第十八章 ドアの向こう側
手ごろそうな人間をようやく見つけた。通気口に潜入した甲斐があったというものだ。近隣の通気口などに潜入し、各部屋で他の部屋と最も接点が少なく、籠りっきりの部屋を探していた。そいつの部屋をアジトにさせてもらう。そのために。
集合信号を短期間だけ出し、召集をかける。インベーダーをはじめ集まった仲間は俺を含めて6名になった。これだけの人数がいれば手足を4人で抑えて残り2人でとどめをさせる。作戦は以下のようになっている。朝を待って奴のドアのインターホンを肩車で二人が押し、ドアを開けて油断したところを足に突撃して倒し、首にインベーダーがナイフを刺す。成功するか怪しいが現状試せる作戦としては、最善だろう。朝陽がビルの隙間から我々を照らした。決行時間が迫っていた。
動物園にいた宇宙人が行方不明になったニュースで朝からもちきりだ。宇宙人と地球人が一体ずつ死んでおり、監視カメラは鉄パイプを持った男が暴れる映像を捕らえている。犯人はまだ捕まっていないらしい。馬鹿なやつがいると思った。宇宙人を殺して何になるんだと思う。宇宙人に地球人が殺されたり、脳を改造されたりするニュースが無い以上、彼らは我々にとって実害の無い存在なのは明白だ。
そんなことを思いながら二杯目のコーヒーを淹れ終わったとき、インタホーンが鳴った。ネットで注文した商品が届いたのだろう。「はーい。」相手に聞こえないかもしれないのに、言ってしまう。なぜだろう。そんなことを思いながらドアを開けた。そこには誰もいなかった。次の瞬間私は倒れた。いや、倒された。目を開けると、テレビで見た宇宙人が私を取り囲み手足と口を押えられていた。前言を撤回する。こいつら滅茶苦茶実害あるじゃないか。
このまま死ぬのはごめんだ。力いっぱいもがくと、腕にしがみついたやつが、玄関のノブに頭をぶつけた。そいつは倒れて動かなくなった。殺してしまったのかもしれない。宇宙人を殺した場合も正当防衛になるんだろうか。そんなことを考えていた俺の首に小さな刃が振り下ろされた。俺にナイフを振り下ろした奴は泣いていた。
ナイフを何度振り下ろしたか忘れてしまった。仲間が止めてくれて初めて人間を殺すのに成功したことに気が付いた。だが、一人殺すために一人死んでしまった。私の能力が足りないばかりに仲間をまた仲間を失ったのだ。犠牲を全く覚悟していなかったと言えば噓になるが、直面するとやはりつらいものだ。
肩を落としているとインターホンが鳴った。仲間ではないことは明白だった。仲間たちは私に指示を求めるため視線を向ける。だが、ここでドアを開けたり、ドアの向こうの人間を殺してしまえば、ばれてしまうリスクを背負ってしまい。さっき死んだ仲間の犠牲を考えれば、立ち去ってもらうのが最良だった。そのため怪しまれないために私は機械越しに通話を試みた。
「はい?」「隣の者なんですけどもドタバタ音が騒がしいんですが、何かありましたか?」「ごめんなさい。今おじさんとかくれんぼで遊んでて。それでだと思います。静かにしますね。」我々の声音は人間の幼体に近い、言語を身に着ければこのような擬態だって可能なはずだ。「そうでしたか、いえいえ大丈夫ですよ。」そういうとドアの向こうの人間は立ち去って行った。擬態は上手くいったようだ。一ついに我々はアジトを手に入れたのだ。だが、ぼうっとはしていられない。まずは仲間を弔わなければ。
宇宙人残り53人 平和主義者70億人
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