~27~ 穂四春のお泊まり日記
......ここが乃愛の家か。カフェ、しろひげ。
(なんだか甘い匂いがする)
夕陽にあてられたレンガ作りのお店を眺め、穂四春はお腹を鳴らしていた。
ぐぅ。
~三日前~
グオオオアアアー!!という叫びがひび割れた城壁を揺らす。
しかし、これは戦闘開始の雄叫びではなく、命の終わりをつげる断末魔だ。
その亡骸の前に立は、銀髪の黒魔導師と猫耳騎士。
ノア『やったー! ダンジョンクリア』
セイシュン『深影の古城のボス、ダークネスドラゴン。 二人でも倒せるもんだな』
ノア『ね! 僕ら二人の力だよ~』
セイシュン『まあね』
しかし、回復役が居ないのに良く勝てたな......いや、その理由はハッキリしている。ダークネスドラゴンは攻撃力もHPも高い。けれどヒール無しで倒せた理由。それは.....火力が高かったからギリギリ倒しきれたんだ。
おそらくノアの火力はこのゲームトップクラスのプレイヤーと遜色ない。
......何で操作してるんだろう。やっぱりマウスとキーボード?これだけのプレイスキルだから、パッドでは無いと思うんだけど。
ノア『おおお!? やったー!!』
先程のドラゴンにも勝るとも劣らない雄叫びを今度はノアもあげた。
セイシュン『どした?』
ノア『見てよ、セイシュン!!』
そこにはうちの持っているレア装備、クロスヴェノムソードと同格のレア武器、クロスエンドロッドだった。
嘘でしょ!?一回でドロップしたの!?しかも自分のジョブの武器を!
セイシュン『す、すごいな』
ノア『えへへ~。 これは良いものだ!』
セイシュン『おめでとう』
ノア『ありがとう。 セイシュンが居てくれたからだね』
セイシュン『ノアの運でしょ』
ノア『いーの! セイシュンのおかげ!』
そう言ってノアはニコニコとしていた。同い年、同学年なんだよな......この人。
うちは中学生の同年代の人より身長が高く、見た目は高校生くらいに見られる事がある。どうみても中学生には見えないのだ。
それは皆からすれば異常な事で、人と「違う」というのは「標的」とされやすい。
けれどそれは自然な事で、人の体でも異物があれば反応し排除しようとする。
だから仕方ない事で......だから、うちは排除されないよう出来るだけ仮面を被り、その中に溶け込もうと努力してきた。
自身を殺し、顔を伺い、息を殺す。
けれど
ノアと今、遊んでるこの時はそれを感じない。
ゲームだから?面と向かって言葉を交わしてないから?
ああ、なんだか楽だな。この人と居るの。
ノア『そうだ。 セイシュンはさ、まだ家のお店来たことないでしょ?』
セイシュン『うん』
ノア『来なよ! 家で一緒に遊ぼーよ! きなこ餅ごちそーするし!』
きなこ餅......食べたいな。正直、スイーツには目がない。特にパフェが好きだ。パフェ無いかな......めっちゃ気になる。
セイシュン『けど、ノアは忙しいでしょ。 お店の手伝いとかあるし』
ノア『ああ、うん。 でも、じゃあ夕方に来なよ』
セイシュン『それじゃ遊べないでしょ』
ノア『いっそ、お泊まりとかどう!?』
お泊まり!?......そういえば、うちお泊まりとかってしたこと無いなあ。
やべえ、楽しそう。でもお兄ちゃん見張っとかないとだし......うーん。まあ、それは後でも確認できるし大丈夫か。
きなこ餅食べたい。
セイシュン『いいの? そんなお邪魔して』
ノア『もっちろん! 来てくれる!?』
セイシュン『わかった。 いつが大丈夫なの?』
ノア『えーと、三日後とかどうかな?』
セイシュン『ふむふむ。 ......おっけー! うちも大丈夫そう』
ノア『やったぁ! じゃあ三日後にね! お泊まりだから色々持ってきてね~。 パジャマとか』
セイシュン『わかった。 ありがとう』
ノア『? こちらこそ!』
なんでうち、今お礼言ったんだろう。......まあ、いいや。
そんなこんなでお泊まりに来ている訳だった。
普通にお店から入ってきて良いと言っていたけれど......って、あれ?
「......あ、穂四春ちゃん。 こんばんは......ようこそ!」
「乃愛ちゃん、こんばんは。 お出迎え......え、待っててくれたの?」
「うん。 来てくれるの楽しみだったから......! さあ、どーぞ、お入りください」
これ、お店の制服なのかな。メイドさんだ。乃愛ちゃんの体型と相まってめっちゃ可愛いんだが。
小学生のような容姿をしている彼女は、言ってみれば小動物のような愛くるしさと、ネトゲとは違って静かに喋る大人しい感じの雰囲気もあり、護ってあげたくなるような気持ちになる。
うちもこんなだったら、四季は......いや、違うか。実際うちは妹として見られたくない。1人の女性として見てもらいたい。だからこの身体はむしろ好都合なのだ。
何も羨むことはない、大丈夫。
もう乃愛の事は羨ましくは無い。
「では、さっそくきなこ餅をごちそうします」
「え、マジで!?」
「マジだぜ」
「やったー!!」
でも家がカフェって事は、もしや毎日おやつ食べ放題?乃愛、羨ましいな。
カランカラン
ドアベルを潜り、店内に入るとカウンターにプールの時にいたおじいちゃんが。
頭を下げて、お世話になりますと挨拶するうちに笑顔を向けてくれた。
「乃愛と仲良くしてくれてありがとう。 どうぞ席へ」
「こちらこそ今日はお招き頂きありがとうございます」
「......穂四春、こっちこっち......!」
じと目の可愛らしい銀髪幼女は、手招きをして店内にある席へと案内をする。
「すこし待っててね」
「え、あ、うん......」
乃愛はカウンターキッチンへとパタパタと移動し、調理をはじめた。
永一さんと乃愛の並んで作業をしている光景をみて、懐かしさを覚える。
家に四季がきたばかりの頃、彼は情緒不安定で家族になったうち達にさえ敬語で喋り、常に気を張っていた。
必要のない子と捨てられたような形で家に来た四季。だからずっと、いつも不安だったのだろう。
また捨てられるかもしれないと、どうしたら良いのかと。
その頃より大分マシにはなっているけれど、きっと今もそう。だって四季は夜中に必ずと言って良いほど起きる。
そして必ず泣く。
きっと眠るのが怖いんだ。その間に皆がまたいなくなってしまうんじゃないかと、怖くて仕方ないんだ。
「おまちどー!」
「......あ、きなこ餅。 美味しそう」
「おじいちゃんもお手伝いこれで終わりって言ってくれたし、さ、一緒に食べよ」
「うん」
「「頂きます」」
くちに餅をつめこみ、二人の笑顔がこぼれおちる。
二人だけの味がした。
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