~3~ リアルでも可愛いネトゲ嫁、そして妹
――あ、知らない天井。
ここは......保健室か?なんで保健室に。
「あ、おお、おはよう」
静かな、そして可憐で艶のある声が耳に届く。
「あ、南乃......はっ!」
「ご、ごめんね、びっくりさせちゃったよね......?」
南乃の姿を捉え、事態を把握する。そうか、俺は南乃を保健室へと連れてきたは良いが、彼女のあまりにも衝撃的な告白によってダウンしたんだった......恥っず。
見ると彼女は先程までの星乃アリスだった雰囲気は消え、俺の知るクラスメイト、南乃になっていた。......あれは流石に夢ではないよな。
って、あれ?俺どのくらい寝てたの......。
ふと時計を見ると、下校時刻を回っていた。
「もしかして、ずっと居てくれたのか?」
「あ、え、えと、居たかったけど、先生に授業はちゃんと出なさいって言われて。 で、でも休み時間に様子見にきたよ?」
「そうか......面倒かけて悪いな」
「そ、そんな事無いよ」
やっぱりネトゲと同じだ。アリスは優しい。
「先生は?」
「あ、さっき出てったよ。 呼び出されたとかで......」
「ああ......成る程」
俺はヘアピンを外し、普段の前髪で目元が隠れている南乃を見る。
雰囲気も話し方も、全然違う......。
「南乃は本当に......星乃アリスなんだな」
「そ、そうだよ。 ......あ......もしかして、嫌いになった?」
「え、な、なんで? 急にどうしたんだ?」
「えっと......な、なんとなく。 理想と現実、みたいな? あはは......」
ああ、そうか。確かにそう思うよな。VTuberやネトゲとのリアルのギャップ。「期待はずれに思われた?」と思うのは当たり前だ。
その気持ちはわかる。かくいう俺もまだその恐怖に苛まれているのだから。俺の方は......どう思われてるんだ。
「大丈夫だよ。 と言うより俺の方こそリアルはこんなんだぞ。 陰キャ中の陰キャ。 ぱっとしないし......容姿だってカッコ良くもない」
自分で言ってて悲しくなってきた。あれ、これ俺はこの人とこれからどうなるんだ?こんな自分さげのネガキャンのような事をはじめて......これ多分うざいよな。一番嫌われるやつじゃないか?けど、安心したいと言う気持ちが止められない。
俺はこの人と一緒に......この先も居られるのか?
すると彼女はあわてるように答えた。
「ううん、そんなこと無い......! 四季くんはカッコいいよ、私は君の事カッコいいって思う。 さっきだって私を気にかけてここまで連れてきてくれたし......」
微笑みを浮かべながら柔らかく紡がれる言葉。彼女の気持ち。
不思議な事にするすると心の底へおさまっていく。
「前だってコンビニで助けてくれたし......それに多分、私の知らないところでも君は、四季くんはおんなじ様にカッコいいんだと思う......んだよね」
「そうかな......」
「そうだよ、四季くんはカッコ良くて素敵な人だよ。 ......そんな君のリアルを知って考えてたんだ。 こんな私は釣り合わないかもしれない、って......だから」
「そんなことない!」
俺は聞き終わる前に否定した。それは無い、絶対に。
だって......あの星乃アリスもネトゲのアリスも南乃にはかわりはないし、たとえ南乃の容姿が可愛くなかったとしても、俺は絶対に南乃の事を大切に思う。
それはまだ短いが、これまでの人生において自信のない俺が胸を張り言える、唯一の「気持ち」と「想い」だ。
「俺は、今日はじめてリアルのアリスを知った。 けれど、朝、メッセージをくれて会話したのが心の底から嬉しかった......上手く言えないけど、それが答え」
不安そうな彼女には、言葉が必要だ。上手く纏まらなくても、それでも良い。多分、南乃は欲しているんだ、「安心」を。ならばハッキリと言ってやる。
俺がアリスに抱いていた想い、愛情をぶつけてやる。
「俺はアリスが、南乃が......好きだ!」
例え人気VTuberだろーが俺は手放したくない。大切なんだ、この人が!
全てを込めた想い言の葉が宙へと消えた。いつの間にか夕陽が射し込む窓ガラスに映る二人の姿。
南乃は口を開く。
「......私も好き。 四季くんの事が、好き。 大好きだよ。 ......ずっと一緒に居ても、いいの?」
「ああ、一緒にいよう。 ゲームでもリアルでも、配信中でも、側で俺が支えるよ......支え続けたいんだ」
彼女は見えない目元を袖で拭い、微笑んだ。
「......ありがとう、四季くん」
◆◇◆◇◆◇
夕日を背に俺は南乃と帰路に並んだ。
彼女と色々な話をした。これからの事、VTuber活動で多忙を極める彼女とどう一緒に居るのか、二人の在り方を。
やがて俺達は分かれ道にあたる大きな桜の木のしたにたどり着き、また後でとサヨナラを交わし別々の帰路へと別れた。
「......ま、またね?」
「うん、またな」
彼女は可愛らしく胸元あたりでその小さな手をひらひらと振った。
それから、そこまでに話していた内容を夢見心地に思い出しながら歩いているといつのまにか我が家へ到着していた。二階建ての木造一軒家。
ガチャン――
「ただいまー」
と玄関で靴を脱いでいると、リビングが開かれた。そこから現れたのは腰まで伸びた美しい黒髪のつり目女子。
「おっかえりー! お兄ちゃん!」
とてとてと走り寄って迎えてくれたのは中学生の妹だ。
ぼふん!と素早く腹部へと抱きついてくる彼女。
その身長は165㎝と高く脚がすらりと伸び、スタイルがとても良い。ちなみに結構な確率で高校生と間違えられる。
更には八重歯とつり目がポイントとなり個性が付加されている、我が妹ながらかなりの美人さんと言えてしまう。
名前は北条 穂四春。俺は春と呼んでいる。
春は明るく友達も多い。陰キャで地味な俺とは違い、陽キャで美人な彼女は異性同性に関わらず人気でモテる。
ホワイトデーやバレンタインには大量のチョコレートを毎年貰ってくるし、家の前で告白されているのを目撃した事もあるし、通りすがりのイケメンにナンパされた事もある。いや漫画かよ!
そんな彼女だから、兄として心配なのだ。変な虫が寄り付き、そそのかされないか。気を付けていかねば......。
て言うか、むしろ妹の問題は今現在進行形のがまた別にあったりする。むしろこっちの方が今は大きな問題だと思う......。
「お兄ちゃん、ご飯にする? お風呂? そ、れ、と、も~?」
にんまりと百点満点の花丸笑顔を浮かべた彼女。そ、れ、と、も~?に続く言葉はいったい......まあ、それはどうでも良いか。
「......お前は風呂入ったの?」
「はっはっは、このとーりさ!」
ばっと自分のパジャマを見せつける春。パジャマを着ているのに気がつかなかった。成る程、風呂はもう済ませたのか。で、あればこの間のようにお兄ちゃんと一緒に入る~とかはないな。良かった......ホッ。
そう、この妹はお兄ちゃん離れをする事ができていない。これがもう一つの、それも現在進行形の問題。
風呂にも一緒に入りたがるし、休みは一緒にゲームしたがるし、遊びに連れてけと言うし、っていうか何度か連れてかれたし。
一緒に寝たがる(朝起きたらいつの間にかベッドに潜り込んでいた事もある)し、酷いときはトイレに同行しようとする。
そんな感じで、この妹は兄離れどころかぐいぐいと、まるで蒙古の如く攻めいってくるのだ。ジンさん助けてー!
懐かれているのは嬉しいが、そろそろ何とかしないとと思うんだよな。中学生だし......いや、中学生なんだよなー。まずいよなーこれ。
「......お前、今日は一緒に風呂入りたいとは言わないんだな?」
「あー、うん、言わないよ? だってダメって言うじゃんお兄ちゃん」
「そうか。 成る程、思いの外俺の妹は聞き分けの良い子だったと言う訳か......お兄ちゃん嬉しいぞ」
「いや、思いの外て!」
頭を撫でてやる。ふにゅうと目をつむり気持ち良さそうにしている。こうやって誉めて成長させないとな。こうしていると大人びた容姿の春も年相応に幼く見える。
「えへへ、うち、お兄ちゃん困らせないもーん」
◇◆◇◆◇◆
二階にある三部屋。その内の一つが俺の部屋で、春の部屋は真向かいにある。
部屋分けをするとき、「私、別に一人部屋じゃなくても良いよ? お兄ちゃんと同じ部屋で良い! て言うか同じ部屋が良い!!」と駄々をこねたのは懐かしい思い出。謎にごねられ俺は頭を抱えながら散々頭を下げやっとの思いで一人部屋を確保した。
思春期の高校生には一人部屋は必要不可欠なのだ。これは絶対だ。理由はわかるよね?答えは聞いてない♪
俺は部屋につくなり早々にカバンをベッドに放り投げた。制服をハンガーへ掛け、着替えを用意しながらパソコンをつける。
基本的に帰ってきたらネトゲへとインし、そのままキャラクターを放置している。
俺はこのネトゲ、ラストファンタジアのBGMが好きでそれを部屋に流しておくことが多い。その曲を聴きながら勉強や作業をする事がある程このゲームの曲が好きだ。
中でも特に好きなのは、主人公達の冒険の始まりの街、森の都グラハニアに流れている曲で、よくそこにあるカフェでクラフトをしている。リアルで珈琲飲みながら、まるでゲーム内でカフェに居るような気分に浸るのだ。
「インよし、着替えよし、チームメンバーへの挨拶よし......風呂と飯おわらすかな」
部屋を出てそのまま一回にあるバスルームへ。途中で茶の間を通り、父さんがソファで寝てるのを横目に過ぎる。
カラカラとバスルームの扉をあけ、シャワーを使い体を洗い始める。あ、この香り......柚子か。入浴剤を使うのは父さんか春か。
春がもう入ったと言っていたから春かな?父さん寝てたし。ちなみに母さんは仕事がいつも遅く風呂に入るのはいつも最後、と言うかシャワーで済ます時が多い。
カラカラ
え、ん?今扉の開く音......だ、誰?
「あ、お兄ちゃん! 奇遇だね?」
「え、おま......何で!? 奇遇じゃねえ!」
入ってきたのは裸の妹(ドヤ顔)だった。
「お前、風呂に入ったって言ってなかったか!?」
「んーん。 言ってないよ? このとーりさ!とは言ったけれど入ったとは一言も言ってない」
「ぐう!?」
「あっはっは、お兄ちゃんも甘いね~! まじ缶コーヒーのジョージナのロング缶くらい甘いね! てか、リアルでぐうって言う人初めて見た......可愛い」
ロング缶だと、あっまあまじゃねえか!
「さてとー」っと妹は俺の元へと来て後ろを向けと指示をしだした。
「はい、背中流すから」
「いや......ダメだろ」
「はよしてくんしゃいよ、お兄ちゃん。 見てよ、うち、もう裸なの! ......このままでは風邪をひきかねないんだが?」
「......」
た、確かにそうかも知れない。このまま追い出すのも......まあ、ささっと終わらせて出ればいい話か。ザパーと流してもらってすぐ出よう。
ゴシゴシ......
「お兄ちゃん、気持ち良いですか~」
「......え、あ、はい」
ザパーッと一通り背中を泡立て、洗い流してもらった。よし......。
「ありがとう。 いやあ、良いもんだな。 妹に背中流されるって言うのも......よし、じゃ俺はこれで!」
素早く風呂場を出ようとすると、ガシッ!と手首を捕まれた。そして笑いのない笑顔を向けられる。つまり真顔。こっっっっわ!なんで美人の真顔ってこんなに怖いの!?
「いやいやいや、何処へ行こうと言うのかね君は」
「いやいやいや、風呂あがりのアイス食べに行こうと言うのですよ僕は。 ......こないだお前と食べるのに二人分買ってきたんだよ。 早く風呂出て食べないか?」
ぴくりと眉が動く春。これで釣れろ。いや、釣れてくださいお願いします。
「食べる。 ......でも君ィ、人にしてもらった恩を返さないのはどうかと思うよぉ~? そんなんで社会に出たら大変だよ?」
中学生(二年生)に社会についてを語られる俺高校(二年生)
何の影響を受けたら中二の口からこんな台詞が出てくるんだ?
「はあー......わかった。 わかったよ」
逃げられそうにも無いこの状況で、俺は妹の願いにしぶしぶ応じる事にした。まあ、こんな押し問答してる間に風邪ひかれたら困るしな。
しかし妹はそのしぶしぶの雰囲気を察知した。
「え、そんな......嫌そうにしないでよ。 うちの身体洗うの......そんなに嫌なの?」
しゅんとする妹。はっ......しまった!俺は妹は好きなんだよ。あくまで兄離れをさせたい訳で、決して嫌われたいという事じゃない。て言うか、嫌われたくない!むしろ嫌われたくない!仲良くはしていたい!
「い、嫌じゃない! 俺が悪かった! ――はい、ばんざーい!」
「ばんざーい! へっへへ」
濡れた白い肌は美しく、触れるのに謎の緊張が走る。は、早く終わらそ......。
「妹ちゃん、気持ち良いですか~?」
「......あっ、ん」
「!?」
艶やかな色っぽい声音が春の口から漏れでた。
「おい!! やめろ!!」
「あははは、お兄ちゃん面白ーい」
「......つぎやったら出てくからな」
「はいはーい! ありがとう、お兄ちゃん。 えへへ」
こうして妹の体を洗わさせられる俺と、上機嫌に鼻歌を奏でる、春。
不覚にも、この真っ白な湯気にとける春の鼻歌が心地良いと思ってしまう俺なのであった。
あ、この曲、俺の好きなネトゲのBGM......。
ポーン!
リク『おーい! 緊急事態発生だ! シキいねえの~?』
もし、「面白い!」や「続きが気になる!」と思って頂けたなら、下にある☆を★押して評価して貰えると嬉しいです!
ブックマークもかなり喜びます!φ(゜゜)ノ
次の投稿は22時~23時です!