~0~ プロローグ
どうぞ、よろしくお願いします!
キーンコーンカーンコーン
いつもの日常、けだるい高校生活に希望をもたらす終業のチャイムが鳴る。
部活があるのか素早く席を立つ者、退屈な授業に精神をやられたのか机に突っ伏す者、なにはともあれ生徒達は今日一日のお勤めを終えたのであった。
そして俺、北条 四季もまた帰宅の準備をしつつ、素早く携帯を取り出し、ネトゲの新情報を確認する。
「......まだ新パッチの情報は無しか」
ネトゲの次に携帯ゲームの情報、次にVTuberの情報、アニメ情報。一つ前の休み時間にも確認していて、新しく更新された新情報があるはずもないが、俺は情報掲示板やまとめサイトを巡る。
手早く画面を流し、ルーティーンとも言える情報収集が終わり、帰宅する生徒達の波へとのる。出口に向かいふらふらと歩きだした。
「......あっちぃ」
校内もそうだったが、外は比べ物にならない程の茹だるような暑さ。
しかしながら学校から解放された喜びとこれからの自由な時間を思い、気温とは裏腹に進む足取りは軽かった。
今日は帰って何しよっかな~♪と鼻歌でネトゲのBGMを奏で歩く高校の帰路、ネトゲの期間限定イベントが今日で終わる事を思い出す。
「あー、夏祭りイベ、もう終わるんだった......やらないとな。 今日は相方ゆっくり遊べるのかな」
そんな事を考えながら、暑さに耐えて歩くこと約15分。たどり着いた我が家、木造二階建て一軒家。カバンから鍵を取り出し扉を開く。
「ただいまー......あれ、だれも居ないのか?」
いつもなら妹がすっ飛んでお出迎えしにくるのに、今日はそれがない。お出かけか?と、そんなことを考えつつ、おもむろに脱いだ靴へファフリーブ(消臭)を吹きかけた。玄関に霧散し漂うフローラルな香りに、俺の靴が浄化された事を確認する。バイバイ菌ミ☆
そして玄関を後にし、流れるようキッチンへと進み手を洗いうがいを済ませた。冷蔵庫をあけキンキンに冷えた麦茶を一杯胃に流し込む。――くぅあ~ッ!いやあ、仕事(学校)終わりの麦はうめえな!
――ッ ――ドンッ
......てか、なんか二階でドタバタしてない?妹、居たのか......すげー暴れてるなあ。今日はなんだろう、最近遊んでる大乱闘で負けて発狂してるのかな。うるさいからちょっと叱っとくか......。
などと思いながら二階にある自分の部屋へと向う。
ギシギシと鳴る木製階段の音。それに紛れ人の声が聞こえた気がした。――が!――っ!気のせいかと思ったが、自室が近づくにつれそれは大きくなっていく。
また勝手に俺の部屋へ入って遊んでるのか。まったく、何度注意してもなおらないな......そんな事を思いながら俺は扉を開いた。すると――
包丁を持った妹が学校の同級生と対峙していた。
「......え?」
◆◇◆◇◆◇
な、なぜ俺の部屋が修羅場と化してるんだ......。
「お兄ちゃんそこどいてッ!!」
同級生を守るべく間に割って入った俺に妹が叫ぶ。怒りにより特徴的な妹のつり目がよりキツくなり、その右手に握る包丁が更に強く握りしめられた。
「どけられるかバカ! その前に手に持ってる凶器を捨てろ!」
「そ、そうですよ! そんなもの振り回したら危ないです!」
俺が制すように妹へと言うと、俺の服を指先でちょんと掴みながら隠れている同級生が言葉を重ねた。
しかしそれが良くなかったようで、直後に妹は包丁を逆手に持ち替え姿勢を低くし臨戦態勢に入った。
「いや離れろって言ってるの!! うちのお兄ちゃんだぞ!? ちょっと可愛いからって調子に乗ってんじゃねえ!!」
今にも飛び掛かりそうな狂気と怒気をはらんだ雰囲気。しかし同級生はそれより気になる事があったみたいだ。
「え、あ......可愛い? その、ありがとうございます......えへへ」
にへらあっと笑みを浮かべる同級生。
「は!? いや、褒めてねえし!?」
同級生の取りようによっては煽りとも思える天然が炸裂し、そこに包丁よりも鋭い妹のツッコミが入る。
いやいや、妹のツッコミはごもっともである。今それどころじゃないよね?褒められて喜んでる場合じゃないよね?妹はギリィッと歯軋りをし、悔しそうに睨む。
まあでも、言わせてもらうと、こちらの同級生はうちの高校で最も美人と言われていて、ちょっと可愛いどころの人では無かったりする。
何故なら人気読者モデルをしている女子が三年生にいるのだが、その人を越えたと言われていて、現在学校No.1美女とされている。
......普段は長い前髪で目元が見えずその美貌も隠されているけれど。
名前を南乃 美七冬、高校二年生。
肩に掛かる美しい黒髪と、少し厚みがありふんわりとした艶のある唇、そしてその長い前髪をあげれば大きくぱっちりとした目が印象的な紛れもない高校生美少女(完全体)になるのだ。あ、ちなみに胸の方も平均よりかなり上のレベルで、たわわんとしてますね......ご、ごほん。
「うちのッ! お兄ちゃんなのにィ! どうしてッ!!」
「お、お前なあ、ブラコンが過ぎるぞ!」
「お兄ちゃんはどう思ってるの!? うちとその女、どっちが可愛いと思う!?」
「いや、話きいてねえし!」
どっちがって、いやどっちも可愛いけれども。この妹は妹で中学生でありながら身長も165cmと高く、大人びた容姿とあいまって高校生と間違えられる事がある。
名前は北条 穂四春、俺は春と呼んでいる。中学二年生。
先も述べた通り高身長でスタイルが良く、胸は控えめだが脚がすらりと伸び、通う中学ではNo.1美女とされているらしい。
髪は黒髪のロングで少し目尻が上がっているいわゆるつり目、その目元にある泣きぼくろ、そして笑った時にちらりと見える八重歯が可愛いと人気があるようだ。
要するにどちらもかなりの美女である。そして――
コンコンッ――ガチャ
春の後ろにある扉からノックする音があり、開かれた。そこから現れたのは茶髪ツインテールの女の子。
「お邪魔しまーす......って、な、なんだこの状況は――!!?」
「来たか! 日夏!」
「あ、日夏ちゃんだ......!」
「げ!? 日夏ちゃん!?」
三人に注目された彼女は俺の幼なじみであり同級生。
名前は西垣 日夏。高校二年生。
明るい茶髪のツインテール。前髪を眉上で切り揃えているのもあってか、中学生に見間違えられる程の童顔、と言うか幼顔。そして元気いっぱい明るい性格から人気があり、彼女もかなりモテる。
そう、日夏もまた我が高校で1位2位を争う程の女子なのである。あと美女......いやこの空間美女いすぎぃ!
「くっそ......日夏ちゃんを呼ぶなんて! いつの間に......! 謀ったな、お兄ちゃん!」
ふ......にやりと笑みを浮かべる。今の俺は目付きの悪さと相まってとても悪い顔になってるに違いない。(そこまで目付き悪くないけど)
春は日夏に弱い。このデンジャラスモードに入った春を鎮められるのは日夏のみ。故に隙をみて『うちきてくれ』と携帯でメッセージを飛ばしておいたのだ。
ちなみに日夏は近所に住んでいて徒歩三分。
「春ちゃん! また包丁なんて持ち出して! 危ないからダメだって言ったでしょーが!!」
「ひうっ......ち、違うの、う、ううちは、おに、おにおに、おにーたんおにおに」
いや、ビビりすぎだろ!春は思わぬ日夏の登場で戦意が喪失したのか攻撃的につり上がっていたその目が下がり、端に涙を浮かべる。いたずらがバレた時の犬みたい。
「あたし前に言ったよね? 刃物は危ないからダメだって――」
そうだ、刃物は危ない。下手をすれば人の命だって奪う凶器になり得る。
「――鈍器にしなさいって!」
「いやダメだろ! 鈍器もダメだろ!!」
俺はすかさずツッコミを入れる。え、どういう基準なの、それ?
「ぷっ、......ふふっ、あはは!」
「んなッ!? 何笑ってんだよ! お前ッ!」
後ろの南乃が声をあげ笑いだし、春はまた眉間にシワを寄せ威嚇するように声をあげた。
すると日夏も堪えきれずに吹き出しながら言う。
「やだなあ、冗談じゃんか! しかし四季のツッコミのキレはいつも半端ないな」
「えーと......ありがとう。 とにかく春を止めてくれないか?」
俺は極めて冷静な口調で日夏へお礼とお願いを述べた。すると幼なじみはにっこり白い歯を見せ、「りょーかい!」と一言。
「ぐうう、日夏ちゃん......!」
「さて、どーするんだい?」
絶対に勝てない相手と対峙し妹、春に残された道は逃げるか謝るかだけだ、が、逃げ道という選択肢は消えていた。なぜなら日夏が出入口に立ちはだかり、この二階にある俺の部屋の窓から飛び降り逃走などと言うわけにもいかない。
しかし、春のとる道はその二つのどちらでも無かったらしい。
「......でも、でも! うちは日夏ちゃんにもお兄ちゃんを渡す気なんて無いんだから! 今日こそ倒してみせる!」
なんと春は戦闘続行を選んだ。瞳には闘志の炎が再燃し戦意が戻る。
しかし――
「フン! それは無理よ」
ヒュオッ
まるで風が舞いあげる木葉のように日夏が床のクッションをふわりと蹴りあげ春の視界をふさぐ。
「――なん!? 見えなッ......」
そしてするりと懐へ潜り込んだ。
妹の包丁はあくまで威嚇。それで切りつけた事は無いし、怪我をさせた事も無い。それを知っている日夏はなんの恐れもなく接近した。
パシッ――包丁を持つ手首を掴んだ彼女はそのまま春の脇をくすぐりはじめる。
「ひいっ! いやだ!! あひっ......あひゃひゃ!!!!」
「そいつをよこせ!」
日夏のくすぐり攻撃に怯んだところで俺はその凶器を素早く取り上げた。
「よし!」
そしてふとみるとお仕置きタイムが始まっている。日夏は春を押し倒し馬乗りになり、脇や腰をくすぐり続けていた。
「あーひゃひゃひゃ、やめ、苦し! 死ぬ! ごめんなさい! ひーっひーっ」
「ほんとにわかってるのかなあー? これで三度目なんだけども? 春ちゃんよー」
「ゆるし、ふゃひゃひゃひゃ......はーはー」
「なんでまたこんなことしたの?」
「だ、だって......またお兄ちゃんがまた、女を部屋に連れ込もうとしてるのかと思って......あひゃひゃ」
「いや、人聞き悪いな! 言い方!」
涙目で理由を話す春に南乃が「成る程......そっか」と両手をあわせた。
「......私はお兄ちゃん、四季くんに教えて貰う事があって来たんです。 急に来てしまってごめんなさい......でもPCが無いと聞けない事だったので、学校から近いあなたのお家に来たんです。 すみませんでした」
ペコリと南乃が頭をさげると、ああ、と日夏がくすぐる手を止めた。
「そっか、ネトゲの......。 あのさ、もし良かったら、春ちゃんにその事、話しても良いかな?」
「うん、大丈夫だよ、日夏ちゃん」
わかったと、日夏は言い静かに頷く。
「春ちゃん、春ちゃんはその様子だと知らなかったみたいだけれど、この人はあたし達のネトゲのチームメンバーなんだよ。 そしてネトゲについて聞きたい事があって来たの......わかった?」
「ううう......」
「別にお兄ちゃんをとろうとしてた訳じゃないよ?」
そうか、この緊急事態で事情を聞きそびれていたけれど、南乃はネトゲ関係の事で家まで訪ねて来てたのか。
それでたまたま家にいた妹が俺の部屋へあげた......俺を訪ねてきた疑惑の女を始末するために。こわっ!
妹はまだ不服そうに唸っている。
うーむ、たとえネトゲの仲間だとしても何も知らなかった春を驚かせてしまったのは事実だからな。謝らないと。
「春、いきなりなんの説明も無しに悪かった。 びっくりしたよな。 けど南乃も俺や日夏、お前と一緒のチームなんだ。 仲良くしてくれないか」
「......ぐうう。 わかった。 お兄ちゃんが言うなら。 仕方ない......うぐぐぐ」
全然納得した様子に見えないけれど、とりあえずこれで一件落着か。
しかし刃物を持ち出したことはあとで改めて叱らなければ。
すると、しゅんと消沈している妹を見ていた日夏が口を開いた。
「ねえ、春ちゃん。 ご馳走するからさ、あたしとパフェ食べいかない?」
「パ、パフェだと!? 食べたい!!」
「よし、決まりだ! 四季、春ちゃん借りてくからね」
「ああわかった、すまん......助かる」
「へへ、こいつは貸しだぜ?」
にやりとウィンクを飛ばす日夏さん。かっけーぜ。
二人が部屋を出た後、南乃は口を開いた。
「ごめんなさい。 メッセージ送ったはずなんだけど......見てなかったかな?」
「え、あ! ほんとだ......マジですまん」
「ふふっ」
それと同時にメッセージの内容を確認した俺は、彼女の来訪がネトゲの関係で無いことがわかった。
「仕事か」
「うん、VTuber......」
彼女には秘密がある。
「もうすぐ1周年だからね、相談したくて」
わずか1ヶ月で登録者百万人を越え、その名をVTuber界に轟かせ
「わかった。 応援するよ」
スーパーチャットランキングのトップを走る、VTuberの最前線を駆ける彼女こそ――
今、俺の眼前にいる、ネトゲの嫁で大人気VTuberで学校No.1美女の同級生。
星乃アリスなのだ。
俺が彼女の秘密を知る事になるのは、今から約3ヶ月前の事。
まずはその話から始めよう。
まだネトゲの嫁が同級生ともVTuberとも知る前の話だ。
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