第二十九章 真夜中の来訪
「これだけ金をかけてもダメか。」佐伯は焦っていた。飲料の材料となる宇宙人に逃げられ、その後すぐに避難勧告が出されたため追うことができなかった。内部に残った人間や自衛隊の一部を雇って捜索したが、成果はゼロだったのである。宇宙人をいぶり出すため、住宅や下水の爆破などを行ったのに、死んだのは人間ばかり。もったいない。倹約家の彼が抱く感情はその程度の物だった。
ノックの音がする。入るように促し、ドアが開いても誰も入ってこなかった。「誰だ?出てこい。」次の瞬間、衝撃と共に足は平衡感覚を失い。その場に倒れる。老体には痛みは厳しかった。堪えながら目を開ける宇宙人が二人立っていた。ニュースの言っていることは間違いではなかったらしい。宇宙人は危険な存在だったのだ。復讐のつもりなのだろうか。佐伯は手足縛られ口を塞がれた。
一人が刃を振り上げ、私を殺そうとしている。思わず目をつむり、脳内を走馬灯が駆けていく。音がした。だが痛みは感じなかった。「私の言葉が分かるか。」声が聞こえた。静かに目を開けると宇宙人がもう一度さっきのセリフを繰り返した。宇宙人が話したことに驚愕した。まさか話せるなんて。奥にはもう一人が倒れている。佐伯が頷くとエイリアンはもう倒れた仲間を指して続けた。「彼は君を殺そうとしていた。だから助けたというわけじゃない。単刀直入に言おう、あの施設の暮らしに戻してくれ。」エイリアンは頭を下げた。「もう外の世界は沢山だ。最低だ。あんな危険なところにいるなら、毎週血を抜かれた方がましだ。もし私の願いを聞いてくれるなら君を殺さない。」 すっかり厭世的になっていたのだ。あの施設の暮らしが気に入っている個体がいたとは、非常に意外だった。佐伯が頷くと、手足の縄と口の布が外された。佐伯は静かに握手を求め、宇宙人もそれに応えた。契約成立だ。
警備を呼び、宇宙人が入り込んだ不手際を怒鳴り散らした後で死体を処分させた。捨てるなんて勿体ないことはしない。きれいな状態の遺体は珍しい。剥製にして金持ちに売りつけるのだ。「先ほど了承はしたが、あの施設は東京だ。東京は今閉鎖されている。使える状況じゃない。だからしばらくはこの家のゲストとして過ごしてもらいたい。」去り行く仲間を見つめる彼に佐伯は言った。彼はうなずいた。
だが、佐伯の頭ではもう一つ別の考えが巡っていた。どうやってこいつを死んだことにしようか。どういう理屈かは分からないが生存している数が分かってしまうのだ。こいつが最後の一匹になった時、東京だけでなく、全国を探し始めたら?それで終わりだ。
でもそれはそれで良いのかもしれない。地球に残った最後のエイリアン。いかにも価値がありそうだ。高値で売れそうだ。高揚感を紅茶と共に飲み干して、目の前の札束の山になる生物を見つめた。ただ死なせるにはもったいない。
宇宙人残り42人 金の亡者70億人




