままでは出入口の警備にはばれてしまう。そうだ、警備員の遺体を使おう。警備員の遺体を運転席に乗せ、さも生きている人間が運転しているように見せる。

 そこからは大変だった。遺体を引きずり、剥いた目を隠すためにサングラスをかける。ゆっくり車を動かし、出入り口のガードの前までたどり着いた。ガードがゆっくりと上がっていく、早く、少しでも早く開いてくれ。そう願っていた。足早にゲートを抜け、長い道を進む。緊迫感が静かに安堵感に変わっていった。遺体はこのまま利用しよう。そんな甘い考えはすぐに現実に打ち砕かれた。前後から赤い光の大群が、次々と追ってきた。どうやらばれてしまったらしい。敵の車両は大量。道は直線で逃げようがなかった。

その時、一人が呟いた。 「Uターンしたら皆降りて茂みに隠れるんだ。俺はこのまま一人でアクセルを踏んで奴らに突っ込む。」「死ぬ気か?」「作戦完遂のためだ。一人でも生き残りは多い方が良い。お前は俺たちを助けてくれたからな。長生きしろ」強い口調だったが、ハンドルを握るその手は震えていた。

 反対する間もなく、奴はハンドルを回して仲間を降ろした。サイレンの音はすぐ近くに迫っていた。走り去りながら振り返ると、猛スピードでパトカーに近づく車が見えたが、私たちは衝突音が聞こえても発電所へ走り続けた。今までの仲間と一人の仲間の死に報いるために。


宇宙人残り30人 傍観者70億人


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