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~6~ 夢か真実か

 


 ~♪ 「......んあ?」



 朝。スマホに入った着信音で目が覚める。


 この曲は......陸か。と、画面を見る。

 案の定名前は彼のものだった。なんだろう、宿題見せろかな?と、内容を確認する。


『昨日の星乃アリスの生配信みたよな? お前とネトゲ嫁......アリスのSS使われてなかったか?』


 ......。


 うそ?あれで気がつくの?ぽやぽやしていた頭の中が良くも悪くも一気にクリアになる。

 そして最悪の未来を想像し始めた俺は、恐る恐る返信する。


『そうだったか? 写っているキャラが小さくて良くわからんかったけど』


 どきどきしながらさながら恋する乙女のように陸の返信を待っていた。これがつり橋効果か!やだ、陸に惚れちゃう!そんなバカな妄想をして気を紛らわしていると、数分もしない内にすぐに返信がきた。


『そっか。 気のせいなら良いんだけど』

『うん』

『もしあれがお前らで特定でもされたらヤバいかなと思って一応な』


 そうか、確かにそうだ。あれがもしも俺達と特定できたなら......ネトゲ内での所在がわかってしまったら、おそらく大変な事になる。


 何しろアリスは150万人の登録者を抱える大人気VTuberだ。中にはその大きな愛情故に彼女とどうにか接点を持とうと過激な行動にでるファンもいたりした。もはや荒らしとも遜色の無いレベルで。

 他にも有名人には付き物のアンチ、ストーカー、ライバルVTuberの存在等、ネガティブなものは少なくない。


 いや、けれど......あれなら、あんなに片隅に小さく写った二人なら普通はわからないだろう。陸はゲーム内フレンドで俺とアリスのキャラを何度も見ている、だからわかったんだ。普通はわからない......と思う。


『わざわざありがとな』

『うんにゃ。 じゃまた学校で』

『うん』


 そうして俺は学校へと行く支度を始めた。カバンに詰め込む昨日の宿題とアリスのアクリルキーホルダー。頭を軽く指先で撫でながら、彼女の笑顔を眺める。


 この話、彼女に言うべきか......?


 ちゃんと気を付けていかないとまずいよな。もし、ラストファンタジアで特定されようものなら、この幸せなチームやアリスとの日々も崩れかねないのだから。


 けれど......アリスは今までずっと自分の力で、裁量と判断でここまで活動してきたんだよな。危険が及ぶラインはわかっているはずだし......でなければ過去に何度か起こったアンチやファンの暴走は対処できなかった。


 あまり口出して水をさすのは良くない、のか......?




 ◆◇◆◇◆



「やほー!」


 後ろから元気いっぱいの幼なじみの声がした。


「昨日はレイドお疲れ様ー! いやあ、やっぱりあんたのヘイト管理いいねえ! 安定してて」


 一瞬にして彼女の明るい声と笑顔に誤魔化しきれない不安と憂鬱な気分が吹き飛ばされたのを感じる。

 ......タイミング良いよな、この幼なじみは。


「いやいや、そんな大層な事はしとらんぞ」

「そう? ロアさんもヒール楽だったって言ってたよー?」

「マジか! それは嬉しいな......てかお前こそヒーラー慣れてないのに上手かったな」

「頑張ってるからねえ! ほめてくれて、あーりーがーとー! えへへ」


 日夏(にか)はこちらに顔を向け微笑む。真夏の日差しのようにキラキラと輝く満面の笑み。ホントにこいつは......きいいいいっ!か、可愛いじゃない!くやしい!とか言ってみたり。

 そんなアホなリアクションを脳内でやっていると、幼なじみが真顔になる。やべえ、心見透かされたか?


「て言うかさあ......」


 日夏が俺の体をじろじろと見る。やめて、えっち!これ以上あたしから何を奪うつもり!


「四季はいつも猫背だよねえ。 ちゃんとなおしなよ」

「ん? ああ......そういや、毎回お前が言ってくれて気がつくな......」


 俺は言われて姿勢を正す。幼なじみである日夏はいつもこういう観察眼が利く。猫背はみたままだから分かりやすいが、他にも俺の異変を何度も察知してくれて助かったことがあるし。意図してかしてないのか、まあさっきのは出来ないけれど、憂鬱な心を助けられた。


「自分じゃ気がつきにくいからな......まあ、お前がずっと隣に居てくれたら矯正できるかもしれないけど」

「んえっ、な、にゃんて!?」


 思わぬリアクションにビクッとなる俺。にゃんてってにゃんて猫ちゃん?

 幼なじみを見るとジト目でこちらを睨んでいた。心なしか顔が赤い。

 な、なに?なんかヤバいこと言ったか?地雷踏んだのか......!?


「四季さあ、そう言いうの何て言うか知ってる?」

「え、そう言いうのって?」

「そう言いうのはそう言いうのだよ! はぁ......」


 どう言うの?何かの謎かけ?つーか怒られてるんだよね?でもなんか日夏、口元緩んでる気がするんだけど。


「......まあ、良いや」

「えええ......なんだよ」

「いーや、教えてあげない! んじゃね~先行くから!」


 そう言い残し少し先にいた仲良しと合流していた。あいつ、たまに不思議な感じになるよな。なんて領域展開?



 ◇◆◇◆◇◆



 鐘が鳴り一限目が終わる。休み時間、まだまだ終わりの見えない授業の数を思い気分が滅入ってくる。しかし今日の俺にはそんな学校での一日に大きな楽しみがあった。


 それは昼休みの食事!いつも昼食はウキウキなのだが今日は特に、特別なウキウキなのだ。と言うのも今日の食事は家から持参したモノではなく、ネトゲ嫁、南乃の手作り弁当!!



 ~昨日~



 嫁である星乃アリスの生配信が終わり、学校で教えてもらった番号で通話がかかってきた。


 えええ、南乃!?どうしたんだ!?


 恐る恐る俺は受話器のマークをスワイプさせそれに出る。


「あ......南乃か? お、お疲れ様!」

『......あ、四季くん。 よ、夜遅くにごめんね......あ、ありがとう』

「すげー良かったよ! 最後の歌とか! こう、胸が熱くなって......すごかった!(語彙力皆無)」

『あ......へへ、四季くんにそう言って貰えると凄く嬉しいな。 ふひひ』


 ドキリとする。今の笑い声の部分がまるでついさっき画面越しにみていた星乃アリスの笑い声と同じだったから。決して信じていない訳ではないが、改めて、本当に彼女があの人気VTuberなんだなと思った。


 そしてふと過った思い。学校での彼女とVTuberの彼女、そしてネトゲの彼女......どれが本当の「彼女」なんだ?


『あのあの、話かわるんだけれど、四季くんて嫌いな食べ物ある?』

「え、嫌いな食べ物? なんで? あ......俺の事、配信でリスナーにやってるみたいにいじって笑うのか?」

『え、いや、わ、笑わないよ!』

「そ、そうか。 じゃあ......うーんピーマンとか、苦いやつかな」

『ぷっ、あ、ごめ......』

「いや笑ってんじゃねーか!」

『ごめんなさい、理由が子供かよ!(笑)と思って......くくっ』

「完全にまるきり配信でやってるいじり方じゃねーか、これ!」

『ふふ......ご、ごめんね。 えと、わかった! おっけー』

「てか、そんなの聞いてどうするの......?」


 まさか......お弁当とか作ってきてくれる感じ?


 いやまあ、そのフラグはたっているが、てかこれでお手製お弁当イベント発生しないのならもはや何も信じられなくて、逆に責任とってお弁当作って貰いたいまであるが......嘘でしょ?信じがたいし信じられない。


 いや、だって......この年齢=彼女居ない歴の俺だよ?ネトゲ嫁とリアルで繋がりしかも同級生で、美女さんで更には登録者150万人の大人気VTuber(推し)で、その子が何か作ってくれるとか。てかまだ今日リアルで話したばかりだし......。


『あー、えっとー......』


 彼女は小さな声で、『今、言わないと』『明日いきなりは......』など、通話口でひとしきり独り言を言い悩み込んでいたが、最後に『よ、よし!』と気合いをいれそれをつげた。


『多分察してると思うんだけどね、お、お弁当を......ね? そう言うの苦手かな......?』

「いえ! お待ちしております!」


 即答。俺は彼の人気声優の様なとてもイイ声 (イメージ)で返答した。



 そして今、彼女との待ち合わせである中庭の片隅へと来ていた。木に囲まれ死角になっているここなら目立たずに食べられるだろう。

 クラスメイトとかに見つかると面倒だからな。冷やかされたり、影で噂されたりするかもしれない。特に噂と言うのは悪口でなくても人はネガティブに捉えてしまう。

 俺だけなら良いが、それが南乃にまで及んでしまったら最悪だからな......。

 陸と海斗には後々彼女の事は話そうとは思ってるけど......今はまだ良い。


「......やほやほ」


 ひらひらと手を振る彼女。俺が来る前に来ていて地面には座れるようにちょっとしたシートが敷いてあった。その上には可愛らしい白のお弁当箱と横に小さなタッパー。


「おお! これは昨日言っていたお弁当!」

「早起きしたんだよ~。 ふふん」

「まじか! なんか悪いな」

「わ、悪いことないよ。 彼女だし、ね」


 ......彼女か。こんな素敵な人が現れるなんて。俺の人生急展開過ぎるだろ。急展開が驚くレベル。

 急展開「え!? お前それ急展開過ぎんか!?」って。


 ......まじでこんなの想像もしなかった。



 ごめん、嘘。想像はした。妄想的なやつはね。......これ現実なんだよな?ちょっと怖くなってくる。これがもし夢で覚めるとこの優しい彼女の南乃は居なかったら......想像しただけでも寂しくなって泣けてくるな。


 ......いや、けれど、でもそうだ。夢だったとしても別に良い。これがいつまでも続いていてくれさえすれば......そう、俺が死ぬその時まで。


 ぼーっとお弁当を見下ろし物思いに更けていると、彼女が下から覗きこむように見上げてきた。


「どうしたの?」

「うわっ!」


 彼女の顔が急に近くへ来て焦る俺。うわっ!って酷い反応しちゃったな......変な声出てたし。ないわー俺。


「ぷっ......ふふ」

「え、あ......すまん。 急に顔近かったから」

「え、あ、ごめんね。 ふふ」

「いや、笑いすぎだろ! 変な声だったけども!」

「いやあ、四季くんって本当に面白いなあと思ってさあ」


 ちょこんとシートの上に座る彼女。目元が見えなくてはっきりとはわからないがこちらへの視線を感じる。

 口元がゆるみにこにこと微笑んでいる......可愛い。


「くっ......あー、うんうん。 楽しんで頂けているようで何より」

「ふふ、拗ねないでよ。 いじって遊ぶのはお互い様でしょ? じゃれあいなんてネトゲで沢山してたじゃん」


 確かに。俺も彼女をいじってた事は沢山ある。思い出すな、あれは彼女がヒーラーを始めて間もない時期。

 俺のHPがごりごり削られているのに一向にヒールが飛んで来なかった時の事だった。


 俺がチャットで『ヒールは!?』と飛ばすと、南乃から『やっとるわ!』と返ってきたが、よくみると実はテンパって敵にヒールかけていたと言う事があった。

『いやいやwそうはならんやろw』とずっといじっていたら本気で怒ってケンカになってしまったのは今では良い思いでだ。


「あー、まあな」

「リアルでじゃれあう事が出来るなんて思ってもなかったけどねー」

「うん、確かに」

「ふひひ」


 気がつけば、彼女の声色がどんどん明るくなっていき星乃アリスに近づいている。ネトゲの、VTuberの方が本当の彼女なのか?だとしたら、リアルの俺にも慣れ始めたのかな?だったら嬉しいな。

 そんな思いをよそに彼女はせっせとお弁当を開いていく。ぱかり。


「じゃーん!」

「お、おお......すげーな」

「どう? どう?」


 綺麗に敷き詰められたおかずとご飯。ご飯の上にはネトゲのキャラクター形にカットされた海苔が乗せられ、おかずはタコさんウインナーに小さいハンバーグ、綺麗に焼けた玉子焼き。

 別に用意されたタッパーにはサラダと果物が入っていた。


「美味そう! これ、もしかして練習したのか?」

「えーえ、しましたよ!! 前に生配信で料理した時あったでしょ? あの時すごいリスナーさんに練習しろって言われたからさー。 見返したるわ!って思って」


 そうだ。彼女は以前料理をネタ的な感じで生配信し、リスナーにボコボコにされていた。自信満々で出された彼女の黒々とした料理。リスナーの叫びと罵倒で溢れかえったチャット欄。ある意味あれは神回だった。


「あれから、これか......物凄く頑張ったな」

「へへ、ありがとう。 さあ、おあがりよ!」


 どこかで聞いたような決め台詞を言いながら、彼女は持ってきていた水筒からコップへ冷たい麦茶を注ぎ、手渡してきた。

 気が利きすぎる。嫁にしたい......あ、嫁だった。くっ、泣けてくる。


 とりあえずタコさんウインナーをぱくりと口にほうりいれる。それを見た南乃は少し不安そうな雰囲気だった。


「――っっ! 美味しい!!」


 その一言を聞き彼女はパァっと表情が明るくなる。これは箸が止まらない......マジで美味いな。タコさんウインナーを作ろうとして細切れにされたウインナー出してきた妹に見習わせたい。

「タコも食べるとき大概バラバラにするでしょ? これも一つの正解だよ」とか言ってた妹に。正解の枠が広すぎるんじゃあ。


「良かったあああああ」

「このハンバーグは......おお、これもめっちゃ美味い。 南乃、本当に凄いな!」

「お口にあって何より! どんどん食べてね!」


 これ程美味しい昼食は初めてだ。よくネトゲしながら一緒に食事をしたことはあるけれど、まさかリアルでこうなるとは......。


 お腹いっぱいに彼女の笑顔とお弁当で満たされるのだった。










 木陰から眺める日夏の視線にも気がつかずに。







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[一言] 敵にヒール……相手の攻撃を紙一重で避ける練習でもしてるの??ってその場にいたら思いそうw
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