表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/31

~28~ 穂四春のお泊まり日記 に

 


 きなこ餅を二人食したあと、二階にある乃愛の部屋へと招かれた。


「いやいや、長旅だったでしょう、お疲れ様どす。 お荷物はこちらへお置きになってくださいな」

「いや、なんだそのキャラは」

「あはは。 まあ、ゆっくりしててよ。 僕はちょっとお風呂の用意してくる......あ、パソコンつけて良いよ~」

「ん。 わかった」


 ひらひらと手を振る銀髪の少女は、扉をしめとたとたと階段を降りていった。


「忙しいな。 ホントにうち遊びにきて良かったのかな」


 きょろきょろと部屋を見る。ピンクのカーテンにピンクのベッド、机にはパソコンとネトゲのキャラフィギュア。

 そして可愛らしい黄色の縁の写真立て。


 納まっている写真はネトゲのチームメンバーで撮ったモノだ。

 これは夏祭りの時か。この時はまさか乃愛が女の子だとは思わなかったけど......しかも同い年で銀髪の美少女。


「すごい世界だな。 これが現実か」


 最初は四季の事が心配で始めたネトゲだったが、気がつけば普通に楽しむうちがいた。

 基本的には四季をかげから見守るためにインしているから、チームではあまり遊ばない。

 けれどフレンドがいないわけでもないし、チームでも私がオフライン表示でインしているのを知ってる人はいる。

 以前その人に言われた。


「そこでは何も見えないよ。 飛び込まないとさ」


 そんな事はわかっていた。でも、あの中にうちの居場所は......。


「ただーいまー! ん、なにぼーっとしてるん?」

「あ、え......ごめん」

「ごめんて! 何であやまるのさ、あはは」


 うわぁ、凄いな。これ程可愛い笑顔が他にあるんか。頭なでてやりてえ~。


「あ、穂四春ちゃん、パソコンつけていいかな? インだけしときたい」

「うん、良いよ」


 モニターに映し出されたアニメキャラは、いつもやっているネトゲのキャラクターだった。

 ホントにこのネトゲ好きなんだな、乃愛ちゃん。


「......ログイン、これでよしっと~」


「乃愛ちゃんは」

「ん?」

「なんでネトゲが好きなの?」


 話題作りのような軽い質問。


「僕、ひきこもりだったんだよねぇ」


 何気無いない質問の答えに予想外の重たい返し。穂四春の身体に緊張が走った。


「ご、ごめん」

「なんでさ、別に大丈夫だよ。 僕さ、こんな見た目でしょ? だから学校で色々いじられたりしてさ。 女子グループからは目の敵にされて、学校に行きたくないって不登校になったんだよね」

「......そうなんだ」


 まあ、確かに見た目は完全に外国人だし、ほかのクラスメイトには異様に見えたのだろう。決してそいつらを擁護する訳ではないが。


 人は「違い」を見つけて「標的」にし、仲間を作る。


 それは何処でも同じだ。だからうちも四季も穴があいてる。そしてそれを埋めようと、うちは四季を、四季はイラストで補おうと足掻いていた。


 乃愛もそんな目にあっていたと言うことは、うちらと同じ穴があるはず。

 何で埋めていたんだろう......。


「まあ、んで、そんな時に出会ったのがこのラストファンタジアなんだよね。 最初はおじいちゃんがやってるのをみて、それで興味がわいてさ」

「あ、そうか。 おじいちゃんもプレイヤーだもんね」

「そうそう、おじいちゃん凄く上手くてね、前にいたチームではひっぱりだこだったんだよ!」

「まあ、おじいちゃんかなり上手いものね。 うちは黒魔導師やったことないけどかなりの腕前だって事はわかるよ」

「えへへ、ありがとう」


 まるで自分が褒められたかのような反応。本当、乃愛ちゃんはおじいちゃんの事が大好きなんだな。


「まー、そんな感じでひきこもりの僕はネトゲを始めたわけですよ! そしたら、だんだん友達が増えていきましてねえ、もう毎日が楽しくてさぁ」

「うんうん」


 何だろう、乃愛ちゃんがにこにこしているとこっちまでつられて笑顔になるな。不思議な子だ。

 ......心が暖かくなる。


「だから僕はね、ネトゲに救われたんだ。 見た目が原因で排除された僕にとってはこの世界は救いになった......だからラストファンタジアが大好きなんだよね」


 そうか、乃愛ちゃんもネトゲで前を向くことが出来た人なのか。

 四季もそうだったな。ラストファンタジアをプレイして、仲間をつくり変わっていった。


「そっか、乃愛ちゃんはこの世界に生きているんだね」

「! そうそう、僕はここに生きているんだよ」



 同じ傷を持った彼女をうちはいとおしく思った。



 ◇◆◇◆◇◆



 ざぱーっ


「ふぅ」


 良いお湯だ。柚子の香りが浴室に充満している。おじいちゃんや乃愛ちゃんより先にお風呂をいただくのはちょっと抵抗があったけれど、お客様だから!と言われて、それならと入浴する事になった。


「あー、気持ちいい」


 その時、曇りガラスの向こうに小さな人影が見えた。


 え?


「どうー? お湯加減は~?」


 向こうから声が聞こえる。乃愛のものだ。いや、お湯加減どう?ってそれはとっても良いけど、なんで服を脱いでるの?


「......良いけど、ん? なんで脱いでる?」

「え、そりゃ、一緒に入るからでしょ~」


 え、なんなの?お泊まりなんだから、あたりまえじゃん?みたいな感じで返された答えに、うちは二、三回目をぱちくりさせた。


「へいへい! 女同士の裸の付き合いだぜ!」

「うぁっ......ぶねっ!!」


 うちはばしゃんと湯船に身を隠す。見ればにやにやと悪い顔の乃愛。

 さながら罠にかかった野うさぎを見る狩人のような笑みだ。

 しかし正にその通りで、うちには逃げ場は無い......まさかいつも狩る側(四季を)だったうちが狩られる側になるとは。


「あー、寒いなぁ」


 ちらっ


「これは風邪をひいてまいますなぁ」


 ちらっ


 くっ!やろう、あくまでうちに誘わせて合意であることを確定させるきか!!なんて計算高い奴だ!!

 これが黒魔導師を極めし美少女プレイヤーか!


「......早く湯船にはいったら? 乃愛ちゃん家のお風呂なんだし」


 どのみちここは人の家の風呂場なんだよね。ならもう仕方がない......あ、いや乃愛ちゃんが嫌な訳じゃないんだけど。

 家族以外に身体みられるなんて初めてだから恥ずかしいんだよね。銭湯とか温泉とか行ったことないし。

 見せられてギリこないだみたいに水着までだ。


 しかし、乃愛ちゃんはうちを見つめ突っ立ったまま動く気配がない。いや、マジで風邪引くぞ。

 どうしたんだ......?


 すると、乃愛は不思議そうに首をかしげ、穂四春へと言葉を投げかけた。


「え、いや、身体洗わんとさ」


「ん?」


「洗って?」


「誰が、何を......」

「そりゃ、穂四春ちゃんが僕の身体をでしょ」

「それ、マジで言っとるの?」



「あ、え......い、嫌なの?」


 こ、この表情。うちはこの顔を知っている......そう、あれは何年か前に立ち寄ったペットショップ。

 ケージにいれられている猫や犬、鳥、爬虫類を眺めていると彼(彼女?)はそこに居た。

 その子は、指でつつけば絶命してしまいそうな小柄な身体、(こぼ)れ落ちそうなくりくりとした潤んだ目、寒いの?温めてあげたい......!と本能的に思わされる程のバイブス。ぶるぶる。


 そう、まるでチワワのような瞳で此方を見ている、抱き締めてあげたくなるオーラを放つ銀髪幼女がそこには居た。これ何て念能力?


「わかった......わかったから、やめてその悲しそうな顔!」

「やったぁ! いえい!」


 穂四春の言葉を聞き、一変してご機嫌になる乃愛。


 そうしてうちは乃愛の望み通り、可愛らしいその身体をすみからすみまで洗うのだった。


 ぴくんっ


「あ、んっ......ほ、穂四春ちゃんの変態っ!」

「いや、しょーがないじゃん! 今のは!? もう洗わんぞ!!」

「ごめんごめん、あはは」


 ......あれ、なにこれデジャブ?





もし、「面白い!」や「続きが気になる!」と思って頂けたなら、広告の下にある☆を★にして応援して貰えると、めちゃくちゃやる気が出ます!

ブックマークも頂けると凄くモチベになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ