表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

閑話 サチ・レヴォンラット Ⅱ

「来ちゃった」

「……邪魔するなと言ったはずだが?」

「邪魔なんてしてないじゃない。もう終わったんでしょ?」


 傭兵団長スペードルが唸り声を上げる小屋を出たところで待っていたのは、サチ・レヴォンラットだった。

 今朝から姿が見えなかったが、なぜここにいるのか。


「跡をつけてきたのか?」

「まーねー」


 おどけてそう言うと、何が楽しいのか踊るようにくるくる回った。


 もう半年以上一緒にいるが、俺はこいつのことが分からない。

 子どものように無邪気に笑ったかと思えば、妖艶な目を向けてくることもある。愛おしげに求めて来た次の日には、ふらふらと数日間帰って来ないこともあった。


 だが、俺のはどうでもいいことだ。

 サチに対して、俺が心を開くことはない。そうはっきり伝えてあるし、それでもいいと言っていた。

 彼女とて、俺に気を許しているわけではない。俺たちの間には必ず見えない壁があるし、底冷えのする何かが常に瞳の中に渦巻いている。


「ふふ~ん」


 上機嫌に、今俺が出た小屋に入っていくサチ。


「あぶねえぞ」

「へーきへーき」


 中には複数の薬物によって錯乱しているスペードルがいるのだ。

 今は豚に夢中だが、彼女が入ればどうなるかわからない。


「最後に見ておこうと思ってね」

「趣味悪いな」

「ついでにお金もらっていこーよ」

「俺はいらん」

「じゃあ私貰っちゃうね」


 ごそごそと棚を漁って、次々と金品を取り出していく。ずいぶんと手慣れた動作だ。

 それを俺はどうとも思わない。スラムは綺麗ごとだけで生きていける場所ではない。


 スペードルの財産だって、人を殺して得たものだ。

 俺はこいつの汗で汚れた金なんて、触れたくもないが。


「おま、おま、おまえはぁあああああ」

「きゃつ」


 突然、豚を抱えて荒い息を立てていたスペードルがサチを見つけ、立ち上がった。そして、部屋の奥にいる彼女に飛びかかった。

 寸でのところで横にさっと跳び退き、回避する。スペードルは壁に頭から激突した。大した勢いでもなかったので、頭を軽く振ってまたサチを見定める。


「だから言ったろ」


 その隙に、俺は先ほどと同じ薬品を懐から取り出した。一瞬でスペードルに肉薄して、顎を掴み薬品を流し込む。一本で後遺症レベルの錯乱、二本で即死。そうなるように調合した。


「助けてくれたんだ」

「騎士に見つかる前に行くぞ。証拠は消しとけよ」

「もちろん」


 自信ありげにサチが言うので目線を向けると、物色した棚は元通りに戻されていて、金品が抜かれているようには見えない。手際が良いことだ。


 俺たちは騎士に見つからないよう、裏道から寝床に戻った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ