~13~ 白い月と日溜まり
8月24日。晴れ。
駅前にてデートの待ち合わせをしていた俺。5分前に到着し、携帯のメッセージを眺める。
春『お兄ちゃん、どこ行ったの? 遊んでほしいよう』
ふふ、可愛いでしょ俺の妹。まあ、このメッセージが一通だけであれば心の底からそう思えたんだけどね。かれこれもう十二通全く同じ文面が送られ続けている。
俺の妹はボットだった......?「俺の妹がボットだった件」ってタイトルのラノベが始まりそうだぜ。
しかし妹よ、すまんな。今日は遊べない......俺は今から戦いに赴くのだ。ちゃんとお土産買ってくから、前みたいに玄関で包丁持って出迎えないでね。お兄ちゃんとの約束だぞ☆
そんな事をもんもん考えていると、日夏が人混みの中からとことこと現れる。
涼しげな白いシャツと、黄色のミニスカート。肩にはショルダーバッグが掛かっている。
シャツは袖と首もとに可愛らしいフリルがあり、ミニスカートも何かの柄なのか綺麗な色のコントラストで日夏らしい明るい印象を受ける。
「おはよう。 人、多いねえ......」
「お、ああ......おはよう。 休日だしな」
「だねえ~」
いや、やべえな。可愛い、可愛いすぎだろ。ちょっと気合い入りすぎでは......まあ、俺の鈍感具合を知っているんだ、本気って所を見せるにはこういう方向性が良いって事かな。
本当、鈍感男って嫌よねえ......はい、すんません。
「えっと......今日ってどこ行くんだ?」
「うん、待って今ね、ちょっと迷っている」
「え、迷ってるって......道?」
「あはは、違う違う」
日曜日のお昼付近、日差しの照りつける空は快晴というやつで気温も高くお出かけ日和。贅沢を言うのであれば、デート中は太陽とはかくれんぼをしていたい。雲の間に隠れていてくれ......八月ではあるがこれはちょっとばかり暑すぎる。ふぅ。
「もしかして時間的に飯か遊ぶか迷ってるのか?」
「うん、そーそー。 でもねえ......」
ずいぶん悩んでんな。まあ、エスコートされている俺は下手に口を挟むまい。日夏が一生懸命考えてくれたデートプランだ。
陰キャな俺に寄せてくれたらしいデートコース。
しかし本当に凄い人だな。休日ってこんなに人出歩くんだ。基本家に引きこもってネトゲしてるから、たまに見る人混みは圧巻だな。
あ、電光掲示板で「fight~メイドオーダー~」の宣伝してる。俺の推しは引きこもりオタニート、刑部姫。普通に気が合いそう。
「決めたっ!」
「おおう!?」
「ぷっ、今びくってしたでしょ......あはは」
「いや、そりゃあするだろ。 急にでけー声あげたら」
「ははは、かわいいなあ」
「いや可愛いのはお前だろーが。 ......あ」
「むむむ......ありがと。 つーか、思ってくれてるなら早くいってよね」
「い、いえるか。 恥ずかしい」
「ふふん。 まあ、良いよ......それじゃ、ご飯食べよっかー!」
「おお。 ご飯ね......了解っす」
いつぶりだろう日夏と一緒に最後に出掛けたのは。もう何年も前の気がする。懐かしいな、こいつが左隣に居るこの感じ。
「んで、どこ行くんだ?」
「この近場にね、予約しといたレストランあるの......時間まで少しあるから遊ぼうかなと思ったけど、迷ったらやばいしもう行こうかなって」
「ああ、成る程......って、レストラン? た、高いのか?」
「そんなにはしないけど......大丈夫、私がごちそーするよ!」
「あー、いや。 それは申し訳ないからダメだな」
「いやいや、日頃お世話になっているからさ。 気持ちだよ」
「いやいや、むしろお世話になってるの俺のほうだろ......」
「むむむ。 聞き分けないなあ......これは師匠くんに言っとかないとね」
「マジか」
いやでもさ、昼食代奢られるとか軽くヒモ男じゃんよ。て言うかこいつとは貸し借りとかそういうのは無しでいたい。何となく。
「まあ、聞き分けないのは前から知ってるだろ。 ほら、行くぞ」
「あ、ういっす」
多分、日夏は大会で優勝したときの賞金があるからそれを使う気だったんじゃないだろうか。
いつの大会だったか、俺がいてくれたから優勝できたとか言って賞金の半額を渡そうとしてきた事がある。その時は断ったが、暫くは何かにつけて俺に賞金を使おうとしていた。
だから今回の支払いの提案もおそらく......まあ、想像の範疇で確証も無いけれど。
それからとことこと、俺は日夏と日差しの降り注ぐ大通りを歩いた。十分くらい歩いたところに外装が煉瓦で出来た小さなレストランが見える。
「あれ、あのお店だよ!」
「おお、めっちゃおしゃれな感じだな(語彙力皆無)」
「ね! 可愛いでしょ!」
漂う鼻と胃を刺激する匂い、頭を過る文字通りまだ味わったことのない飯の味。膨らむ味の想像。
「ここね、オムライスが美味しいの」
「......」
「好きでしょ、四季」
俺は急に言葉が出なくなった。こんな俺みたいな奴に......まだ、大丈夫だよな?俺は、おそらく多分、まだ必要とされているはず。
くそ、さっきまでは普通に居られたのに。こうして想いを形としてあらわされると胸の奥に手を触れられているようで......。
この日夏の気持ちは本物なのか?またあの時のように......愛情に見える何かではないのか。
偽物でも本物でも俺には......この苦しみは。
南乃の時は大丈夫だったのに。この違いは......なんだ?
おそらく彼女の気持ちに嘘はない。けれど、受け入れられない......し、受け入れてはいけない理由も俺にはある。
俺は、どうすれば彼女に、幼なじみに応えられる?......理由。理由を言えばそれで許されるのか。
動揺を抑え込み、声に出ないよう慎重に口を開いた。
「覚えてたんだな」
「うん! もっちろん。 あんたの事好きって言ったっしょ」
「......それ、なんだけどな」
俺が例の話を切り出そうとした時、日夏はまだだよと言うように言葉を遮る。
「あ、待って。 それは私の話し聞いてからにして......お願い」
「あ、いや......まあ、良いか。 せっかく連れてきてくれた店だしな。 ご飯を味わおう」
「......うん」
日夏のオススメで一番人気の「オムライスの赤ソースがけ」を注文。食事がくるまでの間、俺達はいつものように他愛のない話をしていた。
「――だからね、お母さんがさ言うの。 シーフードが最強、あれは他の追随をゆるさない!って。 でもカレーが一番だよね?」
「バカいえ、醤油が最強だろう。 最終的にたどり着く味の境地はノーマルだ」
「まあ、醤油も美味しい。 ......でもチリトマトも美味しいよね」
「あ、確かに。 あれも美味いよな」
そして話の切れたタイミングで注文したオムライスが運ばれてくる。これは匂いからして美味しいのがわかる......ってか、俺らレストランで何の話ししてんの、これ。
オムライスにかかっているのはデミグラスソースではなく、赤い......ケチャップか?よく見るとトマトの果肉のような物が見える。初めてだな、こういうの。
「このお店オリジナルのトマトソースがね、凄い美味しいの」
「そうなのか。 いただきます」
「そうなのだよ。 いっただきまーす」
湯気の立ち上るそれを口に運ぶ。これは!!程よい酸味とトマトの風味。ケチャップのようでまるで別物だ。美味い!
「めっちゃ、美味いな!」
「ね~! 美味しいよね」
にこにこと笑顔で頬張る幼なじみを見ていると、それに気が付き手を止めた。恥ずかしそうにジト目で俺に聞いてくる。
「......な、なに? 見られてるの恥ずかしいんだけど」
「いや。 良い顔して食べるなって思って。 お前のそういうとこ良いよな」
彼女はうつむき小声で「......ば、ばーか」と返してきた。
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