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22/31

~21~ 箱庭

 



 8月29日、日曜日。



 俺と妹、春は近場のプールへと来ていた。


 この日の気温はそこまで高くもなく、外出する人も多く見える。人混みは、マジで嫌いだが春がプールへ行きたいとお願いしてきたので一緒に来たのだ。

 春が泳いでる時にホスガル(ホースガール)してても良いかな?青春魂爆発させて良いかな?


「いやあー、凄いねえ、プール人多っ!」

「いやあー、まじでな、このプール人気あるしな」

「ね! スライダー楽しみだねえ。 わくわく」


 スライダー、それ、1人で乗るんでしょうね?俺は乗らんぞ。スピードの出るものはちょっと本能的に無理だ。ちょー怖い。チョベリバ(ちょーべりーばっど)


「それよか、春。 お前、友達とかと来なくて良かったのか?」

「え、なんで......え、ロリコン?」

「いや違うよ! 狙ってないよ!!」


 何いってんねんコイツ!ほら、通りすぎてった親子が怪訝な顔してるだろ!やだもう変な事いわないでよねっ!ミ☆


「友達とかと遊んだ方が、その......楽しいだろ」

「うーん。 どうかなあ、うち同年代とあんまり話合わないからなあ」


 いじめ!?


「あ、違うからね。 ちゃんと仲良い同級生はいるんだけどさ、話題があわないっていうか、どちらかと言うと日夏ちゃんと話してる方が楽しいかな」

「そうか」


 大人びた容姿をしているが、中身は中学生。そう思っていたが、実のところ精神年齢も高校生くらいに達しているのか?

 もしかして、ずっと俺と一緒にいたから......


「あ!」


 急に春が声をあげた。


「日夏ちゃん!!」


 春の声に反応し、前を歩いていた二人の内一人が振り返った。


「お? 春ちゃんじゃん。 四季も!」


「おお、偶然だな」

「うわあ! 奇遇だねえ、日夏ちゃん! 今、日夏ちゃんの話してたんだよ」

「え!? あ、あたしの!?」

「ああ、春が日夏と話すのが楽しいんだと」

「そ、そういう事か......焦った」


 何で?って、お。


「こ、こんにちは、四季くん」

「南乃も一緒なのか」

「うん、暑いから水浴びしようって日夏ちゃんが」

「成る程......こういう所苦手だと思ってたよ」


 俺と同じで。


「う、うん、人おおいね......あはは」


 あれ、ヤバそうじゃね?表情が暗い。具合悪いのか?


「お兄ちゃん、だれ?」

「え、ああ、同級生の南乃だよ。 あ、南乃、こいつ妹の春」


 ああ、あなたが!と、名前を聞いた途端に声色が明るくなった。妹ほしいっていってたしな。春も春で年上と話するのが楽しいみたいだし、どうぞ、可愛がってやってください。


「......ふんふん」

「? は、春ちゃん......?」


 ど、どうした?春が南乃をじーっと睨んでいる?ってどちらかと言うと観察してる......?


「日夏ちゃん、良いの?」

「え、何がっ!?」

「......ほほー。 まあ、いいや」


 ? なんだ?て言うか道端であんまり話してると邪魔になるな。その証拠にじろじろと見てく人達がちらほらいる。


「あ、すまん、とりあえず中に入ろう。 暑いしな」


「「「はーい」」」


 何これ小学生?




 ◇◆◇◆◇◆



「あ......」


 そう言って彼女は固まってしまった。可愛らしく口をぽかーんと開け、時が止まってしまったかのように微動だにしない。ザ・ワールド!!!


「ど、どしたん? 美七冬ちゃん」

「......水着が、ちょっと恥ずかしいかもとか、思っちゃって」


 あー、四季がいるからか。いやいや、何をいってるのよ、美七冬君。君には恥ずかしがる所なんて何もないじゃない?

 美しい黒髪、整った顔立ち、大きなお目めと、とどめに実った夏一番のメロン二玉!あらあら、美味しそう......って、オヤジみたいだな、あたし。


 ぽよんぽよん......。


 むしろさー、その完璧ボディの美七冬ちゃんと並んでみられるあたしのが恥ずかしいんだけど。これ、どうみても負けてるんよな。

 容姿じゃ勝ち目なくね?


 ぽよんぽよん......。


「......日夏ちゃん、何で胸をさわるの?」

「はっ、つい......!」


 あまりの宝物(ほうもつ)に我を忘れて触っていた......恐るべしメロン。ってか、隣で着替え終わってる春ちゃんが気になるんだけど。

 いつもと違ってかなり大人しい。まるで借りてきた猫のように......。

 やっぱり美七冬ちゃんを警戒してるんかな?


「春ちゃん、どした? 眉間にしわ寄せて......お腹でも痛いの?」

「......日夏ちゃんは、何も感じないの?」


 無視!?


「この人は危険だよ。 うちの本能が言ってる......」

「え、え? わ、私の事......?」

「そう。 お兄ちゃんとは、どういう関係なの?」

「どういう......あ、そっか! ごめんね、そうだよね、自己紹介してないよね!」


 ぽん、と手を叩く美七冬ちゃん。それにより、ぷるんっ!と揺れるそれにピクッと反応する春ちゃん。いや、なにこの謎の緊迫感!


「私、四季くんと同級生で、南乃(みなみの) 美七冬(みなと)と言います。 お兄ちゃんとは一緒にゲームしたりして遊んでるんだよ! よければ、春ちゃんも仲良くしてほしいな~! よろしくね?」

「......よろしく出来るか、出来ないかはあなた次第だよ」


 なんでやねん!


「お兄ちゃんを取ったら許さないから!」

「あ、相変わらずブラコン全快だねえ、春ちゃん。 うざがられても知らないよ~?」

「くっ......だって、この人」

「はいはい、春ちゃん。 お兄ちゃんがせっかく連れてきてくれたプールなんでしょ? ちゃんと楽しく遊ばないともう連れてきてくれないかもよ?」

「うえっ!? そ、それは嫌だ」

「じゃあ、仲良くしようよ。 どうせなら今は楽しんだ方がいくない?」

「は、春ちゃん......一緒に遊ぼう?」

「あー、うん」


 こいつ!あー、なんかムカついちまったなあ!?こうなったら......。

 あたしは春ちゃんの背後に素早く回り込み、がっしり体に抱きついた。

 これが運動部で鍛えたフットワーク!


「......え、ちょ、日夏ちゃん? なんでうちのうしろに」


 そして、春の弱点、脇腹に手を突っ込んだ。


「いやああああ、あひゃひゃはゃ!! やめ!! ごめんなさっ!! しぬ!!」

「オラオラオラオラオラオラ!!!!!」


「に、日夏ちゃん!!?(って、何あれ背後に何か見えてる!?)」


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」


「ひぃーっ、わ、わかりました!! ごめんなさ! やめ、やめて!! あひゃひゃはゃ!!!」


「よーし、おっけ。 やめてあげる。 けど、今の言葉忘れるなよ~?」

「......はぁーっ......はぁーっ」

「す、すごい......」


 やべ、プールで遊ぶ前に春ちゃん体力使い果たしちゃったか?でも春ちゃんが悪い。喧嘩ダメ、絶対。せっかく遊びに来てるんだからさ。


「はい、春ちゃんも自己紹介いってみよう!」

「......う、あ......うん」


 春ちゃんは美七冬ちゃんと目を合わそうとしない。けれどこれ以上無理強いするのもいじめてるみたいで、出来ない。てか、春ちゃんにも嫌われたくないし......どうしようかねえ。

 と、その時。


「ほ、北条(ほくじょう) 穂四春(ほしはる)......うちの兄がお世話に......なってます」


 小さな声で絞り出すように言葉を紡いだ。心なしか牽制が入ってた気もするけど、あたしは嬉しいよ。

 会話してくれれば、きっと分かりあえる。あたしと春ちゃんがそうだったように。


「こちらこそだよ! 私の方こそ沢山お世話になってて......!」


 なんか、四季とこの子にてるなーと思ってたんだよね。春ちゃんの明らかなライバル視と今の牽制が全然通じていない。

 要するに鈍感なのだ。そして天然。


 死にゲーで有名な「暗黒魂」を事前情報ゼロのMyTuberにプレイさせるという企画の動画をみたことがあるけど、今の春ちゃんの表情と完全一致している。その美しいお顔に絶望が張り付いていた。

 対して、美七冬ちゃんは春ちゃんを気に入ったらしく、手を握りしめてにこにこ笑っていた。




 ◇◆◇◆◇◆




 ――長くないか?


 春達が着替えに行ってからもう三十分が経とうとしている。始めた携帯ゲームも中盤になり、俺は焦り始めた。ヤバい、マエストロこない。一回もイベント来てない。


 URAはすぐそこに迫っていた。


 ???「あ......四季、くん......?」


 細く消え入りそうな声。しかしこの雑音立ち込める建物内でもはっきりと聞こえる存在感のある声だった。

 最近、聞いたばかりの声音。


「乃愛ちゃん......!」

「や、やっぱり四季くんだ......! おじいちゃん、四季くんがいる!」


 彼女は振り向き、あの時一緒にカウンターにいた体格の良い白髭のおじいさんに呼び掛けた......って、マジでおじいさん?海水パンツ姿のおじさんボディービルダーばりの筋肉なんだけど。


「こんにちは、この間は店へきてくれてありがとう。 ふふ、孫が君の事を気に入ったようでね」

「あ! おじいちゃん! し~! し~!」


 乃愛ちゃんはその人差し指をうっすらと桃色の唇へあて、おじいちゃんに秘密だと合図した。いやいや、何これ可愛すぎんか?

 よし、ならばここは陽気なお兄さんムーヴかましてこうか(もっと気に入られたい)。


「あはは、乃愛ちゃんみたいな可愛らしい子に気に入ってもらえて嬉しい限りです。 今日はお二人でこちらへ?」

「ええ。 たまには外に出掛けたいと言われましてね」

「だって、暑いんだもん。 とけちゃうよ」

「確かにな。 どろどろになっちゃうよなー」

「......四季くんは? 誰かと来ているの?」

「え、ああ。 連れが三人着替えに行ったっきり帰って来ないんだよ。 あ、ちなみに南乃もいるぞ」

「美七冬ちゃん! やったぁ!」


 乃愛ちゃんは小さな体を屈めて、ガッツポーズをとる。なんだろう、満たされていくこの気持ち。天使というものが存在するならば翼はないが、彼女こそがそれだろう。

 みているだけで心が囚われそうな、この中学生。うちの妹とは対照的だ......あざと可愛い春に対し、この子は純真無垢。


 てか、まだ?何してるのあの人達......?心配になってきた。しかし、その時だった、三人が水着姿であらわれた。


 だが、様子がおかしい、我が妹、春がこちらを見ながら青ざめているではないか。な、なにかあったのか?


「え、なんで......え、ロリコン?」


 はっ、乃愛ちゃん!!!





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