第一章 ノンフィクション
宇宙人はいる。幼い頃は皆そう言っていた。
でも年月が経つにつれてその人口は減っていき
高校を超えて言っているのは私だけになってしまった。
そして、私も気づけばそれを疑い忘れてしまった。いや忘れたふりをした。
だが、私は正しかった。七月七日奇しくも七夕の日、夜九時にそれは唐突にこの星にやってきた。
ラーメン屋で流れている、お決まりの結末の時代劇の上に表示された緊急速報がそれを物語っている。
“人工衛星に謎の巨大生命体が衝突!残骸が日本海に墜落するので注意”
その文字にどれだけ心が躍ったか知れない。
「謎の巨大生命体…いんのかよ、そんなもん」
「どうせどっかの国の兵器かなんかか、見間違いだろ。」言ってろ酔っ払い。
誰が何と言おうと、大統領と総理大臣が結婚しようと、私が正しかったのだ。
この二十年、馬鹿にされ続け半ば自分でも若干疑っていた宇宙人の存在が証明されたのだ。
そしてそのあとの速報で私はラーメンが残っているのに外に駆け出した。
“謎の生命体に自衛隊が攻撃、渋谷に墜落する模様。付近にいる住民は早急に避難を”
渋谷に墜落?いや行くでしょ?冷静に行くしかないと思った。
私の中の天使も悪魔も満場一致で行けと言っている。
野口を置き店を出て勢いよく駆けだした。
渋谷に近づくと人だかりが出来ていた。
ハロウィンの時よりもよっぽど人だかっている。
実際にいったことはないが、恐らくそうだろう。
謎の生物はすでに墜落していたらしく、巨大な尻尾らしき物が見える。
周囲を機動隊が囲んでよく見えない。警察も一般市民が近づけないように、睨みをきかせていた。
少しでも見えないかと自動販売機に上ってみてみると謎の生物の輪郭がなんとなくわかった。クジラによく似ているようだが、クジラだったみたいなオチは避けてほしい。
宇宙にクジラってそれはそれでロマンがあるけれど、私が希望しているのは宇宙人なのだ。
その時クジラの口がゆっくり開いた。
中から二足歩行の生物が出てきた。周りから叫び声が聞こえる。
宇宙人と聞くとどんな見た目を思い浮かべるだろうか、
灰色の、しわしわの、緑で小さいの、爪とか触手とか危険そうなの…だがそのどれでもなかった。
「かっ可愛い…!」私の口から漏れたのはその一言だった。
アザラシもびっくりの可愛さ、白くてもちもちのボディと丸い手足、つぶらな瞳など
ゆるキャラ同然、いやゆるキャラだろあれは。
「何あれ、可愛くね?」「宇宙人可愛い」「なんかのキャラじゃね?」
野次馬たちも同じような感想を抱いたらしく、次々とスマホで写真撮影が行われた。
フラッシュで眩しそうにしている様もまた可愛かった。
数は50匹以上いるようで、そのどれも愛くるしかった。
並んで踊り出すのかなんて思っていたけれど、そんなことはなかった。
破裂音がした。先頭の一匹が機動隊に撃たれたらしい。
周囲の野次馬も含めて一気にしんとなった。
「馬鹿野郎!なぜ撃った!」「だってあいつら宇宙人ですよ!」機動隊の方から声が聞こえる。馬鹿野郎。私も心の底からそう思った。
先頭の一匹の死を確認すると宇宙人たちは少し怯えたかと思うと叫んで、周囲に散り散りになって逃げだした。
機動隊の方から声が聞こえた「攻撃をしてこない限り撃つな!捕獲しろ!」
警察や起動隊が必死に捕まえようとするが、そのもちもちした肉体のおかげか、彼らはどんどんすり抜けて逃げていく。
助けたい、そう思った時にはもう駆けだしていた。憧れの宇宙人を助けたい。彼らを助けることが英雄的な行為だと一瞬思ったのか、二十年間机上の空論としてあこがれていた存在をこの手に入れてしまいたいという我欲なのか動機は自分でも分からなかった。
気づけば警察の中に潜り込み、エコバックに一匹を収め地下鉄に乗り込んでいた。
周りの人間に気づかれないようにエコバックのジッパーをしっかり閉めて帰路を急ぐ、家にようやく着いた私がエコバックを開けると、宇宙人は酸欠になって死んでいた。
血走った目と折れた手足が痛々しく、エコバックに思わず嘔吐してしまった。
エイリアン殺し、それはそれでかっこよいのかもしれないが、そんなことこれっぽっちも望んでいない。
翌朝、燃えるゴミの袋に収納し、マンションのゴミステーションに捨てた。
あれは宇宙人じゃない。きっとただの人形だ。宇宙人なんかいるわけがない。
ひっきりなしに人形のことが報じているテレビを切って、宇宙人が出てくる映画でも見よう。そうそうこれが宇宙人だよね。あんなの宇宙人なんかじゃない。
宇宙人残り70人 地球人70億人
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