~5~ VTuber生配信する
画面の向こう、現れた黒髪美少女は深紅の瞳をこちらへ向ける。ワインレッドのベレー帽と同色のゴスロリドレス、それにかかる黒猫の柄が入ったエプロン。まるで不思議の国へと迷いこむ少女のようだった。
『やっほー!! みんなー!!』
画面の向こうで元気良く挨拶をするVTuber、星乃アリス。彼女は満面の笑みでファンへ配信の始まりを告げる。そしてそれに応じる視聴者、リスナーが次々とチャットを打ち込んで行く。
『待った待った? おお、すごー! もうこんなに人来てくれてるー! ありがとう! うひひ』
まだ開始五分もたたないのに視聴者数8万人。相変わらずのヤバい人気だな。
古参としても相方としても鼻が高い。本当に、本当に誇らしい。
――あの日、登録者0の彼女、個人VTuber星乃アリスを見つけた時これは運命だと直感した。そしてすぐにチャンネル登録のボタンを押し、俺は奇跡的にも登録者第一号になることができたのだ。
その直後に行われた視聴者数わずか13人の生配信で彼女はたった一人の登録者へ向けてこう言った。
『チャ、チャンネル登録、あ、ありがと、ございましゅ! か、噛んだッ!? ご、ごめんなさい! ......わ、私、私必ず貴方の自慢できるVTuberになります! 本当にありがとう!』
もうね、かみっかみ。かみまくりの上手くまわらない呂律でお礼を言う星乃アリス。これは生配信としては失敗だっただろう。しかしこの言葉が俺の心を突き動かした。
かみまみた事ではなく、その特徴的かつ他に類を見ないような声色。そして、1人の登録者にしっかりとお礼をし、その距離を縮めんとする姿勢、おそらく視聴している13人にも伝わったであろうリスナーを大切にすると言う姿勢。それらが俺に華々しい未来を予感させた。
この人には投げ銭する価値がある。人に価値をつけられる程大層な人間ではないけれど、この人は絶対に大きな存在へと成長する、そう確信した。
そして何より応援したいと思える人間性。彼女には配信者として大切なモノがいくつも備わっている。
俺はそれからずっと彼女を追いかけていた。
――そしてそれから早二年。彼女はその時の宣言通り登録者数150万人越え、最高同時接続数18万人のとてつもない大物VTuberに成り上がり、自慢できるVTuberになると言う約束を守った。マジで誇らしい。
『さーてさてさて、今日はね前に言ってたやつやるよ。 第七回、質問大会~! ほいほい、皆コメントよろしくー! なーんでも良いいよ! 答えたくないやつは答えないけどね! うひひ』
=チャット=
今日も可愛いね
笑いかたw
いつものしないんか
いつものは
あれ、今日あれないの
『お、ああ、ごめん! よし、それじゃ、いつもの行くよー......いや、違う違う! 忘れてたわけじゃないから! 二日後にやろうと思ってたから!』
彼女の次の配信予定日が二日後、つまり次の配信。いや、忘れてんじゃねーかッ!と心の中でツッコミを入れているとコメント欄にも続々と同じようなツッコミが溢れかえる。
彼女は軽く天然な部分もあり、それも魅力のひとつである。飛び交うツッコミで彩られる彼女の配信はいつも賑やかだ。
そしていつものが行われる。VTuberである彼女の挨拶。
『貴方の心に一番星! 私の光で希望を灯す! 星乃アリス! ......――改めて、今日もよろしくね~!』
天に向けた人差し指を自分の胸へと降ろす。そしてウィンク。
=チャット=
やばかわ
くそかわ
可愛いいいいいい!
かわい
かわよ
愛してるぜ
チャットが盛り上がり高速で文字が上へと流れていく。そして始まるは色とりどりのスーパーチャットの嵐。
説明しよう!スーパーチャットまたは投げ銭とは、動画配信者へのチャットに愛(お金)を乗せておくる事のできるメッセージ機能で、これによりそのチャットの文面が愛の度合い(金額)により色がつくのだ!
最大金額は5万円で赤色のチャットになる。ちなみにこの配信では良く見かける。
とは言ったものの実のところ愛情は金額で決められるものではないので、愛うんぬんは冗談。お金は関係なく、気持ちが大切。
そして俺もこの波に乗るぞ!少額だが受けとれ、俺のスーパーチャットを!
そう言い大きなチャットの流れの中に千円を投げ入れた。
『いや、いつも思うけど開幕のこのスーパーチャットなんのスーパーチャットなんだよ! プレッシャーやばいから!』
こうして彼女の笑顔のツッコミでSチャットがしめられるのだ。これがいつものテンプレだったりする。
『それではいってみよー! 質問ちょうだい!』
=チャット=
質問かー
お腹すいた
コラボしないの
好きな人おる?
今日も配信お疲れ様でした
『お腹は私も空いてる! コラボはねー、考えてはいるんだけれど私ほら、人見知りだからさ......いや、配信勝手に終わらすな!』
きれっきれのコメント返しにチャット欄が沸く。彼女の魅力はこのトーク力と、そしてそれ以上に人の心を掴む特技がある。
それはこの美しい声色から生み出される「歌」だ。
彼女の声色はとても特徴的で、バラードを歌えば透き通るような氷のようにクリアでひんやりと聴く者の心に染み渡り、またロック調の激しい曲であればバラードでの歌子から想像も出来ないような迫力のある歌声を垣間見せる。例えるなら、荒ぶる炎のようで、聴いた者の心に激しく焼きつき、その魂に焼け跡を残す。
この「トーク力」と並外れた「歌唱力」の二つを武器にこのVTuberの高みへと登ってきたのだ。
『さてー。 もう終わりの時間が近いねえ』
気がつけばもう配信終了予定の時が迫っていた。いつだって楽しい時間が過ぎるのはあっと言う間だ。
あまりに時間の流れが早く感じる為、俺達はヘイストでもかけられてんのか?とチャットに打ち込む人がいるくらいである。
『うんとね、ホントならこのまま質問大会で終わるつもりだったんだけど、今日は特別に歌をさいごにおくるよ!』
お?珍しい!彼女が予定を途中で変えるなんて今までに二回しか無かった。
いったいどうしたんだろう。画面が暗くなり歌の準備に入った。
と、その時。
ポーン
スマホにメッセージが入った。
『君に贈る歌だよ。 聴いてね』
画面が明るくなり、そこに映し出されたのは彼女のアバターと溢れる程の星で一面がおおわれている星空の背景。
俺はこの空を知っている。
これは、俺と彼女が初めて見たネトゲのオーロラの星空。つまりネトゲの想い出の一部だ。
俺が......彼女に告白した時の。
その時に撮って彼女へと送ったSSだ。
彼女の美声と音楽が奏でる想い出に俺の胸が熱くなる。あの日俺は彼女を例え中身が男だろうが大切にしようと、そう思った記憶が甦り手に力が入る。
頬を流れる涙は想いが一つなのだと、一緒の気持ちだったのだとそう思えた事にたいするもの。
背景の片隅、岩影に寄り添うように座る小さな二人の姿は勿論、俺と彼女だ。
『~出逢った事で、私は光になれた~♪』
『大切な人は~私を形作ってくれた、貴方~♪』
オリジナル曲、「ステラ」その一つ一つの詞は今の俺には、救いに聴こえていた。
俺の暗い過去にさす光、それが彼女......人気VTuberでありネトゲの嫁であり、そして同級生。
「......ありがとう」
俺は独り言のように画面の向こうで歌う彼女へと感謝の言葉を発していた。
=チャット=
おおおおおおおおおおお
すげえ!!!!!!
感動したなんもいえねえ
↑いっとるやんけ
88888888888888
88888888888888
88888888888888
今日の歌やばくね?
気持ちが籠ってた!すごい!
8888888
8888888
さいこー!!!!!
『ありがとー!! また来てね!! おやすみなさーい! ふひひ』
この時、同時接続数は十五万人を記録していた。
???「あれ、このSSのキャラって......シキか?」
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