第二十四章 インベーダーシンドローム
部屋の隅でガタガタと震えながら仲間がさらわれていくのを見ていた。生存反応が減っていない所をみると、どうやら殺されてはいないらしい。恐らく麻酔銃という奴だろう。侵略者を名乗ってみても、敵は強大だ。恐ろしいほどに。
私以外の仲間は全員連れていかれてしまった。脱獄作戦は白紙、いやマイナスの状況に陥ったらしい。どうしようもない。絶望と諦観。できることは、あの建物に行ってもう一度彼らを連れ出すことだけ。だが、それをできるだけの能力も作戦も私には残されていなかった。
集合信号を頼りに仲間を探し出し、新しい仲間と一緒に助けに行く。それしかなかった。信号の方角を目指し駆けだした私が辿り着いたのは民家だった。何ということだ。俺と同じ考えを持った奴がいたとは。ドアを開けて入ると、仲間が迎えてくれた。だが、その奥には人間がいた。「大丈夫だったんだね。良かった。」その人間は私に告げた。見た所、人間が宇宙人を庇っているようだ。正直今まで襲われ殺されてきた人間たちを見る限り信用はできなかった。奴には私たちが札束に見えているのではないか。そう思えて仕方ない。
「君はどこから来たんだ?」奴の傍らにいる仲間が話しかけてきた。私は仲間がいた話や、自分以外が捕まった事を伝えた。「そうか、大変だったんだな。大丈夫、ここは安全だ。」彼はそう言ったが、私にはそう思えなかった。「人間がいるのにか?」「気持ちは分かる。でもあの子は特別だ。俺たちに危害は加えない。」彼はそう答えた。
「仲間を助けたいんだ。私だけが助かってしまった。」私は彼に嘆願した。「仲間が捕まった施設、そこはどういう施設だった?教えてもらえるか?」「私も詳しくは知らないが、私たちの体液を使って何か使っていたらしい。」それを聞くと仲間の表情が少し変わった。「当たりかもしれない。」彼はそう呟いた。彼と人間は話しているようだ。彼女はこちらに顔を向けて「ホント?」と尋ねてきた。「ああ、ホントだよ。」隠しておくつもりだったが、思わず喋ってしまった。「あなたも喋れるの?映画館に隠れていたとか?」「私は図書館で、言語や君たちについての知識を得た。」「そっか図書館か。」彼女は少し驚いた。実際、彼女は安全なのだろう。表情や雰囲気からもそれが伝わってきた。
そこからは作戦会議だった。助け出しても黒服の連中が後を追いかけてきてしまう。奴らが追跡できないようにする必要があった。それには鉄パイプの男を利用するのが最善手だった。彼は宇宙人を殺すのを邪魔するものは人間であっても殺す。そういうタイプの生き物だ。彼を施設に誘導してしまえばいい。そして、その混乱に乗じて中に潜入、仲間を助け出す。
囮は彼女が引き受けてくれるとのことだった。奴から宇宙人を助け出したことがあり、そのせいで恨まれているらしい。作戦開始はいつにするかそう思っている間に強いノックの音が響いた。彼女が玄関を見に行くと、どうやって突き止めたのか。鉄パイプの男が来たらしい。それともう一人男がいるようだ。そしてその男の手元には我々の仲間の腕があったらしい。恐らく腕のモジュールを使ってここの信号を突き止めたのだろう。
彼女は私たちを隠そうとしたが、作戦をこのまま実行するしかない。このままでは遅かれ早かれ鉄パイプの男に皆殺しにされるのがオチだ。信号を出した彼女と話せる仲間は彼女と一緒に逃げる準備をし、他の仲間は全員いったん窓から逃がし、そして私は仲間の場所を目指すために駆け出した。ドアを一気に開けて彼女が駆けていく。男たちは走って彼女を追った。
私が施設につくと既に騒ぎは起こっていた。男が暴れ黒服の相手をしているようだ。もう何人か仕留めているようで、あたりには人間が転がっていた。私は陰に潜んで施設内に潜入した。残っていた警備の連中も玄関に走っていく。私には気づかない。いや、それどころではないようだ。
地下までたどり着くと仲間を見つけた。枷を外して連れていく。外に出てもこれだけの人数だ。油断はできない。アジトの場所を知っているメンバーを起点に四名ずつのチームに分けてアジトを目指すように指示した。私はあの人間のいるところに一旦、帰らなければいけない。それはあの人間を殺すためだ。恩を仇で返すようで胸が痛むが、私はやはり人間を信用できなかった。彼女が良い人だとは知っていた。分かっていた。でも我々を見られた以上、消すしかないのだ。
家に戻ると作戦開始時に逃げた仲間と彼女が戻ってきていた。彼女は涙を流していた。どうやら一緒に逃げた仲間がパイプ男に殺されたらしい。好都合だ。これで彼女と他の仲間は意思の疎通を図れなくなった。「仲間は助けられた?」彼女は私に尋ねた。私が頷くと、よかったと言って笑っていた。良い人間というのは確かに本当らしい。死んだアイツが話せるのもあると思うが、彼女はかなり悲しんでいた。
私の胸は痛んだが、仲間のエイリアンにこう告げた。「アイツは我々を引き渡すつもりだ。奴は一か所に私たちを集め、引き渡すのが目的だった。だが、このままみすみす引き渡されるわけにはいかない。アイツを殺すぞ。」私の言葉に戸惑う仲間もいたが、皆一度は人間に襲われたことがある連中だ。その気になるまで、時間はかからなかった。
彼女が眠ったところを全員で抑え、私が包丁で首を切った。彼女は一瞬悲しそうな眼をしたが、すぐにその目から生気は消えていった。床一面に温かい血が広がる。仲間たちは互いにたたえ合ったり、悲しそうに彼女を見つめたりしていた。だが、またいつパイプ男たちがここに現れるか分からない。私は仲間たちを連れ、元のアジトに戻る準備をした。外に出ると酷い雨が待っていた。自分の犯した罪に耐え切れず、雨に紛れて涙が出た。
宇宙人残り47人 善人70億人
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