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~14~ 暗闇の煌めき

 


 ――あの時、四季があたしを助けてくれた、ゲームセンター。


 先生と病院へ行くため出口に歩く背中に、不謹慎にもあたしは胸が高鳴っていた。




 これが、始まり。この恋の始まり。




 いや、違う......のかな。多分もっと――。







 ◆◇◆◇◆◇




 光が水を通りキラキラと屈折する。巨大な水槽のトンネルの中。


 きらびやかな光の反射に、光沢のある身体が美しく輝く。無数の魚達は思い思いに泳いでいる。


「綺麗だな」

「凄い綺麗だよね」

「......俺、水族館好きって言ったっけ?」


「......あー、うん」


 ......嘘? なんで?日夏は嘘をつくとき数秒考え込む。水族館は好きだ。けれど、誰から聞いたんだ?

 ......胸の痛みは引いている。好意の判別は自分で思う1番嫌な癖だ。


 日夏が言う。


「あ、そういえばさ、岡崎先生が言っていたんだけど部活作ろうと思っているんだって」

「部活? なんの?」

「ゲーム部」

「......え、ゲーム?」

「そーそー。 ほら、今ってゲームってただの遊びじゃ無くなってきてるでしょ」

「あーeスポーツとかあるしな」

「うん。 それで部活作ろうかなって。 でも意外だよね、岡崎先生がゲームとか言い出すの」

「いやぁ~多分、姉さ......じゃない、岡崎先生の目的はネトゲだぞ」

「え?」


 多分、あの人はネトゲを如何にして勤務中にプレイするか考えているはず。なぜわかるかって?

 答:前に言ってたから。






 ~数ヶ月前~



『おいおいどーなってんねん、うちの学校!』


 唐突なチャットの受信音と共に謎のメッセージが送られてきた。


『!?』

『四季、お前部活に入りたくないか』

『え、嫌だ』

『頼むよ~。 何かさ、今日言われたんだよね。 皆何かしらの部活の顧問になってるし、先生も受け持っては?って。 手の足りてない部活もあるんだし、一つくらい持ちなさいって』

『なんだそれ、めんどくさ』

『そうなんだよ。 ......で、何部が良い?』

『いや、入らないってーの』

『えー、一緒にやろうよ~。 一人は嫌だよ~』


 いや、子供か。仕方ないでしょう、仕事なんだから。......ん?そう言えば。



『姉さん、それ受け持つとレイドとかヤバくねーの? かなり私生活の時間削られるだろ』

『そうそう、それが1番の問題なんだよね。 ネトゲのレイド間に合わなくなっちゃうよ~』

『それは、悲しいな。 先生の生き甲斐なのにな』

『ねー可哀想でしょ?』


 え、ツッコミが無い!?


『マジで困ったわ~。 私の人生唯一の楽しみが』


 何かすげー悲しいセリフが聞こえた気がしたが、ここはスルー推奨だよと俺の良心が諭してくる。......けど、可哀想であることも事実だよな。上手いこと良い部活につければ良いんだが。うーむ。


『いっそ部活でネトゲできれば良いよな』


 と、チャットした五秒後。


『それだ!』

『え』

『さっすが私の弟! そうだよな、部活でゲームできりゃ良いじゃんね』


 え、良いのそれ。


『ありがと! じゃ』


 え、良いのそれ。


 先生のチャットがそれきり来なくなりこの話題はこれで終わったかに思えた。

 この時の話はどうなったのかと思っていたらちゃんと考えていたのか。話を聞いてると言うことは日夏も勧誘されてるの感じ?......まあ、部として発足させるには人集めないとだよな。ってか




 ......ゲーム部、発案したの俺だったわ。




「岡崎先生、ネトゲとかするんだ」

「ああ。 かなり上手いぞ」

「? 何で知ってるの?」

「聞いた話しだとラストファンタジアの高難度レイドもクリアしてるらしい」

「へえー、凄い」


 て言うか一緒にいたんだけどね。俺と日夏がクリアした時その場に。同じチームだからね。


「じゃあ面白そうだね、ゲーム部」

「......お前、本当は」


 格ゲーが......と口をついて出そうになったが、踏みとどまる。

 日夏が格ゲーをプレイしようとしなくなったのは、おそらくあの事件がきっかけだ。本人には聞いたことは無いが、間違いないだろう。

 俺がもっと早く、上手く立ち回れれあれ程の恐怖心を植え付けられる事もなかった。

 だから俺が言って良い台詞では決して無い。「本当は格ゲーがやりたいんじゃないのか」だなんて。


「どうしたの? 四季、顔色悪くない?」

「え、あー、いや」

「あ、お水......はい」


 バッグから取り出した天然水を手渡してくる。多分、この暑さのせいで具合が悪くなったのだと思ったんだろう。

 ここで要らないと言うのもあれだし、貰おう。


「......ありがとう」

「んーん。 塩飴なめる?」

「いや、大丈夫......むぐっ」

「あははは」


 口に押し込まれた飴は甘いレモンの味と、ほのかなしょっぱさがあった。



 太陽がゆっくりと赤々輝き、沈んで行く。この水族館目玉イベントのイルカショーを観覧しひとしきり楽しみ終えた俺と日夏は近場の浜辺を歩いていた。


 空には星が輝き一日の終わりを彩る。何があると言うわけでもないんだけど、その光景に寂しくなってしまう。ああ、綺麗だ。


「イルカショー楽しかったね」

「ああ。 凄かったな、迫力が」

「ね。 皆すごくおりこうで」

「そうだな」




「なあ」

「ん」


「お前さ......本当に、本気なのか」

「当たり前でしょ。 あんた以外......好きになった人なんて居ないんだから」


「けど、でも......」

「......なに」

「昔、ゲーセンで、高校生に絡まれた事件あったろ......」

「あったね」

「あの時、俺は謹慎処分をくらって」

「うん......ごめん」


 ? 何で謝るんだ?いや、それより。


「謹慎があけて、お前とあったとき雰囲気が全く違っていた。 髪を切り、色も明るくなって......化粧も」

「だから避けたの? 別人だと......あたしがあたしだと思えなくて?」


「違う。 だから......俺が居ない間に彼氏でも出来たのかと思った。 すごく綺麗になっていて、俺にはそれくらいしか理由が思い当たらなくて」


「鈍感って、罪になるのかな......」

「くっ、すまん......」

「あ、違うの、あたしの事ね? 多分その前からあんたの事が好きだった......でも、ちゃんと気がつけたのはあのゲームセンターで四季が身を(てい)してあたしを守ってくれた時」


 守って?いや、俺は......守れてなんかない。あんな無様でカッコわるくて。あれくらいしないと俺にはもう利用価値もない......。


「だから、あたしがごめん。 ちゃんと口に出して言うべきだったよ」

「......」


「この髪と化粧、お姉ちゃんに習ったんだ。 最初はね、地味なあたしが急に髪染めて、化粧もしてって恥ずかしくて。 ほら、あんただけじゃなくてクラスでも目立っちゃうし、怖くてさ」


 確かに、これはかなり勇気がいったハズだ。特に前髪が眉上で綺麗に切り揃えられているのは、これは......予想なんだが、お姉ちゃんやらかしてるだろ。それなのに、頑張ったな。


「お姉ちゃんが前髪切りすぎたときは悲鳴あげたけどね。 長くなるまで学校休もうかなって。 あははは」


 やっぱりね!でも似合ってるんだよな。今でも同じ髪型だし、気に入ってもいるんだろう。


「でもね、イメチェンする前、四季の事が好きってお姉ちゃんに相談したらこう言ったんだ。 そのままで好きになって貰えるのかな?って。 まわりには可愛い子が沢山いる。 けれどそれは皆最初から可愛かった訳じゃない。 努力して可愛いを手にしているんだって」


 努力か......。


「怖いとか、恥ずかしいからとか理由をつけるのは簡単だけど、努力して少しでもそこに、可愛い自分に近づかなければ、いつか努力してる子に狙われたらとられちゃうんだよって」


 俺をとるやつなんて......と、思ったが、すぐに自分のバカさ加減に気がつき嫌気がさした。それがいるからこいつは今、こうして頑張ってるんだろ。


「だからね、頑張った」


「ああ」


「あたしをずっと、側でずっと......応援してくれて、支えてくれていた。 あたしがここまで歩いてこれたのは、四季が居たからだよ」



 星の輝きが彼女の潤んだ瞳に映った気がした。俺も彼女も熱がある。



「四季が、好き。 あたしと付き合って」




 星がひとつ、海に落ちた。










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