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~11~ 始まりの想い (日夏の思い出①)

 


 あたし、西垣(にしがき) 日夏(にか)北条(ほくじょう) 四季(しき)の出会いは小学校三年生の時。天気の良い晴れた夏の日の事だった。


 両親が共働きで、あたしは学校の授業が終わると学童へといつも行っていた。


 そして四季もまた同じくその学童にいた子供で、あの日、お気に入りのオモチャを彼と取り合って顔面に平手打ちをかましたのを今でも覚えている。


 彼は叩かれた顔を擦りにいっと笑うとこう言った。


「お前、やるじゃん。 強いな......へへ」

「......え、あ。 ご、ごめんなさい」

「良いよ、大丈夫。 一緒に遊ぼーぜ」

「......うん」


 あたしには何故かその立ち振舞いが、カッコ良く思えた。本当なら怒ったり泣いたり、叩き返されたりしてもおかしくなかったのに......彼は笑ったのだ。


 居ることは知っていたけれど、関わることのなかった男の子。四季。

 初めてケンカをしたこの日から、彼があたしの人生へと溶け込み始めた。


 それから二人はいつも一緒に遊ぶようになった。取り合ったオモチャがあたしの好きだった小肥蛇戦隊ツチノコンジャーのロボットだったのもあり、お互い同じものが好きなのだとわかって話をするようになる。

 他にも共通の話題、好きな食べ物、みているテレビ、殆どの趣味嗜好の合うあたしたちが仲良くなるのは時間の問題だった。


 外で遊び互いの家でゲームして遊び、お泊まりや夏祭り、色々んな場面に2人で一緒だった。


 1年の大半を一緒に過ごして来た私達はあっという間に中学生となりどこかで聴いた流行りの歌のように流れる季節を過ごした。

 中学校も同じだった事もありあたし達は小学校から引き続き毎日のように遊んでいた。


 あたしは女だったが、中学生になった頃は今とは違い髪は黒髪で適当にしていて服もたいして気を遣わず、男に見られる事も多かった。なので性別関係なく好きな物を思い切り四季と遊んでいた。

 四季の事を異性として認識する事もなく、また四季もそうだったと思う。仲の良い男友達、そんな感じだった。


 そしてその中学生、1年生の頃に私はそれと出会った。ゲームセンター。そこには沢山のゲーム機が置いてあり、まるでお祭りのように大きな爆音で奏でられる様々なBGMに心が踊った。


 あたし達は格闘ゲーム、通称「格ゲー」と呼ばれるジャンルのゲームにその頃はハマっていて、二人で買い物に出掛けた時たまたま見かけたゲームセンターの話しになった。

 そして一度はゲームセンターの機械、筐体でやってみたいと二人で考え話し合い、学校では行くことを禁止されているゲームセンターまで足を運んだのだ。


「すげーな。 音うるさ......」

「でも本当にすごいね! ......あ、あそこ。 あれあたし達がいつもやってるストリートバトル!」

「おお、あれが......」

「ど、どうしよう......2人並んでるね」

「じゃ並ぼうぜ」

「え、ほ、本当に? なんか怖いなぁ」

「あれプレイするために来たんだろ。 いくぞ......あ、両替機で小銭つくっとけよ」

「う、うん」


(対戦ゲームだからね......多分、あたしも四季もすぐ負けちゃう。 一緒に遊べないかも)


「お、日夏の方が先にプレイか......」


 大きな筐体の前、小さな椅子に座るあたしの体は少し震えていた。


(あ、あたしからか~......ううう。 よ、よし......)


 お金を入れて......すたーと。対戦相手は反対側に居る高校生くらいの男の人。きっと、あたしは負ける。

 でも、出来るなら......四季と戦いたい。そのために、頑張る!


 初めてのゲームセンターの筐体に戸惑いながら、必死に慣れようと操作を確認しコマンドを入力する。そのせいで1本目を簡単に取られてしまった。


(......む、難しい。 家のコントローラーと全然違う......でも)


 四季の方を見ると、彼は笑顔で頷いた。たった2人倒せば戦える......!


(でも......多分、もう()()()())


 そして始まった2本目に対戦相手は先ほどのプレイで実力的に余裕で勝てると言うことが分かり、遊ぼうとする。

 格闘ゲームをするのは自身の腕や技術を皆に見て貰いたい、称賛されたいというのがある。ゆっくりと力を見せつけて料理しようとするのは彼等にとっては当然の行為なのかもしれない。


 が、しかし、彼には誤算があった。それは日夏の格ゲーのセンス。


 1回目のプレイ、あたしは筐体での操作をだいたい覚えた。不思議だけど、次はちゃんと、家のゲーム機でやるように動かせると思う。多分、やれる!


 そして、始まる2ラウンド目......


 日夏は対戦相手の動きについていく事が出来ていた。


「――な、なん......!?」

「ぐっ......ここ!」

「くっ、なんだこいつ!」



『――K.O!』


「や、やった!? 勝った......!」

「......面白い」


 あたしは辛うじてだが、勝利をもぎ取った。身体中に満ちてくる充足感、高揚感、全てがキラキラと輝く。

 すごい!すごい!あたしが......勝ったんだ!


 そして、1対1の五分と五分の戦いに戻った。


「1ラウンドでは素人同然だったのに......普通の子供じゃないな。 本気でやるか」


 ラストの3本目、対戦相手の男はそう言うと、スタート直後から恐ろしい程の猛攻を繰り出す。

 先程までのあたしをなめていたプレイとは違い、本気の勝つために打ち込む技の数々。

 かなりのプレイヤーだと誰が見てもわかる彼の動きに、皆があたしの負けを確信しはじめた。しかし――


 ぐ......早っ......けど、あたしは......!


「!? なん......ガ、ガード!? なんでこれがガード出来るんだ!?」



 ガッガガガガガガガッ!!!


 ――防ぐ防ぐ、高校生の連撃、コンボを全て弾き返す。ここに来て集中力が最大になった日夏は神業とも思える連続ガードを成功させていた。


 反応、できる!相手の攻撃が見える!多分、次は......!


「ちっ! なら投げるだけだ!」


 相手のキャラクターが掴みかかった時、あたしのキャラクターの足払いがカウンターで入る。綺麗に空中に浮かされた彼の体、この隙しかないと出来る限りのコンボを、連撃を叩き込む。


 祈りと想いと技術を乗せて相手のキャラクターへと放つ。


 もう......少し!!


「な、なんだと......この、俺が......!」


『K.O!』


 こうしてあたしは見事、ゲームセンターでの初筐体にして初勝利をゲットしたのだった。

 この時は勝てるとは露も思っていなかったから、まるで夢の中にいるような感覚と、背に羽がはえたかのようにふわふわとする味わったことのない感じ。

『K.O!』という台詞が私の中にこだまのように響いていた。


 沸き上がる観客の歓声の中、するりと隣に駆け寄ってきた四季が私の肩を満面の笑顔で叩いてきた。


「やったじゃん! すげーなお前!」

「ありがとう! 頑張ったよ!! ......って、え、あれ?」


 私の勝利を喜ぶあまり彼はゲームの順番を抜けこちらまで来てしまったらしい。嬉しいけど、これあたしと戦えないじゃん!!


「な、何してるのさぁ!?」

「いや、嬉しくって......すまん、並び直すわ」

「え、並び直すって......」


 向かいの筐体の列はもう五人並んでいた。え、これ勝ち抜かないと四季と戦えないの......?

 こうして私の初ゲームセンターは7連勝(疲れてやめた)で幕を閉じた。ううううー......やったぜ!ちょう嬉しい!


 そして帰り道、四季は結局あたしと戦うどころか1回も勝てなかったのにとても上機嫌で私の隣を歩いていた。


「いやー、快勝だったな! 日夏!」

「あ、ありがとう......嬉しい。 けど、四季はあんまりゲーム出来なかったね。 あたしばっかり、ごめんね」

「え、良いよ。 お前が勝てば気分良いし! こいつ俺の友達なんだぞー! って、自慢できるだろ?」

「じ、自慢できないでしょ、そんなに上手くないもん」

「お前ねえ、7連勝だぞ? しかも初の筐体プレイで! 上手いだろーよ」

「そ、そうかなぁ......手加減してくれてたのかもしれないし」

「じゃあその時点で負けじゃん。 ナメプ(舐めたプレイ)して負けるなんて恥虐の極みだぞ」

「そっか......」

「そーだよ!」

「あたしは、強い......のか」

「うんうん。 強い! お前は俺の自慢の友達だな!」

「へ? あ、う、うん。 ありがとう......」


 ......でも本当はわかっていた。あたしは強い......強くなければ7連勝なんて出来ないのだろう。何よりこれで自分を弱いプレイヤーだと言っていたら、今日戦った人達に失礼だ。


 けれど、あたしより強い人が沢山いるのも事実。それも分かっている。たまたま運が良かっただけ。


 四季に家へと送って貰った後。彼の夕陽に照らされた背を眺めながら呟いた。


「......練習、しなきゃ。 四季にずっと自慢して貰えるように」


 この日から私は格闘ゲーム、こと「ストリートバトル」の世界へよりのめり込むようになっていった。

 彼に誉められたい、笑顔が欲しい、そして......ずっと一緒に遊んでいたい。「俺の自慢」でありたい!


 そんな理由と想いを胸の奥に隠しながら。




 ◆◇◆◇◆◇




 ~2ヵ月後~



「日夏、大会、あるんだってな」

「......あるね」


 ゲーセンでの格ゲーに慣れ、あたしは順調に腕をあげていった。地元ではやれば大体勝てるといったレベル。

 そんな時、格ゲー、それもストリートバトルの全国大会が行われるという告知がされた。


 第14回 ストリートバトル 悪鬼戦王杯。 全国から数多の猛者が集まる年齢不問の大きな大会だ。


「お前、出ないのか?」

「うーん、あんまり目立つのは......」

「今更かよ。 昨日だってゲーセンで人だかり作ってたろーに。 あいつら、お前のプレイみたさの観戦者だろ」

「え、そうだったの!?」

「そーだよ。 だからお前の筐体側のが人多かったんだろ」

「全然気がつかなかったよ」

「集中力が凄まじいからな、日夏は......」


(知識、反射神経も普通......けれど幼なじみにはそれを補いハイレベルプレイヤーと肩を並べられる程のとてつもないスキルがある。 それが集中力、ゾーンとでも言うのかな。 だが、これは諸刃の剣だな......明らかにプレイ中は周りが見えなくなっている)


「で、大会はでねーの」

「うーん。 多分、お姉ちゃんは良いとして、お父さんとお母さんが許さないよ......ゲーセンのゲームの大会なんて」

「そうかなあ。 こんだけのモノ持ってるのに勿体ないな」


「あー......うーん。 じゃ、じゃあ」


 四季はあたしの家族に気に入られている。だから、もしかしたら彼からお願いしてくれたら、実はもう既にお願いしてダメだと言われた大会への参加を認めてくれるかもしれない。


 ......まあ、でも藁にもすがるとはこの事かもしれない。


 お父さんはちゃんとあたしの事を考えてくれていて、その情熱を他の物に向けることはできないのか、なにか生産性のある事の方が良いぞ、と。私の将来、未来の事を考えて言っていた。私もその通りだと思った。


 ゲームはあくまでゲーム......先の事を考えるとこのままは不味い。ここらが潮時なのかもと、思った。


 お母さんは単純にゲーセンに行くことを不安がっていた。それは考えるまでも無く、ゲーセンが危ない所だと認識しているからだ。まあ、でもそれは問題無いと思ってる。だってもう結構な回数ゲーセンには通ってるけどお母さんの心配するようなケンカも無いし、危なそうな人もあんまり見ない......その点は大丈夫だと思う。けれど私は女だしまだ中学生の子供だ。心配な気持ちはわかる......かも。


 だから四季でダメなら諦めよう。四季は2人に本当に気に入られているのでいける気も......いや、多分だめだな。そんな事で覆るような事ではないか。




「唐突にすみません、日夏のお父さんお母さん......日夏をゲームの大会に出させてください」


「え、いいよ」

「いいわよ」



 ......おん?


「ありがとうございます。 あ、大会の概要について詳しくは日夏からあると思うので......」

「いや、待って!!!」

「ひぃッ!?」


 隣で四季が変な声をあげビクッとなった。


「ど、どうしたんだよ? 恥ずかしい声でちまったじゃねーか!」

「おかしーやろ! 何でこんな......2つ返事でオッケーなの!? あたしが話した時はダメだって言ったのに!」


 一瞬ギョッとし、初めて大声を出し楯突いたあたしに驚くも、お父さんはすぐに平静になり語りだした。


「......日夏、お父さんはね四季くんを知っている。 彼が言うなら間違いないと思っている......ずっとずっとお前を側で見てきた四季くんなら、私らより多くを知っているはずだからな」


「お母さんもね、四季くんは日夏の事をちゃんと考えてくれている、大切にしてくれているのを見ているの......だから大丈夫だと思ったのよ」


 えええええ!!


「む、娘のあたしの言葉よりも......!?」


 あたしの言葉よりも四季の一言に理解を示し信用した。その事が単純に普通にショックだったのだ。信用されてなかった事が。

 すると隣に座る四季が微笑みながら口を開いた。


「違うよ、そうじゃない......」

「何が違うのさ!」

「そう言いながらお2人が今までゲーセンに行かせてくれていた意味を考えてみろ」

「......」

「お前を信用してなければここまで黙ってるハズないだろ?」


 確かに......そうだ。信用していなければこれ程自由に遊ばせてはくれていないだろう。でも......ああ、冷静になったらあたしワガママな子供みたいな......こんなにわめいて。うう、四季の前で恥ずかしい。


「でも......良かったな、日夏! 大会に出られるぞ!」


 あ......。


 眩しくて優しい、あたしの好きな笑顔。


 なんだろう、胸が苦しい?心臓が鳴っている。

 どうしたんだろう、あたしは......風邪ひいたかな?あつい。


「うむ、じゃあ大会は考えておこうか......四季くん、ご飯食べていくだろ?」

「あ、ありがとうございます。 というかお父さんにはお願いがもうひとつあって......」


「え、まさか娘を!? うむ、幸せにしてやっ」あ、大会の事です」


 この親父はマジで......デリカシーとかが無い!最悪なんだけど!冗談だとしても無いわ!


「俺も大会へ連れていって欲しくて。 あいつの活躍をみたいです」

「え、あ......う?」

「ああ、成る程。 うんうん、良いぞ。 おそらく車で行く事になるだろうから一緒に行こうか」


 え、お父さんも来るの!?いや、嫌だとかじゃないけど恥ずかしいんだが。あと格ゲーわからないでしょ、多分。

 ......まあ良いか。これで大会に出られる、出られるんだ!


「四季、あ、ありがとね」


 うう、声が震えてる。「活躍をみたい」......嬉しいけど恥ずかしい。


「うん、お前が優勝するとこちゃんと観とくからな!」


 唐突な四季の優勝宣言にあたしと父が驚き立ち上がる。


「ゆ、ゆゆゆゆ、優勝!?」

「なに!? 優勝だと!?」

「あらあら、凄いわねえ」

「いや、優勝なんて出来ないよお父さん! 四季もそう言うのやめて! 緊張してくるでしょ!」

「あはは、俺も協力するから......練習、頑張ろーぜ!」


 そうだ、この人は......いつもそうなんだ。小学生の時から、出会ったあの頃から変わらない。


「う、うん。 よろしく、ね」


 ただただ、真っ直ぐで(したた)かなのだ。







 ~大会当日~


 西垣日夏はこの日、伝説を残す事になる。












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