第十六章 壊されたネバーランド
“ピーターパン”それが私の名前だと最近気が付いた。檻に閉じ込めた私を奴らは毎日囲み、何かを話して笑ったりしている。意図や目的は理解できないが、攻撃性が無さそうなので、この状況を私は放置していた。だが、私を指さして彼らが言うのだ。ピーターパンと。そして私はそれが私という個体の名前ということに気が付いた。
そしてもう一人はウェンディという名前らしい。どうやら永遠に子供のままの物語の登場人物の名前からの引用らしい。どうやら、奴らは我々が不老であることを解明しているようだ。その原因は言わずもがな減っていく生存反応と相関があるに違いない。
私たちは徐々に彼らの言語を理解していった。ウェンディと私は檻を分割して徘徊し、彼らの言語に聞き耳を立てる。そして毎晩彼らが去ってから情報を共有した。そろそろこの星の生命体とも意思の疎通が図れそうだが、彼らの言語を私が話すようなことがあれば恐らく騒然としてしまうことだろう。いつか話す必要がある人間にだけ話そうと心に決めた。
だが、その日は早く訪れた。夜いつものように情報共有をしていると、そこに棒を持った男が現れたのである。昼間に来る連中とは違い、攻撃性が高そうなそいつを落ち着かせるため、私は語りかけた。
「何をするつもりなんだ?」男は驚いた顔をして私に問いかけた。「話せるのか?」「ああ、少しだが話せるよ。それで何をしにきたんだ?」男はにっこり笑った。「人間を操るお前らを殺しに来た。」奴が何を言っているのか訳が分からなかった。「私たちが君たちを操る?そんなこと不可能だ。」「口ではどうとでもいえる。」男は聞く耳を持たないようだった。「証拠があるのか?」私の問いかけに男は声を荒げて答えた。「俺は仲間と右眼をお前らに操られた人間にトラックに追突されて失ったんだ。」ウェンディもひるまずに答えた。「言いがかりだ。私たちはそんなことできない。」「じゃあ何か?そいつが自分の意思でパトカーに衝突したと?」
なるほど、こいつは警察なのか。警官は善悪の判断ができると信じていたが、そんなことは無いらしい。ゆっくりと彼の眼を見て返答を続ける「ああ、そうだ。操ったりできるなら、お前をもう止めているはずだ。」私の返答に対して彼はすこしだんまりしていたが、何かを振り切るように答えた。「だとしてもだ。そいつはお前らをさらったんだ。どっちにしてもお前らがいなければ、この星にお前らが来なければ、こんなことにならなかったんだ!」男は持った棒をガラス塀に叩きつけて中に入ってきた。
明らかに逆恨みとしかいえないが、男は我々を追い立てた。振り下ろされる棒を次々と避けていく。「何やっているんだ!」そこに私たちの世話係が走ってきた。だが、男は世話係を殴り倒した。そして踵を返して私に向かって棒を振り下ろした。
何かが触れた気がした。私の隣でウェンディが血まみれになっていた。「逃げろ。」ウェンディはそういうと私を突き飛ばした。私は走った汗と涎を垂らしながら走った。後ろからウェンディの断末魔も聞かないようにしながら駆け抜けた。
私は茂みに隠れ、集合信号を出した。仲間に会いたい。心の底からそう思った。息を切らした私の意識は徐々に遠のいていった。目を覚ますと別の場所にいた。どうやら仲間が連れてきてくれたらしい。仲間の数は数名という所か。私が目覚めたのに気が付き、私に声をかけてくれた。「大丈夫か?」相槌を打つと彼は微笑んで言った。「私はインベーダー、我々を束ねる者だ。」驚いた、私以外にも名前を持つものがいるとは。
宇宙人残り55人 観客70億人
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