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2/2

そのに

ポチャン

と、どこかで魚が水面から跳ねる音が聞こえた。

音のした方に視線を移してみても、既にそこには先ほどの音源である魚はいない。

次にそっと隣の人物の桶を見る。その中には数種類の魚がわらわらと泳いでおり、誰が見ても大漁だった。

そのくせ、俺は。

「……はぁ~~」

「魚が逃げるぞ」

「こんなんで逃げるかよ。なあ、つくづく思うんだけどよ、同じ場所で同じ釣竿、そんでもって同じ餌を使っているってのにどうしてこう差が開くんだ?」

「そこまで分かっているのならもう正解みたいなものだろう。使い手が違うのだよ。雑魚とは違うのだよ、ザコとは」

「俺がザコだってか?」

「この湖にいる魚は警戒心が低い。奥地にあるせいか人が釣りに来ないからな。さらに釣り界の生ける伝説、サマローニャ秘伝のいき餌を使っているのだ。食い付かない訳がない。で、二時間でお前は何匹釣れた?」

「……」

すっと竿を上げると、そこには無残にも餌だけが綺麗に取られた針が輝っていた。もう何度目かも分からないほど、手慣れた手付きでいき餌のロワームを針に刺す。

さあ、いくのだロワーム。その魅力的な体で多くの獲物を誘うがいい。

「…なあアル」

「なんだ」

「お前能力使ってんじゃないのか?」

「その発言は宣戦布告の合図か?我が国に古くから伝わる由緒ある行為を侮辱するのか?俺の釣りに対する熱意を愚弄するのか?よろしいならば戦争だ」

「まてまて。アルと戦争なんかした日には俺が穴だらけになっちまうよ。でも、やろうとすればできんじゃねえのか?弓で射るのと針を引っ掻けるのと、そう変わりゃしないだろ?」

「お前は釣りをなんだと思っているんだ。そう単純じゃないからこそ奥深く趣ある……待ってろ」

とアルは持っている釣竿を俺に持たせると、すっと立ち上がった。その眼はアルの国、青海国に向けながら赤く輝く。

「敵か?」

「そんなところだ。遠吠えよ」

とアルが囁くと同時に一丁の弓が出現する。その弓は弓柄や鳥打ちが獣の革で装飾され、弦との接合部は黒い牙を使われている。

「射ろ、雀」

ヒュンッ!と音がしたかと思えばもう用事は終ったとばかりに、アルはまた同じ釣位置へと戻る。その手にはもう先ほどの弓は消えていた。

「ちゃんと当たったのか?」

「俺を誰だと思っている?」

 青海国の守護者アル。その手から放たれる矢は百発百中、例え大陸が離れている距離からでも必ず当てると言われている。

守護者の中では突出した能力とは言えないが、戦争ともなればただの人間千万人が集まろうとも敵わない。その落ち着いた性格からもファンが多いとか。

「主人のお守りも大変だな」

「そうでもない。俺はこうしてたまに襲ってくる暗殺者を倒せば良いだけだからな。自由はきく。クノスはいいのか?今頃大切なご主人様が毒殺されかかっているかもしれんぞ?」

「いいんだよ。俺が側にいても飲み干したティーカップを綺麗に洗うことしかできねぇよ」

「放任だな。相変わらず。助けてやればいいものを。どうして力を使わない?」

俺はアルの質問には答えずに、預かっていた竿を返す。

「…………………」

「…………………」


ポチャンとまたどこかで魚の跳ねる音がする。

「なあ、これは噂なんだか」

「なんだ?」

「かの有名な釣り職人、サマローニャ。そいつはベスペル湖の魚を全て釣り上げたなんていう記録があるにも関わらず、釣魚ギルドから追放されたとか。なんでも彼の釣竿は見た目は何処にでもある普通の釣竿なんだが、内部には黒夜国の魔法が込められていたそうな」

「伝説だからな。例え生きていようと過去であろうと、噂には過分な尾ひれが付くというものだ」

「かもな。ところでアルの持っている釣竿なんだが、魔術の匂いがするのは気のせいか?」

「……………平和だな」

「……そうだな」

釣竿を引き上げるとやっぱり針の餌は取られていた。


お嬢様の口から戦争の話が出たのは、この数日後だった。

アスガルド西暦1681年

100年と少しの間の平和は終わった

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