~16~ 変化
ラストファンタジアが起動されたPCの前。俺は淹れた珈琲をすする。
しかし、日夏の事があってか味が全然しない。意識がごっそりと彼女へ奪われている、そんな感覚に囚われていた。
どうしても、あいつの悲しそうな顔が消えない。
「......配信、始まるな」
ラストファンタジアをつけたまま俺はVTuberの生配信を見るべくMyTubeを開く。
手際よく彼女の配信待機所を開くと、画面には美麗なイラストが表示されている。これはファンアートと言うやつで、右下にあるのが描いた人の名前だ。SNSで彼女をフォローしている人がイラストをアップし、彼女がそれをランダムで選び許可をとり載せている。
......上手いもんだよな。こんなプロ顔負けレベルのイラストがSNSに限らず様々な所に転がっている。
腕のある絵師が様々な形で表に出る事のできる現代で、俺の絵は......まだ通用するのか?
そんな事を考えていると軽快なBGMと共に可愛らしい歌声が聞こえてきた。
『もーすこっし♪ もーすこし♪』
待機画面がイラストから二頭身のVTuberが動き回る動画に切り替わる。
これが始まったと言うことは、もう数分で始まる。
『やほー! こんばんは!』
パッと画面へと現れた彼女。にこにこといつもの笑顔で、挨拶をした。
『貴方の心に一番星! 私の光で希望を灯す! 星乃アリス! ――今日もよろしくね!』
VTuber星乃アリスの配信が始まる。順調に企画が進んでゆき、そして雑談へと切り替わる。
『いやあ、それにしても今日はあっちぃねえ。 皆の所は大丈夫かい?』
他愛もない話を皮切りにリスナーの近況に触れたり、オススメのゲームや漫画を取り上げていく。
勿論全てのチャットを拾い上げることはできないが、その一つ一つの言葉を大切にしているのが伺える。
だからリスナーは熱心にチャットを打ち続け、それを通して彼女の目を自分へと向けようとする。
これはリスナーが彼女に触れられる唯一の手段なのだ。
そしてタイミングを見て俺は投げ銭を投下する。えーと、「今日も暑いからアイスがうまそうだよね......あ、ダイエット中だったか。てへぺろ」っと。
まるで嫌がらせのようなスパチャだが、このくらいの方が逆にいじりやすくまた、彼女からしてもネタにもしやすいだろう。
金額は前にちょっと気にされていたから、少し控えめに。涼しげな感じの水色かな。
スーパーチャットを打ち込み送信すると、すぐに反応された。
『あーいーすー! あー、いいっすねえ! なんちゃって。 あ、涼しくなった? ふひひ』
......俺のチャットを上手く使ったな。皆の体感気温を寒い洒落により下げるとは。でもちょっと寒すぎない?
『って言うか、ダイエット中だったのを認識してるのにそーいう事いうんだー? 君、良い性格しとるねえ? はい、ブラリ、ブラリ~っと......ポチッ!』
え、嘘!?
『うっそー♪ ふひひ』
くっ......一瞬マジでビビったぞ。やるやんけ。危なく口に含んだ珈琲を口からバーストストリームしてキーボードのライフがゼロになる所だった。
『皆はどんなアイスが好きなの? ......ふんふん。 え、コーンポタージュ味!? なにそれ美味しいの!?』
他愛のない話で盛り上がり、今日の配信も好調に終わりを迎えた。時間はもうすぐ23時。
『今日も楽しかった。 お疲れ様』
『ホント? ふひひっ。 ありがとー!』
『今日はネトゲインするのか?』
『うんうん! の前にお風呂入ってくるよ~』
『おお、了解』
『また後でね~!』
俺は目を閉じた。本気で信じるんだ。千里眼の存在と己の可能性を......!
神様お願いします、ユニークスキルください。南乃のお風呂を我に見せてくださ......
ポーン! ビクッ!!
音のした方を見ると、ネトゲでのメッセージが届いていた。焦った~。誰だ急に......まじでびびったわ。
ノア『シキー! 配信みるの終わった? いる?』
ノアか。どうしたんだろ......珍しいな。
シキ『いるぞー』
ノア『あ、良かった! ねね、今からダンジョンいかない?』
シキ『いいけど、エーイチは?』
ノア『ああ、おじいちゃん明日用事あるみたいでもう寝ちゃった』
シキ『成る程』
ノア『だめ?』
シキ『いや、いいぞ。 どこ行く?』
ノア『死者の都』
シキ『まじかよ』
ノア『まじだぜ』
シキ『おっけー、わかった。 ただし三十階までな。 そこまでいったら一旦戻ってくる......OK?』
ノア『おーけーおーけーあいむそーりー!』
シキ『適当だなおい!笑』
ノア『あはは』
さてと、南乃が来る前に三十階到達は出来るだろ。あんまり悩んでいても仕方ないし、丁度いいかな。ノアに助けられた気がする......てか、この人確か中学生じゃなかったか?
終わったらもう寝るように仕向けよう。
アリス『たでーま!! シャワーで済ませてきたぜい!』
......メッセージ反応なし?もしかして、ネトゲでどっか行ってる?だったら、チームチャットのが良いかな?
アリス『あれ? シキいないのー?』
シキ『すまん、もっと遅いかと思ってノアと死者の都きてる!』
ノア『ごめんねー! シキかりてるー!』
アリス『そかそか。 了解! 焦らないで良いからね~』
ニカ『あ、アリスさん、時間ある?』
アリス『あるよ~!』
ニカ『ちょっと手伝ってほしいんだけど、良いかな??』
アリス『はーい! 今いくねー!』
ノア『ちょっと! シキ! 待って待って! しぬしぬしぬ! どうしたの!?』
シキ『え、ああああああ、すまん!』
ノア『急にお手てがお留守になってるよ!?』
シキ『いや、大丈夫、あ、ああああああ!!!』
ノア『どこが大丈夫だあああああ!!!!』
シキ『やだ! しにたくない! しにたくない!』
ノア『落ち着けww』
シキ『ノア、俺達、無事に戻れるのかな......』
ノア『フラグを立て始めるなよ!!笑』
シキ『まだ、終われねえよなァ!?』
ノア『フラグを立て始めるなよ!!』
シキ『あ、や......ごめ』
ノア『フラグを回収するなあああああ!!!www』
リク『wwww』
ニカ『w』
アリス『ちょw』
アユム『www』
◆◇◆◇◆◇
朝、通学路を眠気眼を擦りながら歩く。
「......眠い」
あいつの事が頭から離れなくて全然眠れなかった。......でも日夏も昨日ネトゲインしてたな。案外、日夏も格ゲーでメンタル鍛えられているから大丈夫、なのか?......わからん。
ちなみにノアとの死者の都はやり直して無事に三十階へと到達できた。いや、何が失敗の原因てニカがアリスと話をしていたのが気になって......まあ、ニカはアリスが南乃だと知らないはずだけど。
うーん、気にしすぎだよな、俺。
「おーい」
後ろから陸の声が聞こえた。
「ん? ああ、陸。 おはよう」
「おはよーさん! ってかお前また眠そうだなあ」
「考え事をしていて。 気がついたら二時とかだった」
「マジかよ。 あんま無理すんなよなあ......って、眠れねーんだったな」
「考え始めるとどうしてもな。 何か良い安眠方があれば」
「良い安眠方か......あれはどうだ? 耳かき音声動画! あれ聴いて寝たら? スゲー眠れるらしいぞ」
「ああ、あれか」
耳かき動画か。耳かきの音を再現した動画の事で、バイノーラルマイクというものを使い録音することにより、イヤホンで聴くと実際に耳掻きをしてくれているような感覚に落ちる、らしい。
安眠と銘打った物が多く再生数も多い所をみるとやっぱり効果はあるのか?と思ったこともあったが......まあ、いまある眠れない原因を解決しない事には、安眠もなにもないのだけれど。
「声の可愛い子も多くて、耳元にウィスパーボイスで喋りかけられるとたまらないらしい」
「......詳しいな」
「はっはっは、バレたか! ああ、使ってるぜ! この俺が三分で眠りに落ちる事もあるんだぞ......本物だろ?」
「陸が? ......なるほど」
「オススメはなあ~......これとこれと、共有。 ほい、メッセージに送っといたぜ! あとで聴いてみ!」
「ああ、ありがとう」
「あいよー! んじゃ、先行くぜ。 またなー」
手を振りながら走っていく陸に俺は心の中でお礼を言った。なになに......「ロリロリ☆華秋先輩のお耳クリーニング♪」?あれ、そんな名前の先輩うちの学校にいたような?......まあ、いいか。
それよりも、今現在気になっている事があるんだが、目の前を歩く二人組......あの茶髪ツインテールと前髪が長い女子は。
なんで二人で登校してるの?
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