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東京いんべーだーず  作者: 鯖鮨 握
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第三十二章 窮鼠の一撃

 アイツだ。東京で見たことがある。アイツが仲間を殺すのを。まるで虫でも潰すみたいに、いともたやすくあの棒を振り下ろして命を奪い去った。無力な私は何度も見ては怯えて逃げた。それが今、ここにいる。恐らく先ほど減った生存反応もアイツが殺した仲間だろう。

 始めは恐怖しか感じなかった。圧倒的な存在に。自分の無力感に。でも今は違う。人間は死ぬ。いや、正確に言えば人間も死ぬのだ。殺せば死ぬ。当たり前の事実を遺体と暮らして実感した。きっと、あいつだって殺せば死ぬのだ。だから次に会ったら殺すと決めていた。

 「本当にやるんだな?」仲間の一人が心配そうに問いかける。「ああ、奴をここで仕留める。仲間の仇を討つんだ。」「全く、せっかく合流したってのに。俺たちは奴が来たら逃げるぞ。」「それで構わない。奴は信号を出している俺を追いかけてくるはずだ。」

 作戦は決めていた。あえて集合信号を出し、奴を建物に引き寄せる。奴が現れたら仲間たちとは反対方向に俺は逃げる。その過程で移動しているトラックの荷台に乗り込む。この時間帯は定期的にトラックが通り、狭い道を通ることになる。少しの間だが住んでいたこともあり、トラックの移動タイミングや、交通網は大まかにだが、把握済みだ。

 後は、奴を待つだけ。頭の中を作戦のイメージが駆け抜ける。成功すれば今までの仲間の仇を討つことができるのだ。下から階段を素早く上る音が聞こえる。逃げようとする仲間を私は諫めた。まだだ、奴にこちらの姿を見せなくてはいけないと。

すぐ後に勢いよくドアが開いて奴は飛び込んできた。仲間の一人が殴打されたが、慌てて皆で逃げ出した。奴はきっと追ってくる。集合信号が出ている私を。

住んでいたこともあり、ここの道は大まかに把握している。一方通行の道も。トラックの位置も。そこまではどうにか逃げ切らなければいけない。パトカーのサイレンが聞こえる。もしかしたら私を探しているのかもしれない。塀の裏、柵の隙間、あらゆる手段を使ってそこを目指す。

ようやくたどり着いた。トラックの荷台に飛び乗り、隠れる。早く、早く動いてくれ。そう願わずにはいられなかった。心臓も脳も汗をかいているのが分かる。その時、エンジン音がした。恐怖が安堵に変わる。トラックが動き出した。

すごい勢いだ。振り落とされないようにしっかり掴む。このままだ。このまま、奴を殺してくれ。目も開けられない風圧の中、大きな衝突音と一緒に私の体は宙に舞った。目を開けると人だかりが見えた。手が車に潰されて動けない。奴は死んだのか。それも分からないままで。死はそこまで迫っていた。「ダメだ。死んでる。」人間の声が聞こえる。どうかそれが、私じゃなく、奴への言葉でありますように。そう思いながらゆっくり目を閉じた。


宇宙人残り39人 仇70億人


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