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東京いんべーだーず  作者: 鯖鮨 握
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第十五章 血は水よりも濃い

 私は結局、その水を口にしなかった。両親や祖母は健康に良いからと飲んでいたけれど、よくあんなもの口にできると思った。反抗期の娘の自主性を重んじてくれたのか、昔のように無理やり飲まされることはなく、少し安心した。

 私が小さい頃からいつも両親は胡散臭い健康食品を買っていた。中にはもしかしたら、本当に効果があるのかも、なんて小さい頃は思っていたが、本当に効果があるなら全国に流通しているだろうし、他の友達だって知っているはずだ。

 いつからかそういう両親の悪癖に嫌気がさしていた。「宇宙人は不老なんだから、私たちの細胞にも影響を与えて、元気なままでいさせてくれる。」なんて荒唐無稽な事を親が口走っていた日、学校に行って同級生が宇宙人を食べた富豪が死んだのを話題にしていて笑ってしまった。

 愚かしく思った。そしてそういう血が、遺伝子が、自分にも流れていると思うとそれがまた嫌だった。何かを信じたり縋ったり、死にたくない気持ちは分かるが、それを信用するに値するかどうか判断できないものだろうか。

 でも、私は両親や祖母のことは嫌いではなかった。優しかったし、健康食品の購入だって家計に支障が範囲内であれば、悪い趣味のようなものだ。海外でドラッグを趣味にしている人間だっているのだ。健康食品くらい可愛いものだ。

 でも、そんなことは無かった。その日、家の前にパトカーと救急車が来ていた。人だかりをかき分けて家族を探す。「娘さんですか?」警官が私を引き留めた。「落ち着いて聞いてほしい。ご両親とおばあさんが亡くなった。」想像していた返答ではあったが、聞きたくなかった。救急車に乗って病院に着き、家族の遺体に対面した。

 確かに、うちの家族だった。上の空で警官の話を聞いていると、両親と祖母は捕まえた宇宙人を食べたらしい。健康食品よりも実物を食べた方が良いなんて思ったのだろうか。食べて人が死んだニュースだって出ていたのに。そんな恨み言を吐く気力もなかった。親戚がいるか聞かれたり、孤児のための施設やプログラムの説明も上の空で聞いていた。

  そして私に警官は最後に確認してきた。「君は本当にその水を飲んでいないんだね?」「はい。」「宇宙人の体液は人にとって猛毒でね。あの水はその毒を効かなくするように加工しているんだが、当然不老になるなんて効能は無い。まずい水なんだ。」やっぱりか、そんな都合のいい話あるわけないんだ。両親は本当に愚かだ。 

頭の中で親を責める私に警察官は続けた。「でもね、ただの水ってわけではない。宇宙人の体液の依存性だけは残っているんだ。禁止されていないだけで依存性だけの薬物みたいなものさ。他の類似したケースもある。」「じゃあなんでそんな危ない物が売られてるんですか。」答えは単純で淡々としたものだった。「まだ法規制が間に合っていない。水面下で商品を流されると規制しようにも規制できていないんだ。本当に申し訳ない。でも君に聞きたいんだ。ご両親はこの水をどこで手に入れていたか知らないか?」最悪だ。両親は薬漬けになって挙句、致死量の薬に手を出して死んだようなものだ。

でも、私はあの水について何も知らなかった。「すいません、ホントに何も知らないんです。」「分かった。こんな時に質問してすまない。もし、何か思い出したら、警察に連絡を。」宇宙人の血痕がある家には警察や研究機関がいるらしく、私は警察が用意してくれたホテルに入った。ホテルのドアをゆっくり閉める。もっと泣くと思っていた。でも、悲しくはなかった。悲しさや怒りより疑問が残った。宇宙人を利用して商売している人間がいるんだ。

 そいつのせいで、家族が死んだなんて逆恨みかもしれない。お前の両親の自業自得だと、生き残っただけ感謝しろと。でも、そいつのせいだって思いたかった。でも大それた復讐をする度胸や力が自分にないのは分かっていた。せめて、そいつから宇宙人を奪えないだろうか。裏で儲けている人間が、宇宙人の窃盗届なんて出せるわけがない。そもそも国は宇宙人を国で保護、捕獲する存在として位置付けているとニュースでも言っていた。だから私は、あの水を作った奴から宇宙人を盗み出す。そう決めた。コンビニで買った水を飲み干して、私は眠りについた。


宇宙人残り56人 詐欺師70億人


読んでくれてありがとうございます。

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