第十九章 利害の一致
言葉の壁というのは私が思っているよりも、ずっと厚かったらしい。家族をこんな目に合わせた奴らから宇宙人を盗む。そのためには、どうするか。宇宙人を探すしかない。その日の私はそう思っていた。
宇宙人を見つければ、それを探している人間だって自ずと見つかるはずだ。通夜と告別式、納骨を終えひと段落付いた私には、学校に行くまで時間があった。担任や他の教師も気を遣ってくれており、しばらく休んでも問題ないよとのことだった。
宇宙人が良そうな路地の裏や死角になりそうな道を探していると、塀の向こうから不穏な会話が聞こえてきた。「どけ、そこの宇宙人を殺してやる。」男が尋ねる声が聞こえた。「あんたが、エイリアン殺しか?」「そうかもな。自覚はねえよ。勝手にそう呼ばれ始めただけだろ。」「動物園で人間も殺したのもあんたか?」男は答えなかった。「あんたみたいなのによ~宇宙人ガンガン殺されちまうとさあ、賞金の単価が安くなっちまうんだ。だからよ、生け捕りにしてくんねえか?」男は声を荒げた。
「なぜ俺が奴らを殺したと思う?奴らが人間を操るかもしれないからだ。だから俺はお前たちを守るために殺してるんだ。」もう一人の男は嘲笑うように言った。「バッカじゃねえの。そんなことこいつらにできるならよ。俺たちに捕まらないだろ。だから殺すなよ。こいつら二百万だぞ。」「聞く耳を持たないのか。そうか。」その声が聞こえ終わるかどうかの時に鈍い音と、男のうめき声が聞こえた。私は塀を飛び越えた。そこには鉄パイプを持った男と、頭を割られた男。そして二匹のエイリアンが捕まっていた。
男は私に驚いたようで唖然としていたが、宇宙人の一匹に向かってすぐ鉄パイプを振り下ろそうとしている。このままでは、殺されてしまう。家族の命を間接的に奪った生き物に私は意外な事に同情していた。男の脇を走りエイリアンを一体抱えて猛スピードで走る。後ろから男の怒号が聞こえたが、走り続けた。
口の中が鉄の味になり、怒号も聞こえなくなったころ私はエイリアンをリュックにしまって家に帰った。家でエイリアンを出して、拘束を解いた。エイリアンはこちらを怪訝そうに見つめている。助けてやったというのにずいぶんな態度だ。
「私、あなたの敵じゃない。」指を自分とエイリアンに指しながらジェスチャーでどうにか会話を試みる。当たり前のことだが、日本語が通じるわけがない。だが、なんとなくニュアンスだけでも伝わってほしい。学生の稚拙な試みであることは主観的に見ても客観的に見ても明白だった。
だが彼は突然腕にある機械を見つめ、泣き出した。私の感動的なスピーチ、もといジェスチャーが伝わったわけではなさそうだ。でもこの訳の分からない可愛い生物に同情してしまった私は、彼にちくわを進呈した。ちくわを一口齧ると気に入ったようで、全て平らげてしまった。
「私、あなたの敵じゃない。」私はそのジェスチャーをもう一度行った。「はいはい、もうわかったよ。ちくわごちそうさま。ありがとうね。」思ったより明朗にしゃべるエイリアンにキレたい気持ちとジェスチャーを何度もさせられた羞恥で頭がいっぱいになった。
「あんたは敵じゃないんだな。初めてだよ。敵じゃない地球人。」「言葉は通じるんだね。」宇宙人は笑いながら答えた。「まあ、あれだけ長い間隠れてたらな。なんとなく喋れるようにはなるさ。映画館とかに潜んだのが良かったのかもな。」なるほど、潜入している間に言葉を身に着けるなんて結構賢いらしい。
言葉が通じることが分かったので、私は本題を切り出した。「あなたたちの血液を使って商売をしている奴らがいるんだけど、仲間がさらわれている場所に心当たり無い?」「無いな。」驚くほど早い答えだった。「でも、仲間がいる場所ならわかるぞ。全員じゃないが。」もしかしたら、その中に奴らに捕まっている個体がいるかもしれない。
「場所が分かるなら一緒に助けに行かない?」「行っても良いが、あんたなんで俺たちを助けてくれるんだ?同情だけじゃないんだろ?」私はゆっくり答えた。「家族がね、あなたの仲間をさらったやつのせいで、ひどい目にあったの。だから同じことできないようにするため助けたいの。」エイリアンが少し笑って「分かった。動機があって安心した。同情だけであんな危ないところ助けてもらったんじゃ、恩を返せないと思ってたところだ。良いよ。一緒に行こう。」言葉の壁は向こうが乗り越えてくれた。その先の壁もエイリアンが越えてきてくれたらしい。次は、きっとこちらが勇気を出す番だ。
宇宙人残り52人 協力者70億人
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