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~19~ 悪役令嬢と怪物

 


 放課後、あたしはとある場所へと足を運ぶ。


 本当は今日、仲良くなった南乃さんともっとお話したりして遊んでいたかったんだけど、彼女はVTuberで放課後は忙しいらしい。

 まあ、かくいうあたしも部活があるんだけどね。


 こないだ四季と帰った時みたいにサボる事は出来ないし、あまりしたくない。けれど、部活の前にやることがある。


「......あ! やほー」


 ちょうど出てきた目的の坊っちゃん刈り眼鏡の男子に話しかけた。


「師匠くん、こんにちは」

「西垣さん? ......今日は。 珍しいですねこんなところで」


 私は今一年生の教室の前にいる。私たち二年生は二階に教室があり、今私がいる一年生の教室の前は二年生は通りがかる事すらない、普段訪れる事のない廊下だ。だから珍しい。


 そしてなぜそんな場所に私が居たのかと言うと、この目の前後輩くん。師匠くんに話があった。


「師匠くんちょっと良いかな?」

「......四季の事ですか?」

「あ、うん。 そうそう」

「では、場所をかえましょうか......どうも西垣さんは目立ち過ぎる」

「ん?」


 目立ち過ぎる?と、気づけば周囲に一年生の人だかりが出来ていた。

 ど、どうしたんだろう?この人だかりは一体......?



 ◇◆◇◆◇◆◇



「ここで良いか......」


 訪れた屋上には寝ている生徒が一人だけ。今日はいつもの熱気も無く過ごしやすい。それこそ外で昼寝が出来るほどに。

 あたしと師匠くんは設置されているベンチへと腰かけた。


「ごめんね、わざわざ。 なんだったんだろうね、あの人達」

「......みんなあなたを見に集まってたんですよ」

「あー......は? え、あたし!?」

「そうです。 あなたはこの学校で最も美しいと言われてるので。 そして一年生があなた方二年、三年を見られる機会は滅多にない」

「へ、へ~......そうなんだ」

「それで、話とは?」

「あ、うん」


 あたしが師匠くんに聞きたいこと。それは......絵師の四季。


「あたし、聞いたんだ。 四季は絵師だったんでしょ? そして師匠くんが四季にイラストを教えていた......」


 言葉を紡ぎながら師匠くんを見ると、彼は少し目を見開いていた。


「あいつが、自分で絵師だと明かしたんですか?」

「うん。 絵師である事は秘密にしてほしいって言ってたけど、気になってて......師匠くんは知ってるんでしょ? 絵師の四季を」


「......まあ。 他には何か言ってましたか? 描いていたイラストについて」

「うーん。 イラストでお金を稼いでいたら師匠くんに怒られた話はしてたな」

「ああ、そうですね。 そうか、あいつ......西垣さんに」


 師匠くんは「......そうか」と呟き何かを考えているようだった。


「四季は何で絵師だったことを何で秘密にしてるの? あれだけ上手なのに......師匠くんは何か知っている? その理由」

「それは四季にとっては話す価値の無い事だったからだと思います」

「えええ!? めちゃくちゃ上手いよね? 四季」

「......ですね。 まあ、確かにそこら辺の絵師に比べるとかなりのレベルです。 でも、あいつのイラストには足りないモノがある」


 足りない物?人がお金を出してまで欲しいと思える程の質を持つイラスト。それを描ける技術を持ってるなんて、かなり誇れる事だと思うんだけど......違うの?


「それは僕にも言語化できない物。 けれど、確かに存在するモノ......四季のように金目的で描いている内は絶対に手にする事ができないモノです」

「へ、へえ」

「僕は色々なイラストを見てきました。 四季が特別悪いとか、そういう訳じゃない......けれどあいつがそれを手に入れられれば、彼に勝てる絵師はいなくなるでしょうね」

「......とにかく、凄いんだね、四季は」

「はい。 僕が怖いと思ってしまうくらいには」


 そう語る師匠くんの目は真剣だった。そんなはずはないけれど、まるで仇敵を見据えてるような、熱く燃える焔が映っていたように感じた。


 ......でも、じゃあ何で描くのを辞めさせたの?


 おかしくない?だって四季が例えお金の為で描いていたからと言ってイラストを描くこと自体をとめるのはおかしい。それ程の力を持っているのなら伸ばしてあげれば良かったのでは?

 イラストを売る行為だけを止める......それだけで良かったんじゃ。


「ねえ、師匠くん。 師匠くんは四季の事認めてくれてるけれど、でも、じゃあ何故イラストを描くことを辞めさせたの?」

「それは......四季が金にならないのなら辞めると言ったんです」

「え?」

「彼の目的はあくまで家を支援するためのお金。 それに繋がらないと知った四季は僕に指摘された事を期に、絵師を辞めたんです......あのまま続けていれば名を轟かせる事の出来る絵師になれたのに。 馬鹿弟子め」


 成る程。確かにあの頃、四季は悩んでいた。気持ちはわかるかもしれない......家族の為にお金を稼ぐ。校則でバイトも禁止されていた中学校では、それくらいしか出来なくて、けれども考えに考え抜いて唯一見つけた道がそれだったのだろう。


「でも、知らなかったな......四季が絵を描くの得意だったなんて。 あたし、小学校からずっと一緒だったんだけど、全然気がつかなかったよ」


「それはそうでしょう......あいつが、四季が絵を()()()()()()のは中二のあの時だったんですから」





 え?




「ふふ。 そうなりますよね? あいつ、それまでは紙に絵を描いたことなんて学校の授業くらいでしか無かったんですよ」

「......絵ってそんなに早く上達するの? もしかして師匠くんが教えるの上手かったから?」


 師匠くんは「くくっ」と笑う。


「残念ながら違います。 むしろ俺が教えた事なんて、殆んどないですよ......あれが本物の才能というやつですね。 努力の才能」


 努力の......いや待って。四季はイラストが売れるまでに一年くらいかかったと言ってたよね。

 一年で素人からお金を貰えるレベルの絵師になったってこと?有り得なくない?

 でも、そうだ......あの頃から学校ではずっと自分の席で黙々と絵を描いていた。思えば目にくまが出来ていることもしょっちゅうだったような......目に生気が無くなってきたのもあの頃だった気がする。死んだ魚のような......


「四季は生活の自由になる時間は全てイラストの勉強に費やしていたみたいで、ある時ふらふらになっているのをみて問い詰めたら、その時の睡眠時間が平均約三時間でした。 激おこで止めましたけど」

「三時間!?」

「はい。 ......あいつは凄い奴ですよ。 凄いを通り越してヤバい。 かなり危険な力を持ってます。 これが欲しいと決めた物は命を削り獲りに行く」


 四季の事......ずっと一緒にいたのに、全然知らなかった。彼は命懸けで戦っていたのか。この現実を、リアルを変えようと。そして、家族を救おうと......すごい。それと同時に畏怖を覚える。

 そこまで自分を捧げられるなんて......普通は出来ない。ましてや中学生だった彼が。


「――まさしく怪物」


 ハッとする。それは四季を表すにぴったりの言葉だった。


「でもね、西垣さん。 あいつ、最初の話なんですが、実はもう手に入れてるんですよ」

「......何を?」

「足りないモノ。 ただし、これは四季のモノではない......西垣さんはVTuberをご存知ですか?」

「うん」


「あいつ、絵師の活動最期にVTuberのモデルを描いたんです。 無償で......それが、誰もが知る星乃アリスというVTuberだったんです。 あ、これ僕が言ったのは秘密で。 あと他言無用で......西垣さんだから話すんですからね」


 私だから?っていうか、まあ、作者から直接聞いて知ってるけどさ......あたしの親友だ。


「彼女が四季のイラストに命を吹き込んだ。 そしてホンモノになった」

「星乃アリスがいたから、完成された......?」

「はい。 西垣さんは彼女の配信をご覧になったことは?」

「あるよ。 すごく可愛かった」

「そう、キラキラと輝き、動き、あいつの描いたイラストが2Dではあるがいきいきとしていて......」


「そうか」


「? 西垣さん?」


 そうか、今わかった。師匠くんが言ってる足りないモノ。


 それは星乃アリス、南乃さんが与えたモノ。


 星乃アリスという存在への「愛情」、つまり「愛」だ。


 彼女があれ程の輝きをはなつ大きな星となれたのは、四季が形作った星の(もと)に彼女の愛情が燦然(さんぜん)と輝く愛情の炎を灯していたからなんだ。


 だったら、あたしは......。



「......大丈夫ですか、西垣さん?」

「あ、ごめんね。 ありがとう、たくさん話を聞かせてくれて」

「いえ。 四季、なにかあったんですか?」

「ううん。 何も......急に絵師だって聞かされたから気になってさ」

「......で、あれば。 あいつは西垣さんに知ってもらおうとしているのか」

「知ってもらう?」

「ええ。 自分の事を......」

「......他にも何かあるの?」

「はい。 あいつが自身を捧げ家族を助けようとしたのにも理由がある。 普通は出来ないような事をやりとげてしまえる、ある種呪いのような......」


 の、呪い?でも確かにさっきの絵の習得だってそうだ。異様としか思えない努力。それを成し遂げたその根元にある「理由」......四季は何かを抱えている?


「それは、師匠くんは知っているんだよね」

「はい。 ......ただ、これに関しては僕からは教えられません」


「うん。 わかってる......ありがとう」


 思えば、四季はあのデートの帰り道、まだ何か言いたそうだった。あたしは混乱した頭と告白が不発に終わった悲しみで取り合ってあげられなかったけれど......聞いてあげるべきだったと、今思った。


「けれど、絵師の話をした所を見ると、おそらく西垣さんにその話はするでしょう......頑張ってください」

「うん......ん、頑張る?」


「......好きなんでしょう? 四季の事が」


「なっ......そ、それは」

「あははは、見てたらわかりますよ。 けど僕は四季にはあなたしか居ないと思ってる......あいつを支えられるのはずっと一緒にいた、家族のような西垣日夏さんしか」

「......あ、ありがとう」


 は、恥ずかしくて顔から火が吹きだしそう。ああ......後輩くんにバレバレだったとは。ってか、師匠くん今更だけど発言がいちいち中二っぽいな。


「そろそろ戻りましょう。 僕も仕事があるので......」

「イラストのだよね」

「ええ。 西垣さんもやることがあるでしょう?」


 やること。


 彼を知る......そして受け止める。




 南乃さんは良い子だ。ネトゲでの彼女も今日はじめてリアルでも話したけど、あたしは彼女の事を好きになった。



 けれど、これは真剣勝負。



 ネトゲの嫁、南乃さん。そして大人気VTuberアリスとそのイラストを手掛けた絵師、四季。




 でも、あたし――





 四季だけは誰にもあげられない。





 運命に抗ってみせよう。この物語における悪役、ヒールがあたしなのだとしても、悪役令嬢の道をたどり悲惨な末路が用意されているとしても、この想いはとめられない。


 だから、彼と彼女の強く引き寄せあう運命を、あたしは変えて見せる。






「師匠くん、ありがとう。 またね」

「ええ、また。 さようなら」








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