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~9~ ネトゲの日常と

 


 ――チャイムが鳴る。


 生徒達が各々の席へと着き、授業を受けるべく椅子へと腰をおろす。しかし俺の意識は幼なじみへと向かいっぱなしで着地点を見いだせずにふわふわと泳いでいた。


「おい、北条(ほくじょう) 四季(しき)

「ふぁ、ふぁい!?」

「何だその腑抜けた返事は! 眠そうにしやがって! やる気あるのかお前は」


 焦り顔と意識を先生の方へと戻す。


「すみません、ちょっと先生が美しすぎて見とれてました......え?」

「え!?」


 彼女はこのクラスの担任、学校一の美人教師。このクラスの男子の大半は彼女を拝むために毎日当校していると言っても過言ではない。その証拠に彼女が休みの時には男子の出席率は四分の一にまで落ちる。いや、ごめん、嘘だ。しかしそのくらい美人さんだと言うことを伝えたかった。


 名前は岡崎(おかざき) (かおり)。とろーんと垂れた目尻の可愛らしい二十九才だ。見た目二十代前半だけど。あと胸がたわわわわん。ご、ごほん。


 いや、つーか、やべえ。いくら南乃と日夏の事で頭がいっぱいだったとはいえ、今の発言はおかしすぎる。しかもクラスの皆が見ている中で......くそ、悪目立ちなんてしたくないのに!

 ......美人だとは思っているけど、何で口に出したんだよ。たわわわわ......じゃねえ!あわわわわ......。


 謝らねば、ふざけてすみませんと、少しでも怒りをおさめていただかなければ。


「お前、今どういう状況か理解しているのか?」

「......すみません」

「何か悩みでもあるのか?」

「え......」


 え、何これ優しい。先生、超優しい。でも仮に悩みがあったとして、クラスの皆が注目している前でそれを話せるわけないよね。よって、その(とい)はナンセンス過ぎでは?だから三十手前でも嫁の貰い手が......。


「......でも嫁の貰い手が、ん?」


 俺は先生と顔を見合わせる。あれ、どこまで口に出てたのこれ。


「成る程? だから私は結婚できないと......そして空気の読めなさと嫁無さ(嫁で無い)をかけているわけか」


 ああああああ!?やべーとこまでバッチリ口に出てたあああああ!!っていうか、「嫁無さ」は無理矢理過ぎでは......上手いこと言おうとして失敗してないか?


「こ、殺さないでくださ......」

「殺すか! 人聞きの悪いことを言うな!」

「殺されないっ!? ......ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございます」

「ええい、やめろ! その感じ私がリアルに()りそうな奴みたいだろうが! 勝手に殺人鬼的な奴にするんじゃ無い!!」


 ここら辺にしとかないとマジで裏でシメられかねない。ちょっと(?)調子にのり過ぎたか。なんだろうこの人、話しやすくてついふざけちゃう。

 つーかホントに知らん間に考えてた事が口に出てた......怖っ。疲れてるのか、俺?


「よし、とりあえずお前の処け、処ば......処遇は放課後だ。 職員室に来なさい」


 え!? 今、処刑って処罰って言いかけなかった!? な、何されるの俺?......でも職員室だから大丈夫か。他の先生の目もあるし。焦った~。


「ん? あ、いや、違う。 相談室来て」


 成る程、職員室ではヤれないと気がついて、再度誰も居ない相談室を選択したんですね。ああ、俺の刑は執行されるのですか......全然助かって無かったわ。


「わかったな? ちゃんと来いよ」


 そう言うと先生は時間が勿体無いと言わんばかりに、踵を返し教壇へと戻って授業を再開した。


 こうして俺の放課後の予定に処刑執行が入れられてしまったのだった。が、しかしその前に、それがなされる前に俺はネトゲ嫁との最後の晩餐を楽しむとしよう。そう、今日も南乃がお弁当を作ってきてくれているのだ。

 お弁当の味を舌に刻み付け死後の世界でも彼女を思い出せるようにしよう......いや不謹慎過ぎるな。でもお昼楽しみだな。あと三時限後か。


 ちらっと南乃を見るとその後ろ姿は小刻みに震えていた。微かに見えた口角が上がりその震えは笑っているからだと気がつく。

 何であんな笑ってんだ?昼食の時にでも聞くか。



 ◆◇◆◇◆◇



「んんんんんんん――まあーい!!!!」

「あはははは」


 待ちに待った昼食の時間。俺は彼女の作ってきたミニオムライスを食べ涙を流していた。何やねんこの美味さは!

 卵とご飯(チキンライスですら無い)をぐちゃぐちゃに混ぜて焼いてオムライスとして出してきた妹に食べさせてやりたい!胃の中に入れば同じとか極論中の暴論をドヤ顔で言いはなった妹に!

 これがオムライスなんですよ?と!


「大袈裟だなあ、四季くんは。 ふふっ」

「いや、マジで美味いよ!」

「ありがとう。 頑張って作った甲斐があったってもんだよ~。 ふひひ」


 にこにことしている南乃。前髪のせいで目元は見えないが口元で嬉しいという感情が伝わってくる。あ、そういえば。


「そういや南乃、今日授業中笑ってなかった?」

「? 笑ってないよ?」

「あれ、見間違いか......一時限の時に笑ってたように見えたんだけどな」

「......あ、あれ。 うん、笑ってたよ、ふふ」

「なんかあったのか?」

「いやいや、四季くんと先生の漫才が面白くて」

「漫才!?」

「え、違うの? 皆俯いて笑いこらえてたよ」

「......マジか。 うーわ、はっず......」

「何で? すごい面白かったのに」

「あー......そうか。 まあ、南乃が面白かったなら良いか(?)」

「なんか前から思ってたけど、先生と四季くんは姉弟みたいだね。 ふふっ」


 それは......うん。まあ、あながち間違ってもないような。でもこれは言えない。例え南乃でもこれは......。


「そ、それより......南乃、昨日の配信も良かったな! すげー盛り上がりだった」

「ん、ありがと! 何かね、四季くんが観ていてくれてるって思うと凄く楽しくて、安心感があって......絶好調なんだよね!」


 あ、ああん、可愛すぎるよォ......やべ何かセンシティブ過ぎた。トランプ使って切り刻む人みたいになってたわ。危な......色んな意味で。


 けどふと思った。南乃って前髪がすげー長いよな。それも目が覆い隠される程に......気になる。前に保険室で一度だけ彼女の目を見たことがある。美しい吸い込まれる様な魅力的な瞳、マイナスな物などないその容姿を何故隠しているのか......もしかして恥ずかしがり屋さんなのか?


「あ、あの......四季くん?」

「ん?」

「......何でそんなに見つめるの......?」


 胸の前で手を合わせ恥じらう姿。俺のハートが一瞬で吹き飛ばされた。


「あー......あ、うん。 その」

「?」

「南乃さ、ずっと前髪で目元隠れてるから......ちょっと気になって」

「あ......そっか」

「南乃はなんでそんなに前髪を伸ばしてるんだ?」

「私は、うん。 見ていてわかると思うんだけど、あまり人と接するのが苦手で......目を合わせるのが、ちょっと怖いんだ」

「ああ、成る程な。 そう言う事か」

「うん......あ、でも」

「?」

「四季くんとは、そうだね。 ちゃんと目を見て話さないと、だね」


 そう言うとあの時のように制服の胸ポケットにある黒猫のヘアピンを取り、そしてそのまま前髪へと差し込みサイドに寄せた。

 隠れていたその美しい双眼が現れ、彼女は少し恥ずかしそうに照れながら上目遣いで此方を見て言う。


「......よし、これで良いかな?」


「あ、ああ。 可愛いよ......」

「え!? あ、ありがとう」


 やっぱりすごい美人さんだよな。これ、多分この学校で1番綺麗だろ。

 けど、今までずっと前髪で隠れていたからか、そのお陰と言うかなんと言うか......こうして俺はこの人と出会う事が出来たのだろうか。


 これ程の美人さんであることが分かっていたなら、どっかのイケメンに声をかけられ、お付き合いしてリア充になり、ネトゲやVTuberとも関わりなく、また別の人生を謳歌していたのかもしれない。


 ......何か、なんだろう。この気持ちは。もやもやするな。


「ふふふ......」

「え、なに?」

「んーん。 嬉しくて......好きな人に可愛いって言われてさ」


 ......これは。


 幼なじみの顔が思い浮かぶ。あの真剣な眼差し、熱量。

 これ以上二人の真剣な気持ちと想いを踏みにじる訳にはいかない。

 言わなきゃな......よし、怖いけど、うん。いや、怖いな。なんだろう、漠然とただただ恐怖がある。


「あの......」

「ん?」


 南乃は可愛らしく横へ首をこてんっと傾けた。


「......」

「......?」


 あー......いや。......でもこれって話をすることによって、単に南乃を不安にさせるだけなのでは?

 そうだよ、急に幼なじみの日夏がどうとか言われても困るしワケわからないだろ。


 これは多分、俺と日夏、二人の問題だ。話すなら解決してから......俺は大きな間違いを既にしてしまっている。だから、もう間違えられない。

 日夏のような悲しい思いをする人を増やしてはいけない。こんな俺を好きになってくれた人には、二人には出来る限り真剣に誠実にいたい。


「......いや。 本当に可愛いよ。 南乃」


 知らず知らずの内に真剣な眼差しと口調になっていた。


「あ、う......? あ、ありがと......」


 南乃は顔から湯気が出そうな勢いで赤面していた。心配になった俺は保健室行く?と聞いたが、「ばかたれがっ」と返されてしまった。ばかたれ!?



 いや......そうだ、俺はバカ。ずっとバカだった......だから。






 今度こそ。






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