三国志演義・桃園の誓い~乱世の序章~【前編】
この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種
ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容で
きる方は是非演じてみていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな
い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒
ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の
キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、
注意してください。
声劇台本:三国志演義・桃園の誓い~乱世の序章~【前編】
作者:霧夜シオン
所要時間:約45分
必要演者数:最低7人(女性演者必ず1名)
(6:1:0)
(7:1:0)
はじめに:この一連の三国志声劇台本は、
故・横山光輝先生著 三国志
故・吉川英治先生著 三国志
北方健三先生著 三国志
王欣汰先生著 蒼天航路
Wikipedia
各種解説動画
正史・三国志
羅貫中著 三国志演義
の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、
【作者の想像】
を加えた台本となっています。
またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが
喋っているという事も多々あります。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と
させていただいております。
また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。
名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)
が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない
、いたかもしれない、という考えに基づくものです。
ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合
がありますので、注意してください。
上演の際はしっかり漢字チェックを行い、
【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。
なお、古代中国において名前は 姓、諱、字の3つに分か
れており、例を挙げると諸葛亮孔明の場合、諸葛が姓、
亮が諱、孔明が字となります。
古代中国において諱を他人が呼ぶのは避けられていた為、
本来であれば諸葛孔明、もしくは単に字のみで孔明と記載
しなければならないのですが、この一連の三国志演義台本
においては姓と諱で(例:諸葛亮)と統一させていただき
ます、悪しからず。
長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で
演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ
ばと思います。
●登場人物
劉備・♂:字は玄徳。
漢王朝の中山靖王・劉勝の末裔を自称する。
幽州のタク県にある楼桑村で、筵や簾を織って日々の生計を立て
ている。
貧しいが高い志を持つ。ニ十代。幼名は阿備。
張飛・♂:字は翼徳。
幽州の鴻家に仕える豪放磊落で大の酒好きな男。黄巾党の大軍に突
撃し、八百八の敵を一息に討ち取った事から八百八屍将軍と恐れら
れたが、自分の留守中に黄巾賊によって城は焼かれ、主君は殺され
てしまう。
しかし、主君の娘が生きていると知り、捜し求めている。二十代。
馬元義・♂:字は伝わっていない。
黄巾党の中でも上位に位置する大方。劉備の訪れていた村を襲撃
、略奪と殺戮を行う。
尊大な態度。三十後半~四十代。
甘洪・♂:字は伝わっていない。
馬元義の部下。馬元義がヤクザならこちらはチンピラといった立ち
位置。三十代。
李朱氾・♂:字は伝わっていない。
黄巾党の小方。馬元義らと共に洛陽船と交易した商人たちを襲撃
し、略奪を行う。三十~四十代。
老僧・♂:名前は伝わっていない。
鴻家の領内の寺院に住んでいたが、黄巾党の襲撃に遭って混乱の中
をさまよっていた鴻家の姫を塔に匿い、託すべき人物の出現をひた
すら待っていた。六十代。
芙蓉姫・♀:劉備が訪れた村を含む一帯を治めていた鴻家の姫君。黄巾党の襲
撃に家族を殺され、逃げ惑っていた所を老僧に救われ、塔に匿わ
れている。十~二十代。
黄巾賊1・♂:もとは善良な農民だが、張角ら黄巾党の掲げる理想に惑わされ
て、富豪や領主などの裕福な者だけでなく、同じ立場だったは
ずの他の民達を襲う。
黄巾賊2・♂:↑に同じ。
役人・♂:地域の秩序と平安を守る為、日々頑張るお役人。
ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※
甘洪、李朱氾、は兼ね役。
馬元義、役人、黄巾賊1、は兼ね役。
老僧、黄巾賊2、は兼ね役。
ナレは芙蓉姫と兼ね可。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:長すぎる平和は乱世を生み、乱世が極まれば平和へ向かうという。
およそ千八百年前の古代中国。後漢王朝は末期を迎えていた。
各地で張角兄弟率いる黄巾党が、王朝打倒の叛旗を翻したが、
その大義名分の陰では、味方のはずの民達から奪い、殺していた。
【二拍】
悠久なる黄河の岸。一人の青年が座っていた。
遠く漢王朝の皇帝の血をひく、劉備、字は玄徳である。
彼は飽きる事なく、流れを見つめていた。
劉備:…祖先の方々は、この黄河に沿って文明を興してきた…。
見ていてください。
きっと、劉備は志を成しとげて御覧に入れます…!
役人:おいっ、そこの怪しい奴め…貴様、黄巾賊の仲間か!?
劉備:これはお役人様。
わたくしは筵や簾を作って売っている者です。
役人:なんだ、行商人か…。
だが、みすぼらしい身なりに不釣り合いな剣だな。
どこで盗んだ!
劉備:これは亡き父の形見です。
盗んだものなどではありません。
役人:ぬ、ぬうう…そうか…。
【声を和らげて】
だが、ここで半日も座り込んで、一体何をしているのだ?
先日もこの辺りは黄巾賊の襲撃にあったのだ。
怪しまれてもしかたないぞ。
劉備:お疑いなさるのも無理はありません。
実は何ヶ月かに一度、この辺りを訪れる洛陽船で茶を交易しようと
思いまして。
役人:ち、茶だとォ!?
そんな高価な物を…重病人でもいるのか?
劉備:いえ、母の大好物なんです。
貧乏ゆえに滅多に買えませんが、何年かかけて貯めた金があるので、
今度の旅の土産にと思いまして。
役人:ふーむ…それは感心だな。
俺の子供は茶を飲ませてくれるどころか、とんだ放蕩三昧だ。
そうか…いや、邪魔したな。
ナレ:役人が立ち去って陽が傾いた頃、無数の紅い旗と船体を五色に彩った
洛陽船が着岸した。
劉備は人ごみの中を走り抜けると船主へ必死に交渉し、
ついに手のひら大の小さな壷に入った茶を手に入れたのである。
劉備:母上、待っていてください…いま美味しい茶を持って帰りますから。
ナレ:しかしその夜。
黄巾賊が劉備の泊まった村を襲撃する。
危うく難を逃れた劉備は、遠く走ってきた山道の途中で孔子廟を見つ
けると、思わずその前に膝をついて祈った。
劉備:孔子は文を持って世の乱れを正した、偉大な方だ。
しかし、今の黄魔鬼畜のはびこる世においては、武力で乱れを正さねば
ならない!
そうだ! わたしは武をもってこの国に平和をもたらそう!
馬元義・甘洪:【↑の語尾に被せて】うわッははははは、はぁッははははは!!
劉備:ッッ!?
甘洪:こらッ、待てッ!!
大人しくしやがれ!
馬元義:馬鹿めッ!
こんなもんのどこがありがたいんだ! あぁ!?
劉備:う、うぐっ!
(し、しまった! これはまずい相手に出会った…!)
ナレ:誰もいないと思った孔子廟の中から、いきなり二人の男が躍り出てきた。
結んだ髪を黄色い布で包んで武装している。黄巾賊だった。
一人は容赦なく劉備を組み伏せ、もう一人は孔子の木像を蹴飛ばした。
甘洪:おら、動くんじゃねェ!
馬元義様ァ! こいつ、どうしますか?
馬元義:離してもいいぞ、甘洪。
逃げようとしたら、すぐにブッた斬ってやるわ。
甘洪:へい。
それにしても…へへへ、おい若造、さっきは随分とでけェ事を吐かし
てやがったなァ、あぁん?
馬元義:【小馬鹿にした態度で】
へたに逆らわん方がいいぞ。
うぬごときがこの黄巾党の大方、馬元義様にかなうとでも
思ってるんじゃあないだろうな。
おぉところで…黄魔鬼畜っていうのは…誰の事だ? んん?
劉備:別に意味はありません。
あまりに山道が寂しかったので…恐ろしさを紛らす為に言ったのです
。
甘洪:はァ!?
意味のねぇ事を独り言で言う奴があるか、あァ!?
馬元義:…まぁいい。
で、この真夜中にどこまで行くつもりだ?
劉備:タク県まで帰るところです。
馬元義:ふん、じゃあまだ相当道のりがあるな。
俺達も夜明けに北方の町まで行くつもりだったが、うぬのせいで
目が覚めてしまった。もう二度寝もできねえだろう。
おい甘洪、こいつに荷物を背負わせて俺の槍を持て。
…そうだ若造、うぬの名は何と言う?
劉備:…劉備です。
馬元義:劉か。
……よし、行くぞ。
甘洪:え、連れて行くんですかい?
それに、もう出かけるんで?
馬元義:見どころがありそうだからな。
峠を下りた辺りで夜が明けるだろう。
その頃には李朱氾達も追いついてくるにちげえねえ。
甘洪:じゃあ、歩きながら通った印を残していきますぜ。
ナレ:馬元義に前を、甘洪に後ろを挟まれ、劉備は否応なしに行動を共にせ
ざるを得なかった。
そして四日目が経つ頃、丘の向こうに、荒れ果てた寺院が見えた。
馬元義:おう見ろ甘洪、寺だ。飯と冷たい水にありつけるぞ!
甘洪:おほっ、こいつはありがてぇ!
きっと酒もありますぜ!
坊主って奴ァ、酒が好きですからねェ!
劉備:ッ水…!
甘洪:! 馬元義様、見てくださいよ!
ここにも我が黄巾党の札が張ってありますぜ!
この寺も俺達の仲間でさァ。
ナレ:寺院の壊れかけた扉には、黄色い紙で黄巾党の標語が貼られていた。
蒼天巳死 (そうてん すでに しす)
黄夫立当 (こうふ まさに たつべし)
歳在甲子 (とし こうしにありて)
天下大吉 (てんかだいきち)
劉備達が中へ入ると、骨と皮ばかりに痩せ細っている年老いた僧が、
虚ろな目で座っていた。
甘洪:やい、老いぼれ!
俺達はここで腹ごしらえをするんだ。
酒もあるだろ、さっさと支度しやがれェ!
老僧:………ない。
馬元義:なにい、無いだと!?
これだけ大きい寺に食い物が無いはずがねえ。
俺達を誰だと思ってなめた口をきいてる!
黄巾党の大方、馬元義だ!
もし家捜しして食い物があったら、うぬの素ッ首を刎ねてやるぞ!!
老僧:……ないものは、ない…。
馬元義:ほんとにねえのかもしれねえな…あまりに落ち着いてやがる。
老僧:…ない。
……ない、ない……無い! 無い! 無いッ!!
仏像さえ無いッッ!!
……みんな、お前方の仲間が持っていってしまったのだ…!
イナゴの大群が通った後だ、ここは……!!
馬元義:じゃあ、水はあるだろう。
汲んで持って来い。
老僧:井戸には毒が投げ込んである……飲めば死ぬ。
それも黄巾のお前方の仲間がやったのだ…。
以前ここの領主との戦いの際、残党が隠れられないように、とな…。
馬元義:ぬうう、なら外の泉はどうだ。
あれほど綺麗な蓮の花が咲いてるんだ。
どこかに清水が湧いてるだろう。
老僧:そう思うのなら、見てくるがいい…。
甘洪:おいこらジジィ、俺達にあんまり大きな口をきくとぶった斬るぞ!
【間】
うっ、こ、こいつァ!!?
老僧:よく目を開いて見るがいい…。
罪の無い民達、そしてお前方と勇敢に戦った者達、黄巾党に入る事を
拒否して殺された者達の亡骸じゃ…!!
馬元義:当たり前だ。
大賢良師・張角様に背く奴らはみな、そうなるのだ!
甘洪:食い物がねえのはわかった。
じゃあ、てめぇは一体、何を食って生きてやがるんだ!?
老僧:わしの食ってるものなら………そこら辺に、ある…。
【同時に】劉備:うッ…これは…ッ!
甘洪:げっ、こいつァ…!
ナレ:老僧が指差した先には、根が付いたままの雑草や虫の足、
鼠の骨が散らかっていた。
馬元義もこれには閉口すると、二人を振り返った。
馬元義:これァさすがにどうにもならんな。
後から追いついてくる奴らに食い物を分けてもらうとしよう。
おい劉、甘洪、引き上げるぞ。
甘洪:あっ、待って下せえ、馬元義様!
おい劉ッ! 早くしろよ!
老僧:む?………あっ!?
うーむ…!
ナレ:老僧はその時初めて劉備に気がつくと、穴の開くほどその顔を眺めて
いたが、いきなり目の前に跪くと、拝みながら叫んだ。
劉備:ッ、な、何をなさいますか??
老僧:あ、あ、あぁ貴方だッ!!
おぉぉ…青年よ、わしは長いこと待っていたぞ。
貴方こそこの乱れた世を正し、無限に苦しんでいる民達を救って下さる
お方じゃ!!
人相にそれがよく出ておる。
貴方は祖先が皇帝か、王侯貴族だったのでは?
劉備:ち、ちがいます。
わたしはタク県楼桑村の貧しい蓆売りです。
父も、祖父も百姓でした。
老僧:ならば、わしの言う事を信じるがよい…その剣が証拠じゃ…。
古びて見る影も無いが、それは一介の民百姓が帯びる剣ではない。
本来は王者の佩と呼ぶ飾りが付いた、帝王の剣だったはずじゃ。
中の刃も、無双な名剣に違いない…試した事があるかの…?
馬元義:【↑の語尾に被せて】
おいッ、劉!
さっさと荷物を持って出てこいッ!
劉備:はっ、はいッ!
老僧、わたしはこれで。
老僧:お行きなされ。
そして時が来るまで、その身を大事になされよ…。
【三拍】
馬元義:劉、そこに座れ。
甘洪:おい、陰で話を聞いてりゃてめえは、いずれ偉い人物になる人相を持って
るらしいな?
馬元義:俺も、うぬには見どころがあると思っていたから殺さなかった。
どうだ、黄巾党に入らないか?
世間の奴らは、俺達が民を虐めてばかりいると思ってるんだろうが、
我らが大賢良師・張角様を神のごとく崇めている地方もかなりある。
ナレ:そう前置きして馬元義達は、劉備に黄巾党の興りや、張角が
いかに素晴らしい人物かを語りだした。
馬元義:張角様は鉅鹿出身の、秀才と呼ばれた人物だったのだ。
ある時山に入られた折、そこで南華老仙という道士に出会い、
太平要術の書、三巻を授かった。
甘洪:その書の知識を身につけた張角様は、あちこちで疫病に苦しむ人々を
救ってくださったのさ。
劉備:そうしているうちに、自然と周りに人が集まってきた…という事でしょうか
。
馬元義:そうだ。
この髪を黄色い布で包むようになったのも張角様の真似でな、
いつしか黄巾党員の徽章となったのよ。
で、張角様には二人の弟がおられる。
張梁様に張宝様と言うんだが、それぞれ地公将軍、人公将軍と名乗
らせ、ご自身は天公将軍・大賢良師となられ、黄巾党を結成するに
至ったのだ。
甘洪:今じゃ冀州、青州、幽州をはじめ、八州以上に俺達の勢力は広がってる。
蒼天が、漢王朝が倒れるのも時間の問題よ!
馬元義:地方の領主どもは逃げ散ったのもいれば、降伏して俺達の仲間になる奴も
いる。
逆らう連中は当然、皆殺しだ!
甘洪:今の腐った世の中じゃ、どうやったって幸せになれねぇ。
だから、俺達の手で新しく作るのよ!
馬元義:劉、どうだ。今ここで黄巾党に加盟しろ。
俺が言うのは、うぬの出世の為だ。
劉備:…結構なことです。
ですが、一応故郷の母の許しを得てから…———
馬元義:【↑の語尾に被せるように】
むっ、あれは…やっと来おったか!
おぅーーーいッ!!
ナレ:馬元義は丘の向こうに人馬の姿を見つけると、手を挙げて叫んだ。むこうは
五十名ほどの小隊で、こちらへ土煙を上げながら馬を飛ばしてきた。
劉備:(うっ、賊達の後続部隊か…ますます逃げづらくなった…)
馬元義:おう、李朱氾小方、ずいぶん遅かったな!
李朱氾:馬元義大方!
やっと追いついたわい!
まったく、孔子廟で待っているというから仕事を終えて行ったら、
もぬけの空と来た。
遅いどころの騒ぎじゃねえ。
馬元義:ははは、そいつぁ悪かった!
で、今回の収穫はどうだ?
洛陽船を目当てに商人どもがだいぶ集まっていたと思うが。
李朱氾:思ったほどじゃねえが、村一つ焼き払っただけの物は手に入った。
すでに我々の営倉へ送ってある。
馬元義:近頃は、百姓どもも金などを地面を掘って埋めておいたり、
商人も列を組んで俺達が襲う前にうまく散ってしまいやがるから、
初めの頃のようにはいかなくなったなぁ。
李朱氾:うむ、実は惜しい奴を取り逃がしてるんだ。
なんでも、茶を交易した奴がいてな。
馬元義:何ィ…茶といえば、張角様には目の無い大好物だな。
李朱氾:ああ。
だから是非とも奪ってご献上せねばと思って、そいつの泊まってい
る宿も目星をつけていたんだが、いつの間にか風を食らって逃げ失せて
やがった。こいつはとんだ失敗だったぜ。
劉備:(なっ、茶だって…!? まずい…!)
馬元義:ほう…そいつはどんな奴だ?
李朱氾:俺も見たわけじゃあねえ。
だが部下の話によれば、みすぼらしいがどこか凛としてる奴だから、
油断がならねえ感じだったそうだ。
馬元義:…じゃあ、こいつじゃねえのか?
李朱氾:なに? どういうこった?
ナレ:李朱氾は馬元義の話を聞くや、部下を呼び寄せた。
一目見て間違いないという証言に、二人はいきなり劉備の腕を左右から
ねじ上げた。
李朱氾:やいってめえ! 茶を隠しているそうじゃねえか!
そいつを渡しやがれィ!
馬元義:出さんとぶった斬るぞ!
さっきうぬも聞いていた通り、茶は張角様 の大好物だが、
そのご威勢を持ってしても滅多に手に入らんのだ!
うぬごときが持っていて何の役に立つものか!
さっさと我らの手から、張角様に献上してしまえ!
劉備:(言い逃れられそうにない…しかし、こんな連中にみすみす何年もか
けて貯めた金で手に入れた茶を、渡すわけには…!)
李朱氾:ええい、強情な野郎だ!
これでもかァ!【殴り飛ばす】
劉備:うぐぅっ!! ぐあっ!!
馬元義:ちっ、しぶてぇな! おらァッ!!【蹴り飛ばす】
劉備:ぐっ! げふっ!!
(しかし、あの老僧に命を大事にしろと言われた……)
ば、馬元義様、この剣は父の形見で命の次に大事なものですが、
これを献上しますので、どうか茶だけは見逃してください!
馬元義:おう、そいつは前から俺が目を付けていた。貰っておいてやろう。
茶のことは知らん!
李朱氾:んなッ!?
おい若造!! 大方には剣を渡しておいてなんで俺には茶を渡さね
えんだ! よこしやがれ!!
さもねえと…!
劉備:(け、剣を抜いた…このままでは……くっ…!)
わ、わかりました…これを…。
李朱氾:おほっ、こいつだこいつだ!
洛陽の銘茶に違えねぇ!!
さぞかし大賢良師様がお喜びになるだろう!
ったく、最初から渡しゃいいんだよ!
無駄な力を使わせるんじゃねぇ!
劉備:(ああ……剣も、茶も奪われてしまった…。)
馬元義:さて、すぐにでも出発してえとこだが…
五百ほどの官軍が陣を張って俺達を捜索しているらしい。
今日の所はここへ泊るとしよう。
ナレ:賊達に父の形見も、母への贈り物も奪われてしまった劉備だった。
だが、たった一つ残った自分の命は守ろうと、隙を見て逃げ出そうとする。
黄巾賊1:ん…?
おいッ劉! てめぇ、どこへ行く!
劉備:くっ、しまった…!
黄巾賊2:おおっと、動くなよ……。
おい、大方様にお知らせしろ!
【二拍】
黄巾賊1:てなわけで、こいつ逃げようとしてやがったんでさ、大方様ァ!
李朱氾:油断のならねえ奴だと思ってたが、もしかして官軍の密偵か?
黄巾賊2:どうします?
いっそのこと、始末しちまいますか!?
馬元義:…吐け、劉!
うぬは密偵か!?
李朱氾:正直に言えば、命だけは助けてやらねぇこともねぇぞ!
劉備:(くっ…見つかってしまうとは…もはや、運を天に任せるしかないか
…。)
李朱氾:ちッ、だんまりか…しぶてェ奴だ!
まぁいい、大賢良師様に茶を献上しがてら、こいつを方将達の
評議にかけてみようじゃねえか。
馬元義:うむ、そうするか。
思わぬ拾い物かもしれんしな。
よし、もう夜も遅え、寝てしまおうや。
甘洪:けッ、強がってられんのも今のうちだぜ、劉!
ナレ:賊達が立ち去り、閉じ込められた部屋の天窓から月光が差し込む中、
観念して目を閉じようとする劉備の目に、縄にくくり付けられた短剣が
下りてくるのが映った。
劉備:こ、これは…?
ッ何にせよ、助けに違いない…!
これで縄を…ッ…ッ……
【必死にたぐり寄せて縄を斬る】
ッよし…!
これで外へ……!?
あ、あなたは!
老僧:しーーッ、静かに…。
さ、わしと一緒に来てもらいたいのじゃ。
劉備:一緒に、とはどちらまで…逃げるのでは?
老僧:その前に、あの塔までついてきてほしいのじゃ。
ナレ:老僧は劉備を古びた塔の前で待たせると、扉を開けるのももどかしく、
中へ入って呼びかけた。
老僧:姫様、姫様…!
ご無事ですか…!
芙蓉姫:父様…母様…、ああ、なぜこのような世の中に…。
老僧:姫様、芙蓉姫様!
! おお、こちらにいらっしゃられましたか。
芙蓉姫:あ…和上様!
わたくしは大事ありません。
それよりもどうなされたのですか、そのように息を切らして…?
老僧:姫様、ようやく貴女様を連れ出してくださる人物に出会えました。
芙蓉姫:え…本当でございますか…!?
老僧:今、お引き合わせします。
向こうの川には官軍も来ている様子。
この機を逃してはなりませぬ。
さ…こちらへ。
芙蓉姫:でも、和上様はどうなされるのですか?
老僧:心配は無用でございます。
それよりも、御身の安全を第一にお考えくだされ。
さあ、お急ぎを…!
劉備:そろそろ、見回りの賊に脱出を気づかれる頃ではないだろうか…。
! 和上、その方は…?
芙蓉姫:…この方が、わたくしをお連れ下さるのですか…?
老僧:そうです、姫様。
青年よ、わしが貴方を助けた事を恩に感じてくれるのなら、
逃げるついでにこのお方を連れて、ここから十里ほど北の川べりに布
陣している官軍の所まで行ってくれぬか。
劉備:し、しかし、氏素性も知れぬ方を…しかも賊に追われるであろう
この身では…。
芙蓉姫:わたくしはこの地方を治めていた領主、鴻家の芙蓉と申します。
劉備:!そのような高貴なお方でしたか…。
(なんと美しい…。)
老僧:黄巾賊によって城は焼かれ、ご領主様も殺され、家来は散りぢりになった
あげく、このあたりの寺院さえあの有様になり果ててしもうた…。
芙蓉姫:味方とはぐれ、彷徨っていたわたくしを、和上様が匿って下さっていた
のです。
! あの声は…!?
黄巾賊1:おい、劉の野郎が逃げたぞ! やっぱり密偵だったか!?
甘洪:ちィ! だから最初会った時に始末しときゃ良かったんだ!
黄巾賊2:まだ遠くまでは行ってねえはずだ! 探せ!!
甘洪:おいッ丁峰! 馬元義様にお知らせしてこい!
黄巾賊1:李朱氾小方様にもだ!!
甘洪:てめえら! 遅れるんじゃねえぞ!!
黄巾賊2:急げ! 見つけ次第、ぶち殺せッ!!
劉備:うっ…、あの馬のいななきや人の足音は……!
老僧:お待ちなされ、今はかえってここにしばらくいた方がよい…。
【二拍】
…行ったようだの。
青年よ、わずか十里の距離じゃ。どうか頼めまいかの?
劉備:…。
承知しました。
川にいる官軍の所までお連れすればよいのですね?
老僧:おお、引き受けてもらえるか!
しかし、今むやみに動くと敵陣に突っ込む恐れがある。
わしが塔の上から見てしんぜよう。
劉備:ですが和上。あなたが私を逃がしたと知れれば、ただでは済まないのでは
?
老僧:わしかの?
案ずることは無い。
この十数日は草の根や木の皮、虫で命を繋いでいた身じゃ。
それも、芙蓉姫様を助けて差し上げたい一心で生きていたが…
貴方という人物に出会い、託す事が出来た。
もはや心残りは、何もない…!
ナレ:言うや否や、老僧は塔の中へ入ると即座に扉を閉め、錠を下ろしてしまっ
た。芙蓉姫は驚いて、そのか細い手で扉を叩いた。
芙蓉姫:和上様! 和上様! 扉をお開け下さい! うっ、ううう……
【泣く】
老僧:おお、ここからなら、賊共の位置がよう見えるわい。
…青年よ、わしの指差す方角を見るがよい。この塔から西北の方角、
北斗七星の見える方向へ逃げていくがよい。
東も南も賊共が道を塞いでおる。
さあ、早く白馬に鞭打って急ぐのじゃ!
劉備:はいッ!
…さ、姫君、早くお乗りなさいませ。
泣いているところではありません。
芙蓉姫:は、はい……では、よろしくお願いします。
劉備:!! (羽のように軽い…! なんだ、この胸の高鳴りは…!)
御免! 和上、おさらばです…はッ!!
ナレ:劉備は白馬へ鞭をあてて駆けだした。
塔からそれを眺めた老僧は、やおら歓喜に満ちた表情で天を仰ぐと、
高らかに叫んだ。
老僧:我が事終われり!
おお、なんと凛々しき姿じゃ…!
見よ、見よ! 禍々しき暗雲はやがて消え去り、輝く太陽が出ずる!
ここ数年のうちに、黄巾は滅び去るであろう!
さらばじゃ、青年……この国を、民を、頼みましたぞ!!!
ナレ:言い終わるや否や、老僧は塔の上から身を投げて、全身の骨を粉々に砕いて
しまった。
だが、その死に顔は満足げに微笑んでいた。
【二拍】
劉備は十里先の川岸にいるであろう官軍の下へ、白馬をひたすら鞭打つ。
だが、餓狼のごとき賊兵共の影は、彼らのすぐ後ろに迫っていた。
黄巾賊1:おい、劉がいたぞ!
なんだァ!? 女を乗せてやがるぞ。
李朱氾:なんでもいい!
どっちも逃がすんじゃねえぞ!
黄巾賊2:へいッ、小方!
待ちやがれェ、劉!!
芙蓉姫:ああっ、賊共が追ってきますわ…あれに追いつかれたら…!
劉備:ご心配召されますな、大丈夫です。
川まで行けば官軍の陣があると和上は仰ってましたから、もうすぐです。
芙蓉姫:はい…!
!あっ、賊が弓を…!
李朱氾:おいッ! 矢を放て!!
劉備:くっ、当たって…たまるか…ッ!
黄巾賊1:ッくそォ、駄目だ、あたらねえ!
甘洪:何やってやがる! 下手くそがッ!
黄巾賊2:追え、追いまくれッ!!
李朱氾:逃がすんじゃねえぞォ!
劉はぶち殺して、女は…ひひひ。
劉備:よし、やっと川に……うっ、馬鹿な…!?
官軍どころか、猫の子一匹いないぞ!
芙蓉姫:そんな…これは…どうしたことでしょう。
劉備:なぜ、なぜ官軍がいない!
芙蓉姫:みんな黄巾賊を恐れて、逃げてしまったのではありますまいか…。
劉備:ッ、とにかく、逃げられるだけ逃げましょう!
芙蓉姫:はい…!
李朱氾:往生際が悪ィぞ! まだ足掻きやがるか!
黄巾賊1:観念…しやがれッ!
劉備:うっ、矢が!
芙蓉姫:きゃああっ…!!
ナレ:馬の向きを変えた刹那、賊の放った矢が白馬の首に当たり、
二人は地上へ投げ出された。先に馬元義に剣を取られ、
何も武器を持っていなかった劉備は、足元の石を咄嗟に拾った。
劉備:くっ…ただではやられぬ! はッ!
黄巾賊2:あッ!? いッいでぇッ!!
劉備:しめた! 槍を…!
罪なき民を苦しめる害虫共め、もはや許さぬ!
劉備玄徳が腕の程を見よッ!
李朱氾:はッははは、青二才が!! 手向かう気かァ!?
黄巾賊1:へへへ…おい劉、どこから見つけたか知らんが、
えらい上玉じゃねぇか。
隅におけねえ奴だぜ。
李朱氾:てめェにはもったいねえ、その女は俺達が可愛いがってやるぜ…!
芙蓉姫:ひッ…いや…助けて…!
劉備:やああッ! とあッ!! せりゃあァッ!!
李朱氾:けッ、なんだそのへっぴり腰はァ!
槍ってのはな、こうして使うもんだぜ!!
おらァッ!!
劉備:うぐっ、槍が…!
李朱氾:農民風情が、俺たち黄巾党に逆らうんじゃねえ!
運がなかったなァおい!
劉備:(くそっ、これまでか…!?)
ナレ:槍をはね飛ばされ、喉元へ突き付けられた李朱氾の槍が、今にも貫こうとし
た、その時である。
張飛:おぉーーいッ、おおぉーーーーーーぅいッ!!
黄巾賊2:やっ? なんだ!?
黄巾賊1:ありゃあ、兵卒の張飛じゃないか?
黄巾賊2:ああ、下っ端の張飛だ。なんだ、いったい?
張飛:おぉーーーいッ! 待ってくれーーッ!
ナレ:黄巾賊たちがそんな会話をしている間に、遥か向こうにいたはずの張飛とい
う男は恐るべき脚力で、もう彼らの目の前に立っていた。
あれだけの距離を走って騎乗の彼らに追いついて、息一つ乱していないのは
驚くべきことなのに、賊達がそれに気づいた様子はなかった。
張飛:やれやれ、やっと間に合いましたー。馬に追いつくのは骨が折れますわい。
それより小方、その男を殺してはいけません。こちらに渡してください。
李朱氾:何ィ!? おい張飛、てめェ、誰の命令でそんな事言いやがる!
張飛:はァ、そのー、張飛の命令です。
李朱氾:ばっ、馬鹿野郎ッ! 張飛は貴様だろうが!
兵卒の分際でーー
張飛:【語尾に被せて】ぃやっかましィ!!
李朱氾:んなぁッーーーぐげッ!!
ナレ:軽々と片手で空中高く放り投げられた李朱氾は、受け身も取れずに頭から
地面に落下し、嫌な音を響かせるとそのまま動かなくなった。
黄巾賊1:し、小方!?
黄巾賊2:張飛! てっ、てめぇ何をしやがる!
黄巾賊1:そこに座れ! 党の軍律に照らして成敗してやる!
ナレ:賊達が狼狽えて口々に喚くのを、張飛と呼ばれた男は、今までの鈍そう
な態度を鋭い顔つきに変えて睨み回していたが、いきなり笑い出した。
張飛:うわッははははは!! 吠えろ吠えろ、肝を潰した野良犬どもが!
黄巾賊2:な、なんだとぉ! 俺らを野良犬だと!?
張飛:そうだ、貴様らの中に一人でも人間らしいのがいるつもりか!?
民達から血と汗を搾り取って生きてるのが、野良犬でなければなんだ!
黄巾賊1:ぬうう、下っ端の分際で!!
ナレ:日頃、鈍い男だとしか思っていなかった賊達は、先ほどの光景を見ても
まだ信じられないのか、一人の賊が襲い掛かった。
黄巾賊2:ウスノロが生意気な! おあああッ!
張飛:おっと。
ちょうどいい、その槍をよこせ!
…仕置きの手始めに、これでも喰らえッ!
黄巾賊2:ぎゃひッ!?
張飛:ちっ、一回で真っ二つか。
そこいらのなまくら槍じゃ、話にもならん。
黄巾賊1:な、なんて馬鹿力だ…!
黄巾賊2:ええい、怯むんじゃねえ!
張飛:まだ来るか! 無駄に命を捨てるより、さっさと尻尾を巻いて逃げ帰って
馬元義へ報告しておけ! 劉備と女は偽って降伏していた、鴻家の残党の
張飛に奪われた、とな!
黄巾賊1:あッ!? じゃ、じゃあてめェは、鴻家の生き残りだな!?
張飛:そうだ! 鴻家の南門衛少督、張飛、字は翼徳とは俺のことだ!
無念にも留守中に貴様ら黄巾賊に城を襲われ、主君や部下達を殺されてしま
った…。その恨みを晴らそうと、密かに機を窺っていたのだ!
黄巾賊2:ちィ、そうと分かりゃあ、なおの事生かしちゃあおけねぇ!!
かかれェ!!
張飛:ふん、貴様ら相手に剣などいらん。
拳で十分だ!
そら、かかってこいッ!!
ナレ:黄巾賊達は一度に打ちかかったが、まるで相手にしていないかのように、
張飛は鼻で嘲笑って応戦した。
黄巾賊1:や、野郎ォッ!! これでも喰らいやがれ!
張飛:ああん? なんだその動きは!? 蠅が止まるわ、ふんッ!!
黄巾賊1:うげッ!! ぐぶぉッ!
張飛:やれやれ、何だその及び腰は!
足を踏ん張って、腰を入れることもできんのか!
黄巾賊2:くそッ、これならどうだ! 囲めえ!
張飛:たった二、三人で包囲したつもりか! そらッ、そらそらそらァッッ!!
黄巾賊2:ぎゃひッ!! あ…ぐげっ……。
ナレ:賊の返り血を浴びて、全身朱に染めた張飛がゆっくりと振り返ると、
そこには甘洪が剣をかすかに震わせながら構えていた。
甘洪:ち、ちくしょう、張飛、てめぇッ!!
張飛:おう甘洪、いつもの威勢はどうした!
馬元義がいなければ強がれもしないのか!
甘洪:なっなにィ!? 俺を舐めるなァ!!
張飛:ふん、攻撃に体重が乗ってないぞ!
攻撃ってのはな、こうやるんだ! でぇぇいッ!!
甘洪:あが…ぐぼッ、げァ……。
ナレ:拳で殴り殺される者、放り投げられて頭蓋骨を砕かれる者など、
再び起き上がる者は無く、瞬く間に大地は賊達の流す血で染まる。
生き残った者は馬に飛びついて逃げたが、張飛は笑って追いもしなかった。
劉備:(な、なんという豪傑だろうか…十人以上はいた賊が、あっという間に…!)
芙蓉姫:おお、張飛! よくぞ生きていてくれました。
父様も、母様も、みな…うっ、うう……【泣く】
張飛:はッ、姫様もご無事で何よりです。
これからはこの張飛がお守りいたしますゆえ、ご案じなさいますな。
…さて、劉備殿。えらい災難でござったな。
劉備:いえ、おかげで助かりました。ありがとうございます。
張飛:おぉそうだ、この茶壷と剣は返さねばならん。
貴公の行方を捜して賊共が混雑に落ちたのを見はからい、取り返して
きたのだ。
劉備:!何から何まで…既に命を助けていただいたばかりか、
大事なこの二品まで手元に戻ってくるとは、まるで夢のようです。
張飛:なァに、貴公は我が鴻家の芙蓉姫様をお助けしてくれた。
その義の心にお応えしたまで。
芙蓉姫:ご自身の危険をかえりみず、わたくしを守ろうとして下さった事、
生涯忘れは致しませぬ。
ナレ:劉備はその武勇を誇らない態度にいたく感じて、受け取った二品のうち、
剣を差し出した。
劉備:張飛殿。茶の方は母への土産なので差し上げることはできませんが、この剣
を助けていただいたお礼に差し上げます。劉備の寸志です。
張飛:えっ、この剣をそれがしに!?
いや、実はこの剣が非常な名剣である事は話を聞いていたゆえ、
欲しくてならなかったのが本音だが…よろしいのか?
劉備:ええ、張飛殿のような豪傑に振るっていただいた方が、剣も本望かと思いま
すので。
張飛:ありがたい! 一生に一度はこんな剣を持ってみたいと思っていた。
そうだ、故郷はタク県と伺った。道のりはまだ長いゆえ、代わりにそれがし
の剣を帯びて行かれると良い。
劉備:ありがとうございます。張飛殿はこれからどうなされるおつもりで?
張飛:まずは姫君を安全な場所へお連れしてのち、ちりぢりになった部下たちを集
めて城を取り返し、鴻家を再興するつもりだ。
芙蓉姫:もし…、あなた様のお名前を教えていただけませぬか?
劉備:私はタク県楼桑村に住む百姓、劉備玄徳でございます。
芙蓉姫:いつか…いつかまた、お会いできますよう…。
張飛:さあ姫様、黄巾賊の仲間が来ぬうちに参りましょう。
劉備殿、さらばだ。
芙蓉姫:お気をつけて…劉備様。
劉備:おさらばです、姫様、張飛殿。
いつの日か、相まみえる日もありましょう。
無事、鴻家の再興を成し遂げられますよう。
ナレ:張飛達と劉備は、幾度も振り向きながら別れた。
この時、芙蓉姫がいずれ自分の妻となり、張飛とは義兄弟の盟を結んでこの
乱世を渡っていく事になるとは、劉備自身、夢にも思いはしなかったのであ
る。
END 【後編へ続く】
はいはいはいおはこんばんちわー、作者であります。
・・・うん、ついに始まりのお話書いたよね。(;^ω^)
まぁ、全部おいしそうな名前の人が悪い(わりと冤罪←
好きで書いてるから良いんですけどねェ( ・∀・)ノ
例によって、間違いなく初心者向けの台本ではないですね、ええ(;´Д`)
もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければ声をかけていた
だければ聞きに参ります。録画はぜひ残していただければ幸いです。
ではでは!