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~12~ 始まりの想い (日夏の思い出②)

 


 ――わああああああああー!!!!



 会場の盛り上がりは凄まじかった。熱気と熱狂、ゲームがゲームだからかどのゲームでもそうなのかわからないけれど異様な雰囲気に気持ちが呑まれそうになっていく。


 大会当日、私は予選を受けるべく大会登録者の列に並んでいた。


 ああ......あああ、ああ......めっちゃ人が多い。あたし、この中でちゃんと勝ち抜けるのかな。って言うかちゃんと戦えるの?

 怖い、怖いいいい!!わざわざお父さんもお母さんも、それに四季が来ている......予選で落ちたりとかは絶対出来ない!


 頑張らなきゃ、頑張らなきゃ頑張らなきゃ。......あ、あれ?ヤバい、また手が震えてる。これはヤバい。


 止まれ、止まれ止まれ!負けるわけにはいかないんだ、お願い止まって!


「――はい、これで登録完了ですね。 予選はあと三十分くらいではじまります。 会場アナウンスがあるので指示にしたがって下さい......頑張ってくださいね!」

「あ、は、ははは、はい!」

「ふふふ」


 受付の人、笑ってたな。まあ、ミミズが歩いたようなぐにゃぐにゃの文字書いてたらそりゃ笑うか。


「......登録済ませてきたよ。 なんかね、中学生は二人だけみたい」

「おお、まじか......って、目に光ないぞ。 大丈夫かお前」

「あ、ごめん。 うん、大丈夫だよ......他は皆高校生とか大学生とか社会人だって......」


 どうしよう。わかっていた事だけれど、やっぱりほとんどの人が大人の人なんだよね。しかもこれは大会。地元のゲーセンとは違って本気でやってる強いプレイヤーがごろごろいるんだろうな。


 負けるイメージがとめどなく溢れてくる。その波に押し潰されさらわれそうだ......けど今更そんな弱音を言ったところで、誰も助けてはくれない。

 頼れるのは、このあたしの腕のみ。


「ごめん四季、ちょっとトイレ」

「ん? おお、気を付けてな」



 トイレも人が多く列が出来ていて、用をたすのに十分くらいかかった。早くに来といて良かったな。

 歩きながらあたしは右手をじっと見つめる。


「......また、手が震えてる」


 ふと前を見ると四季が手を振っていた。


「おかえり」

「......ただいま。 トイレすごく混んでたよ」

「マジか......さすが大きな大会なだけあるな」


『――会場の出場選手へとご案内します。 間も無く、予選を開始します。 選手は決められたブロックへと集まって下さい。 繰り返します――』


「......行ってくるね」

「ああ、頑張れよ」


 止まれ止まれ、止まれ......!


 ダメだ。思えば思うほど、願えば願うほど余計に......息も苦しい。これはやばい、かも。


「あ、日夏、待って!」

「え?」


 あっ――


 四季はあたしの両手を握ると、そのまま包み込み言った。


「お前、別に負けても大丈夫だぞ。 負けても何も失うものはない......て言うか、こんな大きな大会なんだ。 負けない方がすげーって」


 あたしの目を見て更に続ける。心臓の音が、うるさい。


「けど、まあ、勝ったらヒーローだな。 ......暴れてこいよ、俺のヒーロー」


 ヒーロー......え、ヒーロー?


「......ぷっ、ふふふ」

「笑った!?」

「わかった。 ありがとう......観ててよ」

「な、何で笑われたのかわからんが、ああ、観てるぞ」


 震えは止まった。


 呼吸も苦しくない。


 失うものは何もない――だけど、勝てばヒーローだ。あたしは、彼のヒーロー。


「あたしは、やれる!」



 心臓の音で全ての雑音が消えた気がした。


 あたしの背中に「天」の文字が燃え出ているような感覚。全てを出しきるんだ。



 そこからはまるで一瞬の事のように感じた。あっという間に予選を勝ち抜き、準決勝、決勝と進んでいった。危なかったのは準決勝の大学生と決勝の女子高生。どちらもギリギリの削り合いだった。


 そして――



『優勝はッッ――西垣(にしがき) 日夏(にか)選手!! 数多の強豪プレイヤーの頂点に登り詰めたのは、この女子中学生だー!!!』


 おおおおおおおお!!!すげーな、嬢ちゃん!!!

 わああああああ!!!わあああああああ!!!


 会場は怒号に似た歓声で揺れ湧いていた。


『では、優勝者の......西垣選手、一言頂いても良いですか』

『え、あ、はははは、はい!』


 はははっ!チャンピオンは可愛いなあ!がんばれー!

 観客席の人々から声援が飛ぶ。


『えと、まず、今日あたしがここに立っていられるのは大会への参加を認めてくれた父と母のお、おおかげです、 ありがとう。 ......そ、そして決勝へとくるまでに戦ってくれた選手の方々、その一つ一つの戦いであたしは、更に強くなれたように感じますありがとうございました! ......あとは』


 あたしはずっと側にいてくれた彼を見つめる。微笑んで私の晴れ舞台を眺めている彼を。


『ず、ずっと......ここまでささえ続けてくれた、四季。 本当にありがとう、君がいたから歩いて来れたよ。 ......お、終わりです、皆様ありがとうございました!』

『ありがとうございます! 皆様、第十四回チャンピオンに盛大な拍手を!』


 わあああああああー!!!


 こうして一つの大きな格ゲー大会が終わり、私はその世界で注目の的となった。大会初出場、初優勝。そして、女子中学生。

 雑誌にも取り上げられ顔も広く知られるようになった。


 そして中学二年生へと上がる頃には更に格ゲーの大会を二つ優勝し、実力も相当なモノになっていた。

 しかし、その頃あたしの相棒のような存在になっていた四季のご両親が理由は詳しくしらないが、職を失ってしまった。


 四季はまだ中学生だった事もあり、何かでお金を稼いで両親を助けたいとあたしに言っていたが働くことも出来ずに日々を悩みと共に過ごしていた。


 あたしは格ゲーの練習を毎日していて四季はそれにずっとついてきてくれていた。家が大変な事になっているのに、それでもあたしの側に居てくれて、心配な反面それが嬉しかった。


 あたしには四季の悩みを解決してあげられる術がない。優勝賞金を渡そうかと考えた事もあったけれど、それを受け入れてくれるとも思えず、そしてその提案をすれば何かが変わってしまうのでは無いかと言う不安もあった。


 そんな思いを抱えながらどうしようもなく月日は流れた。そして初めて大会で優勝し丁度一年たった頃。あたしと四季はいつものように格ゲーの習にいつものゲーセンへと足を向かわせる。


「今日も人たくさんかな」

「うーん、どーかなぁ......でも一昨日はあんまり人いなかったよね」

「けど四日前はたくさんいたよな。 結構待ってやれたのは3プレイだけ......」

「だねえ」

「かと言って他に近場のゲーセンは無いしな」

「まあ、あたしは待つのとか気にしないから大丈夫だけどね」


 最近では待っている時間も嫌いじゃない。四季と居る事が心地がいいし、四季と話す事が楽しいのだ。


「それなら良いんだけど」

「うん......って、あ。 今日は空いてるね」

「本当だな。 一人しか座ってない......」

「ラッキーだね!」


 でもこの時間に一人だけとか見たことがないな。本当にラッキーだ。さてさて、コインを一枚入れまして。

 投入口へ飲み込まれる硬貨。それに応じ筐体のキャラクター選択が可能になる。

 選ぶのはいつもの女性キャラクター。


「よし、行くぞ~」


 対戦相手の人は、見たところ制服を着ていたので高校生だと思う。さてさて、強い方かな。


 先ずはあっという間に一勝。ガードの甘さとコンボの繋ぎの荒らさを見極め畳み込んだ。でも、この人、反応速度はある。


(もう少しレバーの操作をスムーズにしたいな......)


 その時、「ちっ」と言う音が聞こえた。え、舌打ち......?いや、気のせい?

 あ、次のラウンドが始まる。


 相手は明らかに練習不足で、使いなれないキャラクターだとかではなく、典型的なゴリ押しタイプのプレイヤーだった。


(......? 何か雰囲気が、変だな)



 ◇◆◇◆◇◆



「だーかーらー!! 海斗がラストファンタジアでチーム作るっていったんじゃねえか!」

「言ったぞ。 しかし、陸、お前を入れるとは言ってない」

「はあ? じゃあ何でその話を俺にしやがったんだよ?」

「そうだな。 お前がもう少し腕の立つプレイヤーになれば入れてやらんくもない......」

「てめえ、何を偉そうに。 ちょっとイケメンだからって......隠れオタクの癖に」

「ならば証明してみることだな。 お前が俺より上手い竜騎士だと言うことを!」

「わかったよ。 でも、んなクレーンゲームで取った美少女フィギュアを大量に抱えながらキメ顔で言われても......」

「ふん......どれだ?」

「あ?」

「どれが欲しいんだと聞いている」

「いや、欲しくて言った訳じゃ......」

「この火曜日のあわわフィギュアだけは勘弁してくれないか」

「いやいらんから......」


「......ん!? 陸、あれをみろ......」

「なんだ急に......あの格ゲーの女がどうした?」

「彼女はうちの中学の生徒だ。 確か名前は西垣日夏、二年。 格ゲーの大会で何回も優勝している強者だぞ」

「マジか! このゲーセンが練習場所だったのかよ。 ゲーセンコーナーあんま来ないから今まで気がつかなかったのか」

「かもしれないな。 よし、彼女をチームへスカウトするぞ」

「え、格ゲーが上手いんだよな? ラストファンタジアはMMOだぞ?」

「ああ、そうだ。 だが、あのゲームへの熱意......あの情熱がある彼女なら良いラストファンタジアの戦士となれるだろう......だから口説いてみる」

「えええ......なにその理論」


 ◇◆◇◆◇◆


 ――ガンッ!


 ゲーセンの騒音に筐体の蹴られた音が混じった。


 日夏の集中力は最高に研ぎ澄まされ、まわりの音が全てシャトアウトされていた。勿論、対戦相手が筐体を蹴った音も聞こえていなかった。


 ......あれ、対戦相手の動きが止まった?


 その時、後方から「おい」と荒々しく怒気をはらんだ言葉が発せられた。

 振り返ると、そこには対戦相手で向かいに座っていたはずの高校生が立っていた。その視線には突き刺さるような怒りが込められている。


「てめえ、ちょっと調子のりすぎだろ......ハメ技の連続とか、そんなんで勝って満足なのか? ああ?」


 ハ、ハメ技?そんなのは使って無い。私が使っていた技とコンボはどれもこれも適切な対処をすればかわせるし、反撃だってできたハズだ。


 ドンッ!


 またもや筐体を蹴りつける。体は震え上がり、勿論反論なんて出来るわけもない。

 こ、怖い......怖い怖い怖い!何でこんな......。


「おい、卑怯者! 違うなら言ってみろよ? 女の癖に......おまえ大会優勝者だろ? どうせ色仕掛けとかで汚い手を使ったんじゃねえのか? ......あ、でもあれか、こんなぶっさい地味子じゃ色仕掛けもできねえか。 ひゃははは」



 ◇◆◇◆◇◆



 マ、マジか......。


「お、おい、何かやベー事になってるぞ? 海斗!」

「......わかってる。 いや、しかし」

「しかし、なんだよ? 早く助けねーとあの雰囲気だと殴られ兼ねねえぞ!?」


 陸、俺達は中学生なんだ。こういうゲームセンターへの立ち入りは本来禁止されている。もし、これが大きな揉め事になり学校へと連絡がいくなら......い、いや、違う!そんな事を言っている場合ではない......け、けど!


「おい、海斗、行くぞ!」

「あ、ああ......」


 しかし決断は遅すぎた。俺達が間に入ろうとした瞬間、高校生の拳が振り上げられたのだ。



「――あ」

「――しまっ」



 ◇◆◇◆◇◆



 高校生はあたしに言い放つ「この卑怯者」と。

 悔しかった。ずっと努力し練習し続けてきたこのゲームで、こんな言われ方をするだなんて思いもしなかった。


 息が苦しい、頭が真っ白で何も考えられない......。彼の問いかけに答えてもおそらく怒りを買うだけ、無言でも同じだろう。もはや八方塞がりのこの状況でパニックにならざるえなかった。

 すると痺れを切らしたか彼は言葉から暴力へと切り替える。


 肩を強く押してきた。あたしはそのまま席をよろよろと立つ。周囲の人々は面倒事はごめんと見て見ぬふり、そして興味をひかれた野次馬が群がりだす。


 リアルファイト一歩手前の中学生と高校生。間違いなく負けるのはあたしの方だろう。などと考えていると、ふとあらわれた影が視界を覆う。彼が手を振り上げた――


 反射的に目を閉じ痛みに備える。



 が、それが降り掛かることはなかった。目を開けると高校生の腕を四季が掴み止めていた。


「......それは、ダメだろ」

「ああ? なんだてめえ」

「こいつのツレだよ。さっきから聞いてりゃ......こいつはあんたがどうこうして良い人じゃねえ。 努力してここまで登って来たんだ、それを――ぐはっ!?」


 無言の蹴り。四季の腹部に深々と入り、椅子を倒し地べたへと転がる。


「四季!!」


「......努力? だから? こんなゲームで努力も糞もねーだろ......遊びでマジになるとか、さすがオタクきめえな。 お前らみたいなのを陰キャっつーんだろ?」


 四季は片手をあげヒラヒラとあたしに手を(ひるがえ)した。多分、「行け」と言う意味だろう。


「や、やだ......」


 それに気がついた高校生はこちらへと歩き出す。


「んなに大事なんか。 じゃあよく見とけよ......あ?」


 しかし彼の足を四季は掴み離さない。


「......イラつくなお前?」


 ――ガッ! ゴッ!


 顔を狙い踏みつける。何度も、何度も。


 足がすくみ、恐怖で動けない......何も出来ないあたしには地獄のような時間。しかし永遠とも思われたその地獄にも唐突に救いの手が入った。


「店員さん、こっちです!!」

「あそこ!」

「! 何してるんだお前!!」


「――っ! やべえな! ちっ、いい加減......離せや!」


 ゴッ!


 四季の頭から血液が垂れている。それは計り知れない痛みだろう。けれど彼は手をその足から離さない。


「......いや、逃がさねえよ」

「こいつ!!」


 店員さんを呼んできてくれた二人の男の人も高校生を囲んだ。この制服、今気がついたけどうちの中学の制服だ。

 猫目の男の子が言う。


「逃げらんねえよ、あんた」


 そして隣のメガネの男の子も続いて言った。


「......大人しくしろ」


 右手の袋に入っている大量の美少女フィギュアが気になるけど、今はどうでもいい。四季は大丈夫なのだろうか?それだけが心配だ。


「あ!? この音......警察呼びやがったな!?」


 そして入ってきた警官によって事情聴取が執り行われ、この事件は収束した。


 勿論、その後、私たちの中学校にも連絡が行き先生が二人来た。


 店員さんを呼んできてくれた二人の男の子も一緒に説教を受け、解放され帰っていった。二人は四季に何か耳打ちしていたが、あたしには聞こえなかった。

 そして四季はうけた暴行による怪我がひどく、病院へ先生と共に行くことになった。

 あたしも四季についていきたいと言ったが、迎えに来てくれた親に連れてかれ帰宅した。



 その後、ゲームセンターで揉め事をおこしたとして、四季は一週間の停学処分となってしまう。


 あたしはそれがきっかけで格ゲーから遠退いた。






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