~23~ 灯火と春の音
「――日夏ちゃん!!」
「お、おう!? びくったぁ」
唐突に向けられた言葉のボリュームにそのくすぐりの手を止める日夏。
「日夏ちゃん、何で平気なの!?」
「え、何が? てか、「あんたとは遊ばない」って言って傷つけた美七冬ちゃんに謝るのが先でしょ」
「べ、別に大丈夫だよ、私の事は気にしないで......」
なっ......あのお兄ちゃんと乃愛ちゃんの状態を見て、なんなの!?その余裕!?
「お兄ちゃんとられるよ!? 何で日夏ちゃんそんなに余裕なの!? あと美七冬さんごめんなさい!!」
日夏が捕獲の態勢にゆっくりと移行したのを見て咄嗟に謝る。
いや、普通にプールん中でくすぐりってヤバイだろ!さっきからめっちゃ溺れかけてるんだけど!
恐ろしく素早いくすぐり、うちじゃなきゃとっくに溺れてるね!
あのバカ兄は乃愛ちゃんにでれでれしてて助けに来ないし!これは帰ったら制裁まったなしですわ!
てか、マジで日夏ちゃん危機管理能力無さすぎでは?あのお兄ちゃんの膝元にいる乃愛ちゃんに何も思わないの?あの距離の詰めかたヤバイでしょ......あ。ああああ......あのお兄ちゃんの表情!うちがやったら「重い!」とかいって絶対よけるくせに......!
やっぱり、うちがこんな体だからなの?
長く伸びた手足をさすり、胸と脚を隠す。それは目立ちすぎる体を隠そうとする昔からのうちの癖で、ストレスが働くと出てしまう。お兄ちゃんは、この体を綺麗だとかモデルみたいだとかほめてくれるけど......はっきり言ってうちにはどうでも良かった。
四季がうちをみていてくれれば、どんな体と容姿でも良いし、なんならあんな風に膝上に乗れるなら小学生のような姿でも......あ、ダメだ憂鬱になってきた。せっかくお兄ちゃんとのデートなのに。
「は、春ちゃん......? ごめんね? 気分悪くなった?」
「春ちゃん......大丈夫?」
二人がうちを心配そうに見ている。それが何故か哀れんでいるように見え、寂しさに拍車をかけた。
「――春!!」
え?
「どうした? 具合悪いのか......?」
「お、お兄ちゃん? どうしたの?」
「いや、どうしたのは俺のセリフだろ。 お前の様子が変だったから......大丈夫か?」
「ん。 大丈夫」
「......そっか、良かった」
お兄ちゃんはほっと胸を撫で下ろした。呼吸が少し荒い。きっと急いで駆けつけてくれたんだ。
「お兄ちゃん」
「ん? ――おわっ!?」
首に手を回すように抱きつき、水中へと引きずりこんだ。ゴボゴボと溺れ暴れるのを見てうちはあの日を思い出す。
お兄ちゃんが家に初めて来たときの、疲弊しぼろぼろだったあの四季を。
そっくりだな。あの頃の四季もこんな苦しそうな表情でもがいていた......。
ばしゃっ!
「――ぶはっ!」
水中から飛び出た四季は顔を拭った。
「おま! 危ないだろ!!」
「いや、うちだってさっきお兄ちゃんに助け求めてたし」
「あ......す、すまん。 日夏といつものじゃれあいだと思って。 けど、確かに......助けるべきだったな」
申し訳なさそうに頭をかいている。ああ、四季ってやっぱり可愛い。素直で、無垢で、わかりやすい。
「じゃあ、クレープ食べたい!」
「わ、わかった。 帰りにな」
「やったー! えへへ」
「て言うか、四季お話しは終わったの?」
「ああ、いや、春の様子が変だったから......」
「ふふっ」
「? どうした南乃?」
「ううん。 四季くんは春ちゃん大好きなんだね」
......急にどうしたんだこの人は?
「だってすごい焦った顔してたから......あんな遠くからでもわかるんだね。 流石お兄ちゃん」
「か、からかうなよ」
「からかってなんてないよ? 良いお兄ちゃんだなあって思ってさ」
あー、やっぱり。うち南乃さんとは合わないわ。この感じはおそらくそういう意図は無いのだろうけど、うちが使われてる。
「四季~。 すっごい待ってたんだよ?」
「あ。 そうそう......四季くん、待ってたんだ」
「ああ、すまん。 待たせた......けど、何その怪しい笑み?」
日夏ちゃんがにんまりとある方向へ指差す。それは巨大な水の流れる滑り台。
「......」
「四季、あたしさ、四季がよそよそしくなってからずっと寂しかったんだよね。 ずっと......だから乗ろうぜ?」
日夏ちゃん、何が「だから」なんだろう。お兄ちゃんは一言も発する事無く、て言うか気持ちが言葉にならないみたいでスライダーをじっと見つめて固まっている。
......あ、でもその表情いいな。困った顔、子犬みたいでちょっとぞくぞくする。
あの顔は見た目から察する以上に内心怖がっているからね。それを思うとすっごく守ってあげたくなる。
みんな知らないんだ。四季は本当は怖がりな事......毎日心を磨り減らしながら生きている事を。
これはうちだけのモノ。うちしか知らない、四季の秘密。
「お兄ちゃん!」
「はっ! ど、どうした春?」
助け船だしてあげよう。感謝しんしゃい。本当はうちも無理矢理一緒に乗ろうとしてたけど。
「飲み物買いたい! 一緒にいこ?」
お兄ちゃんはうちの顔をじっと見て言われた言葉を考え固まる。
マジでテンパってるな。
すると意図を理解したようで、MyTubeでよくみるワンコのような明るい笑みを浮かべた。ぶんぶん振るしっぽすら見えてきそう。クソ可愛ッ!
「! わかった! ......あーすまん、南乃、日夏、二人で乗ってきてくれ」
「えー! ......まあ、仕方ないか。 美七冬ちゃん行こっか」
「う、うん。 行こう」
二人がスライダーへと歩いていく。
「......あー、春。 その、ありがとな」
「ん? 何が? ......ジュース買いにいこ?」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
この表情がたまらんのだよ!はぁー、ごち!御馳走様だよ!これ、うちの前でしか見せない顔だから!
はい、日夏ちゃん美七冬ちゃん、残念でした。うちにしか見せない表情がある意味......わかるよね?
そう、四季が気を許せるのがうちだけなんだよ!だから君たちには勝ち目は無いのだ!
まあ、歳は少しばかり離れてるけどこんなの気にすることないし。
うちは四季を全て受け入れられるよ。そう、夜中にこそこそ動画を見て●●●●して、●●●を、●●●●が●●●●していてもね!!なんで知ってるかって!?そりゃ盗ち......
っぶね。
さーて、ジュース何飲もっかなあ♪
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