~17~ 宝物
えっと......なんで日夏と南乃が?
「陽の者」である、陽キャ日夏と「陰の者」である南乃はクラスでも別グループに所属し、二人が仲良く喋っている事はおろか日常的な会話も俺の見る限りでは今まで全然無かった。
それがなぜ急に仲良く二人で登校しているのか?昨日のネトゲでの絡みが関係しているのか......?
「南乃、日夏! おはよう」
「あ、し、ししし、四季くん」
「おはよう、四季」
日夏、昨日の事があったのにやっぱり普通だな。むしろお隣の方が心配だ......。
目元は見えず表情があまり読めないが、声色と口元からしてかなりテンパってる。蛇に睨まれた蛙、猫に追い詰められた鼠、誘拐され、恐怖で助けてを言えない子供。......最後のがしっくりくるな?
しかし誘拐犯に誘拐とかしたらダメですよ~なんて言ったところで意味ないし、むしろ逆効果である。ってか誰が誘拐犯だよ!かなり失礼だな俺。
「日夏、珍しいな。 南乃と一緒にいるなんて」
「うん、南乃さんに聞きたいことがあってさ。 ね、南乃さん?」
「は、はははは、はい」
「なんで敬語!? 南乃さんは面白いなあ、あはは」
同じクラスでもやっぱり人見知りは発動するのな。いや、人見知りだよね?なんか南乃の反応が過剰すぎて脅されてないか心配になってくる。
「南乃に聞きたいことって?」
「秘密~。 教えるわけないでしょ」
「あううう」
「え、南乃......様子がおかしいんだけど大丈夫か?」
「うん。 なんか、あたしが話しかけた時からずっとこんな感じなんだよね。 なんで?」
「そら、お前が怖いんじゃねえの?」
南乃を見てみる。首を横に数回ふった......あ、違うのね。
「......もしかして、マジで人見知りしてるだけ?」
南乃は首を立てにふった。正解っと......いや、なにこれ。
「南乃、人見知りしてるみたいなんけど、会話になるの?」
「えええ、マジで......」
「ご、ごご、ごめんなさい、が、がががんばりますから」
南乃!!!しっかりしろ!!!気を確かに!!!
しかし、日夏の南乃に聞きたいことって......VTuberの話?いや、多分それは無い。昔から俺が日夏にそうであるように、日夏も俺が嫌がりそうな事は絶対にしない。
と、すれば......単純に友達になろうとしてるとか?南乃を知るために。
そんな事を考え、南乃の頬に指でぷにぷにつついている日夏を眺めていると、先に行ったはずの陸が戻ってきた。
「あ、四季! いたいた! そういや聞きたいことあってさ......昨日、ノアとやってた死者の都どこまで行ったんだ? もし良かったら次俺も連れていって欲しいんだけど......ん? ニカ」
「リク、こんな皆聞いてる場所でネトゲの話とか......オタばれするよ?」
「いや隠すもんでもないだろ。 っつーか、ニカも行かね? お前も最深部行ったことないっしょ?」
「うーん、まあ......ねえ」
......そういえば。南乃って、ニカが日夏って知ってたか?
いや、知らない。知っていたらこんなに挙動不審になってない。多分、昨日のネトゲみたいに普通に喋っていると思う。
南乃を見てみると、小さなお口があんぐりと開いていた。あれは......驚いてるな。
前に聞いた話だと、リアルネトゲ友達はおそらくリクだけしか認知してなかったはずだ。
「南乃......大丈夫か?」
「あ、うん、四季くん......え、え? ニカって、日夏さん......なの?」
「ん?」
「え?」
日夏と陸が頭上に「?」を浮かべ俺と南乃を交互に見る。あー、これ言った方が良いか。多分、今が1番良いタイミングだろう。
日夏も陸も良いやつだ。心配ない。
基本、リアルの話はしてはいけないという決まりはあるが、これはもう事故だし、仕方ないし、あともう仮にごまかすにしても無理だしどう考えても切り抜けられないだろこれ。
マスターのカイトには後で報告しよう。うん。
「そうだよ。 この日夏は俺達と同じチームのニカ」
「あなたがニカちゃん!?」
「え!? ......俺達と同じって、四季、南乃さんもラストファンタジアをやってるの!? なんて名前!?」
「私はアリスって名前! 昨日もおはなししたよね!」
「え!? 本当にアリスちゃん!? マジですごいんだけど!! ウケる!!」
ウケるの!? ......一気に打ち解けたな。なにはともあれ、これで南乃と日夏は普通に会話できるようになっただろう。事故だけど。
二人の様子に一先ずホッとした俺。すると隣にいた陸は面食らったような顔で口を開いた。
「いやー......まじ? こんな身近に同じチームのメンバーがいるとか。 信じられん......奇跡だろ」
「だよな。 でも本物だぞ」
「だからお前、最近よく南乃さんと一緒に居たのか......ん、つーか最近悩んでたのって南乃さんの事だったの?」
「......あー、まあ」
「そっか......ふーむ。 成る程ねえ」
成る程ね、ってどういう意味だろうか。陸にはいつも全部見透かされているような......そんな気がする。なんとなく。
って、おいおいおいおい、日夏さん南乃のその特徴的な成長の証、二つのたわわ、ツインタワー、いや何でもいいけど人前でそんなわしづかみにするなよ!
「や、やめて、ニカちゃん......ひゃ、あっ......んっ」
「いやいやいや、すごいおっきいよね~。 なんでこんなおっきいの? もっと触っていい?」
どういう成り行きでこんなハレンチな事になったのかはわからんが、流石に朝の登校時間。行き交う生徒達の視線で南乃に穴があくぞ......主に胸が。日夏ひきはがすか。
「いやあ、柔らかいねえ」
「は、恥ずかしい、よ、ニカちゃん」
「はい、ストーップ」
「――ぐえっ! 何するの四季!! 襟ひっぱらないでよ!?」
「周り見てみろ。 南乃が恥ずかし死にするぞ......」
「......え? あ、あ~......ご、ごめんね? あたし集中すると周り見えなくなっちゃうんだよねえ、あはは......ごめんなさいっ」
「だ、大丈夫だよ。 ふふ......日夏ちゃん楽しいね」
「アリスちゃん......えと、下の名前で呼んで良い?」
「あ、うん!」
「じゃあ......美七冬ちゃん、リアルでもよろしくね!」
「こちらこそ、日夏ちゃん......!」
楽しそうに話している二人を後から微笑ましく眺めている男ふたり。
「なあ、四季」
「ん?」
「いつから知ってたんだよ?」
「......南乃がアリスだってことか?」
「ああ。 ネトゲでリアルの話をしたのか? ネトゲ夫婦だからって......」
俺は「はあ」と大きくため息をつく。いやもとはといえば君が原因でしょうよ。
「陸さ、大分前の話になるけど、コンビニでネトゲの話したろ。 あれで俺の身バレしたんだぞ」
「......え、まじ?」
「あんとき同じコンビニに南乃がいて、お前の話すチームメンバーの名前で察したんだと。で、シキが俺だと知った......」
「う、うそ~ん......」
「だからこの場合の掟破りは俺じゃねえ。 陸君、きみだよ」
「ば、ばかな......お、俺はどうなるッ!?」
「......良くて死刑。 悪くて死刑」
「死、あるのみ!?」
などとバカなじゃれあいをしつつ校門を通る。先生が眠そうに手をひらひらとしているのを会釈で応対し、校内へと歩いていく。
以前、目の前の女子二人は仲良くネトゲの話をしているようで、笑顔がたえない。
その様子を一緒に見ていた陸が上履きを下駄箱から取り出しながら言った。
「......なあ、四季。 うちのチームってリアルの話し禁止だろ?」
「まあ、そうだな」
「あの決まりって実際、必要なのかな」
「......急にどうした」
「うちのチームって、俺の知る限り大体がうちの高校の人間だろ? いっそ皆リアルで繋がればフェアなんじゃねーかな」
「何にたいしてフェアなのかわからんけど、言いたいことはなんとなくわかった」
「お、さっすが四季くん。 心の友よ! ......お前もそう思わねえ?」
「でも中にはバレたく無いやつもいるかも知れない。 例えば、キャラクターに重きを置いてロールプレイをしてるやつとか......いないとも言い切れないだろ」
「まあ、うん。 確かに......でも」
「でも?」
「みんな良いやつだからさ、出来るならリアルで会ってバカ騒ぎしたいなあ......絶対、仲良く遊べると思うんだよね」
「あー......確かに、な」
オフ会ってやつか。確かに楽しそうだ......皆リアルではどんな人なんだろう。
しかし良いチームだからこそ、それを提案するべきではないのかもしれない。
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