第二十三章 山羊の行方
脱獄作戦は思った以上に上手くいった。協力してくれるエイリアンによると、集合信号と呼ばれるGPSのような通信機能でお互いに場所を把握することができるらしい。その信号が出ている場所があるとのことだ。
まだ両親を巻き込んだ組織が所有しているエイリアンとは限らないが、続けていけばいつかは辿り着くはずだろう。エイリアンが危険だの、人間を操るだの、根も葉もないデマをまき散らす輩もいるが、私には到底そう思えなかった。生き物を鉄パイプで叩き潰す人間の方がよっぽど危険な生物に思える。人間が悪用した結果、私の家族が死んだ。そう思える程度には、私は彼らのことを信用していた。
信号の座標に近づくとどうやら国の研究機関、その地下に彼らは捕まっているようだ。恐らく、実験などが行われているのだろう。「研究機関なんて、入れないよ。どうするの?」私は同行者のエイリアンに尋ねた。「スパイ映画で見たように通気口やら排水口を使う。君は表で騒ぎ立てて警備の目がこちらに向かないようにしてほしい」一体どのスパイ映画だろうか。そんな私の疑問をよそにトテトテと彼は建物に走って行ってしまった。
どうやって警備の目をこちらに引き付けよう。拳銃を持っている所を見るとどうやら警官が警備にあたっているらしい。危険人物を演じればエイリアンが助かっても私が閉じ込められてしまう。そうだ、便利な話題があるじゃないか。私は警備員に走って息を切らして近づいた。「警備員さん、大変!宇宙人がさっきこっちにいたの!」警官はすごい勢いで私が指した方向に走っていった。事情も聞かずに私を置いていくなんて、警官的にもエイリアンは重要な存在らしい。そうこうしているうちに入口脇のダクトから次々とエイリアンが出てきた。協力者がいると伝えてあったのか、私に怯える様子はないようだ。最後に協力者が出てきた。「これで全員だ。」
家への退却を始めて安心した矢先、足音が聞こえた。まずい先ほどの警官だろうか。残念ながら私の予測は外れた。パイプを持った男が猛烈な勢いでこちらに走って迫っていた。あの男だ。あの時、エイリアンを虐殺した男だった。「皆を逃げさせて。あの男はエイリアンを殺すんだ。」私の伝えた言葉を速やかに伝えたのか、彼らは散り散りになって逃げていく。私も狭い裏路地に飛び込んで一目散に逃げていく。あの男が私を覚えていたら腹いせに殺されるかもしれない。そんな恐怖で頭がいっぱいだ。
息を切らして家に着くと、続々とエイリアンたちも到着していく。どうやら私の家の場所も伝えていたらしい。始めは安心していた。だが、到着の足が一人また一人と途絶えた。そしてついに「生存反応が一つ消えた。」彼が小さく呟いた。助けられなかった。恐らくあの男の手にかかったのだろう。「ごめん。」「いや、これだけ助けられた。十分だ。私は君の家族の件にあの施設が関係ないか、彼らに話を聞いてみるよ。」彼は冷静だったが、その声は震えていた。
私はその日、初めて人間という生き物を心の底から憎いと思った。次は私が勇気を出すはずだった。だが、足りなかった。代わりに涙がたくさん出て止まらなかった。
宇宙人残り48人 臆病者70億人
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