第二十八章 いつか来る終わり
ある日、人間たちが街から消えた。バスに乗せられていく。数日前から人間たちの話題に上がっていた東京封鎖の影響だろうか。我々を危険な存在として、民衆を避難させる計画らしい。人間たちが消えたおかげで、今までと違い我々は怯えずに済んだ。
だが、そんな平和も長くは続かなかった。ある日、武装した人間たちが地域を調査するようになったのだ。恐らく、我々を探しているのだろう。持っている武器からしても対話をする気はないらしい。我々のリーダーを撃ち殺したのと同種の銃という武器だろう。
私たち5人は星に帰るつもりだった。ここには我々の居場所はないと思ったからだ。星も大きく変わってしまった。このままでは私たちの母星のように滅びてしまうことは目に見えている。帰って別の星を探した方がましだ。そう思っていた。だからこそ、私たちは宇宙船を探していたのだ。死んでしまったクジラの代わりになる船、地球で言うロケットというものだ。
だからこそ、武装した人間たちが来ても私たちは潜んでいた。その日が来るまでは。地下に潜んでいると地上から轟音が響いた。どうやら地上で爆発が起こったらしい。爆発の音は次々と響き崩壊音が聞こえた。人間たちはこうまでして、私たちを殺したいのだろうか。そう思うと恐ろしく、そして悲しくなった。
地価が崩れそうになり地上に出ると周辺から煙が大量に上がっていた。自分たちの家屋を破壊してまで我々を殺そうとしているらしい。爆発は止まらなかった。私たちは新しく隠れる場所を探すために街を走った。「どこに逃げる?」仲間の一人は焦っていた。「逃げる場所なんてない。どこでだって爆発するんだ。」恐るべき地球人。我々全員がそう思っていた。走っていた私たちに銃声が響いた。仲間の一人が撃たれたらしい。後ろから聞こえてくる悲鳴に耳を塞ぎながら私たちは走り続けた。
ようやく隠れられそうな古い木造の建物を見つけて入り込むころには仲間は三人まで減っていた。「誰か…いるのか?」か細いが奥から人間の声が聞こえた。人間はこちらに気づくなり「殺すのか?俺を…」そう呟いた。「違う。お前ら人間こそ、そこら中、爆破してそこまでして私たちを殺すのか?」私が喋ったことに余程おどろいたのか、人間はうつむき「違う。」そう小さく呟き息絶えた。
この仕業が人間でないのならだれの仕業なのだろうか。我々の仲間がこんなことをしたのだろうか。色んな想像が頭の中を駆け抜けた。「これからどうする?きっとこんな状態じゃ、宇宙船なんて見つけるどころか、生きていくのでやっとだ。」仲間の一人がついに本音をこぼした。そうだ、もう私たちは帰れない。そんなこと、あの日この星に墜落してから解っていたことだ。でも希望を捨てたくなかった。
人間を殺すのか?人間と生きていくのか?そのどちらも不可能なのだろう。我々には死という終わりが無かった。だが、この地球では命を奪われて終わる。そんな最期がきっとこの先待っている。恐らく必然だ。人間を殺せるだけの武器も知恵も我々には無い。対話を試みようにも、兵士たちに撃たれて死ぬのがオチだろう。
この星に来て初めて味わった死への恐怖と生への執着を。これが生命としての自然ならば、殺さなければ死なない私たちは歪な生命なのかもしれない。そう思った。それでも、どんなに歪でも生きていたい。兵士の遺体を横に、夜は確実に更けていった。
宇宙人残り43人 生存者70億人
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