第二十六章 愛玩
私と少年は友達だった。あの日、仲間たちと離れ離れになって、その後少年と出会ったのだ。土砂降りで体温を失っていく私を彼は拾ってくれたらしい。目を覚ました私は温かい毛布に包まれていた。彼の両親も私がここで暮らすことを認めてくれたようであった。
「ケイジ」それが彼の名前だった。私が初めて彼の名前を呼んだ時、彼は少し驚いていたが、微笑んでくれたのを覚えている。そこから私は沢山言葉を覚えた。楽しく暮らしていた。いや、楽しく暮らすことで目を背けていたのだ。減っていく生存反応の数値から。彼らに申し訳ないと、自分は幸運だと思っていた。人間と私たちは分かり合えるはずだった。その時が来るまでは。
その日のニュースにケイジも家族も見入っていた。宇宙人が少女を殺したというニュースだ。家族が私を見る目を変わった。敵対心ではない。憐憫の目だった。ケイジは「私を宇宙人全員が悪いわけじゃない。モチタと俺だって仲良しじゃないか。悪い宇宙人かもしれないけど、少なくともモチタはそうじゃない。」そう言ってくれた。
でも、家に警察が来てしまった。どうやら誰かが通報したようだ。宇宙人をかばっても犯罪になるらしい。私は家族を何よりケイジを巻き込みたくなかった。だからこそ警察が来ると同時に窓から逃げ出した。これできっと、大丈夫なはずだ。
道を当てもなく走っていた。遠くからサイレンが迫ってくるのが聞こえる。私の命運もここまでなのか。いや、あの日とっくに亡くした命をケイジのおかげで永らえたのだ。十分、もう十分だ。サイレンの音はもうそこまで来ている。
発砲音の直後、右腕が熱くなった。その次は腰、もう歩けなくなった。その場にうずくまって命が消えていくのを悟る。ああ、せめて手紙だけでも友達に残していけば良かった。
結局、部屋からモチタは見つからなかった。きっと僕らに気を遣って逃げてくれたのだろう。ごめん、守れなくて。俺がモチタの飼い主なのに。最後まで守れなかった。モチタが見つからなかったおかげで警察は去っていた。今からでも遅くない、モチタを探しに行こう。両親の反対を振り切って玄関を飛び出した。サイレンの音を追っていると遠くから数回破裂音がした。パトカーが集まっている所につくと、遠巻きにモチタの遺体が見えた。「モチタ!」気づけば叫んでいた。大事なペットを撃ち殺した警察を許せなかった。警察に止められテープを超えることはできなかった。モチタを乗せたパトカーが遠くに去っていく。ああ、モチタ。俺はきっと忘れない。たった数か月だけど、うちに宇宙から来たペットがいたことを。
宇宙人残り45人 友人70億人
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