~24~ 真冬の美七冬さん
自販機が......嘘だろ。
見ると自販機のジュースが全滅していた。俺は目を疑った。何がって、ジュースが全滅していたのは勿論、おしるこ(hot)があることと、それが売り切れている事に。
入れる方も買う方も、この暑さで頭がいかれてしまったとしか思えない......。
「......春、自販機が」
「お兄ちゃん、これ......」
スッと指をさす春。あっ......。
「おしるこだけじゃない」
そこには、おでん缶(売り切れ)があった。俺達は何かの能力で異空間にでも飛ばされたのか?
「......売店行くか」
「うん」
◇◆◇◆◇◆
「ふむ。 どうしたんじゃ、乃愛」
むすーっとしている孫は頬をふくらましご機嫌斜めの様子。うむ、可愛いのう。
「......僕、四季くんと全然お話し出来なかった。 はあ」
「また戻ってくるじゃろ」
「でも......」
さらさらと自分の銀髪を撫でる。これは......ふーむ。相当気に入られましたな、彼は......あ、いや、孫は渡さんけどのう。一応。
しかし、この子がこれ程懐いたのはネトゲの彼以来じゃの。あれ、そういえば、今日ってレイド何時じゃっけ?
「乃愛......怒ってるとこすまない。 今日、レイド何時じゃったかな?」
「......21時。 おじいちゃん、今日は参加するんだよね......?」
「ああ、うむ。 空きがあればの」
「えー。 そのパターンでいつも行けないじゃん......」
「いやいや、行くときもあるじゃろ......」
「ううう」
やべっ。こりゃ話題のチョイスミスったのう。
すると乃愛はスッと立ち上がった。
「......泳ぐ」
「おお、うむ......よっこらせ」
「そっか......」
「ん? どうしたんじゃ?」
「四季くんは......似てるんだ」
「似てる?」
「うん」
「四季くんは、シキに似ている......だから、話しやすい」
◇◆◇◆◇◆
俺は絶望した。売店の混み具合が尋常では無い事に。隣の春を見ると目に光が無く、前の戦場と化した店内を眺めていた。
「......おっけー。 春、お前ここで待ってろ。 何飲みたい?」
「え......あ、えーと、午前のレモンティー」
「わかった。 それ無かったら適当にあるものになるけど我慢してくれな」
春の頭をぽんぽんとする。すると少し笑い頷いた。さーて、行きますか。
「――っと。 ふぅ」
人の群れを掻い潜り、俺はやっとの思いで冷蔵庫の前まで来た。品を確認する。
えーと、午前のレモンティー......あ、一本ある。やったぜ。
ホッとしたのも束の間。取ろうと手を伸ばした時、同じくそれを求めた客が手を伸ばしていた。
「あら......ごめんなさい。 どうぞ?」
見るとそこには美しい女性がいた。
「......え、いいんすか?」
「うん。 どうぞ。 私、他のでも大丈夫ですから」
俺はともかく、春が飲みたがってたからな。んじゃ、遠慮なく。
「ありがとうございます! 助かりました!」
「ふふ。 いえいえ」
本当美しい人だな。笑顔で出来たえくぼが可愛らしい。大人っぽいけど......大学生くらいか?後ろで括られたポニーテールが揺れている。
「凄い人ね。 まるで戦争みたい」
話しながらきょろきょろとお目当ての飲み物を探す美人さん。
「ですね、ここのプールこんなに人気だったのかと後悔してます」
「あはは。 なんで? あなた、遊びに来てるんでしょう?」
「あー、まあ、妹のお願いで」
「あらあら。 良いお兄さんね。 でも、だったらそんな態度だしてはダメよ? ちゃんと一緒に楽しまないとね!」
「......確かに」
「ふふ。 良い子」
彼女は真夏の太陽とびっくりとろけそうな微笑みを向けてきた。熱中症を越えた何かになりそうだ。するとその時。
「おーい、澪ー! こっちは終わったよー!」
美人さんと飲み物を選んでいると少し離れた所から、彼女を呼ぶ声がした。
「あ、歩くん......旦那が呼んでるからいくわね」
「はい。 あ、レモンティーありがとうございました......!」
「ふふ、いえいえ」
人妻!そりゃあんだけ綺麗ならそうか。なんだか話しやすい人だったな。
列をなすレジ前に並び、ふとガムのポップが目にはいる。それはラストファンタジアのキャンペーン対象の商品を知らせるものだった。
......次のパッチ、早くやりたいな。思いっきり。
そんな事を考えているとレジの順番が俺に回ってきた。
「お願いします」
男性店員さんと目が合う。ん?なんか驚いてない?知り合いだっけ......名前は。佐藤 輝貴さん。知らないな......。
「あ、すみません......取り乱して」
「いえ、大丈夫ですか?」
「ええ、申し訳ございません」
?
「――合計で1352円です」
「はい」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございます」
店員さんは俺が店を出る時、何か言ったような気がする。が、気のせいだろう。
佐藤 輝隆は微笑んでいた。
「びっくりね」
まさかネトゲのチームメンバーとこんなに会うなんて。今のはシキ。さっきのはアユムとミオ。
出勤の時に遊んでいるのが見えた、アリスとニカ、セイシュン。それとは別にエーイチとノアもいた。
大集合ね。まさか1日でこんなに沢山のメンバーにあうだなんて......ふふ。
とても良い子達。あたしもリアルでお友達になりたいけど......それは難しいのよね。きっと不気味がられてしまうから。
あたしは人のオーラが見える。霊能力かなんなのかはわからないけれど、それで人を判別できる。
例え画面越しの彼らチームメンバーでさえも。理由はわからないし。これは誰にも言っていないし、言えない。言えば確実に頭がおかしいと思われるからね。
それが友達になれない理由。多分、あたしは皆に気持ち悪がられる。
俺と春が戻ると、スライダーから戻って来ていた南乃と日夏が永一さんと乃愛ちゃんと一緒に座っていた。
わいわいと談笑中の皆様、お飲み物をお持ちしました。
「ただいまー」
「あ、四季くん、春ちゃん......おかえり」
「長かったね? 混んでたの?」
「ああ、めちゃくちゃに混んでたよ」
「それはそれは、ご苦労様でしたな」
すると乃愛ちゃんがとててっと寄ってきた。俺の手を引き連れていこうとする。
「四季くん、こっち......すわろ」
「まって、乃愛ちゃん! うちとお話ししようよ」
「はっ」
ぎょっとする乃愛ちゃん。可愛いね!でも確かに俺と話すより、歳も近い春と話した方が楽しいんじゃないのか?
「ごめん、妹、乃愛ちゃんと話したいみたいだ。 付き合ってくれるか?」
「......わかった。 あとでまたね」
「ああ、ありがとう」
なでなでっと。何か各方面からの視線が痛い気がするが、気のせい。それよか......
「あ、そうだ! 皆、飲み物好きなの取ってくれ」
「ありがとう! 四季!」
「おお、すみませんなあ」
「あ、ありがとう、四季くん」
「......ありがとう」
「して、四季くん。 おいくらですかな?」
「あー」
一応もらった方が良いよなこの場合。変に気を遣われるとあれだし。
「じゃあ、1人100円で」
「え、絶対100円以上してるじゃん!?」
「あんまり小銭増やしたくないからさ......これは俺の財布の為だよ。 パンパンにしたくないの」
「そ、そっか......じゃあ今度、何かでお返しするね」
南乃!しまったその手が!
「ならば今度うちのカフェへ立ち寄ってください。 サービスしますぞ」
「うん! 四季くん、きて!」
完全に裏目に出てるなー!......まあ、いいか。
「わかった。 ありがとう」
さてと、少し疲れたな。休憩休憩~っと。
日夏は永一さんと話してるから......
「やほ」
「あ、四季くん」
俺は南乃の横に座った。
ゲームしながら南乃と話してよっと。さーて、URAだぞ。
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