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二人目 傭兵団長 スペードル

 ハーバー・ベルクローバー侯爵に復讐した二日後、俺は次の復讐に向けて、行動を開始した。


 二人目の復讐対象は、傭兵団長スペードル。

 俺から恋人を寝取った男だ。


 他人からすれば、たったそれだけで、復讐するのか、と思うかもしれない。

 だが理不尽に家族を殺された俺にとって、家族を得る、大事な存在を作るというのは非常に怖いことだった。それでも彼女とだったら上手くやっていける、大切にしたい。そう思わせてくれる相手だったのだ。


 その細やかな幸せすら奪ったあいつを、俺は絶対に許すことができない。

 この順番で復讐をする理由の一つは俺が経験した順番にケジメを付けていくため。二つ目は、次の復讐の“仕込み”に必要だったから。


「ぎゃははは、てめぇら! 酒持ってこい! 酒だ!」


 忘れもしない、下品な笑い声。年を取って、下劣さに拍車がかかった気がする。

 きっと今も、歯茎をさらけ出して笑っているのだろう。すぐにその笑みを止めてやる。


 傭兵団は、俺がいたころとは違う場所に拠点を構えていた。屋根裏に潜む俺は、中の様子を静かに伺う。


 拠点はベルクローバー侯爵の屋敷があった場所からほど近い場所にあった。

 傭兵団はさらに規模を拡大していて、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。俺が知る顔は少数で、ほとんどがここ数年のうちに加入したメンバーだった。


 団長だけは変わっていない。今も何故か付いていきたくなるカリスマ性は健在だし、肉体的にも衰えてはいないようだ。


「ぎゃははは、この傭兵団はは世界一だ!」

「そうですね団長! このまま、どっかの小国でも落としますか?」

「それもいいかもな!」


 世界一。それは団長がずっと目指してきた目標だ。途方もない夢だとか、身の程知らずだとか、散々言われながらも捨てなかった夢だ。

 そして一歩一歩、着実に近づいてきたゴールだ。それはあるいは、手を伸ばせば届く距離まで来てるのかもしれない。


「俺はそれを奪おう」


 俺から目標を奪ったお前への復讐は、それが相応しい。


 斜陽が差し込む拠点で、彼らは酒盛りをしていた。

 気の合う仲間たちとテーブルを囲んで、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。皆、成功者特有の自信が満ちあふれた表情をしていて、自分が英雄伝説の主人公であることを疑わない。


「静まれ!」


 突然あけ放たれたドアと、怒声。

 傭兵たちは何事かと視線を向ける。


「おいおい、誰だ俺たちの宴を邪魔する奴は」


 よろよろとおぼつかない足取りで、団長が躍り出る。


 乱入者はそんな団長には目もくれず、代わりに酒場の外になにやら合図を出した。

 異変を感じた団員たちがジョッキを置いて眉を顰めるが、後の祭り。


 ぞろぞろと入って来たのは、剣を持った騎士たち。


「こいつら、騎士団だ!!」


 団員の誰かが、そう叫んだ。

 騎士団は国の治安を守る役割を持った、戦士だ。

 軍隊として戦争に駆り出されるのが兵士なら、悪人を捉え国内を正常に保つのが、王宮直属の部隊である、騎士団。


「貴様らにはハーバー・ベルクローバー侯爵及びその妻子を殺害し、屋敷に火を放った容疑がかかっている」

「は? ベルクローバーだと!? 知らねえ!」

「しらばっくれても無駄だ!」

「ふ、ふざけやがって」


 一人の団員が剣を取って走り出した。周りからの静止を振り払い、剣を抜く。

 しかし彼の特攻は、統制の取れた二人の騎士によってまず剣を弾かれ、流れるように次の騎士に腹を切り裂かれた。


 多少戦争で目立っているからと言って、万能感に取り憑かれた若者の末路だ。

 厳しい鍛錬を積み、実力主義の騎士団で外回りに連れて行かれるほどの騎士が、並みの傭兵に負けるわけがない。

 少数精鋭。しかし個の力とその連携力は、他の追随を許さない。


 入って来た騎士団はおよそ20名。傭兵団はその10倍近くいる。

 だというのに、彼らは完全に委縮していた。さらにいえば、ほとんどの者は酔っぱらっている。


「貴様らの罪状は司祭様と国王様の名に置いて、既に確定している! 本来であれば磔にした上晒し首にするところだが、抵抗するなら殺せと命じられている」

「やってねぇって言ってんだろ!」

「戯言を。誰が貴様ら浮浪者の言うことを信じる?」


 けたけたと、意地の悪そうに笑った。


「ちくしょう……おい! てめぇら! 剣を取れ!」

「ふふ、抵抗するなら仕方あるまい。ただいまより、神の名において罪人の処刑を始める」

「俺たちは世界一の傭兵団だ! 騎士団なんかに負ける道理はねぇ!」


 そこまで見届けて、俺はそっと屋根裏を出て外に降り立った。最後の仕上げをするためだ。


 騎士団がこの傭兵団を犯人とした理由は簡単だ。俺がそう誤認するように仕向けたから。

 傭兵団の動向を把握し、屋敷の近くで行動する日を選んだ。彼らの格好をして、付近で目立つ行動をした。拠点から盗んだ証拠の品となりえるものを、現場に残した。他にも、細かい細工は色々施した。


 しかし、その精度はそれほど高くない。それでも騎士団が断定したのは、彼らには早く事態を収束させなければならなかったから。


 侯爵家が襲われるという大事件。騎士団の責任は免れず、すぐにでも犯人を捕まえる必要があった。そこで次々と湧いて出た、証拠の数々。それが真実であるかはどうでもいい。彼らにとって、分かりやすい犯人が必要だっただけだ。元より殲滅するつもりの装備で来たのは、あとからボロが出ないため。


 それに、この傭兵団は以前から目の上のたんこぶだった。

 戦争で都合よく使うだけの存在が、思った以上に肥大化してしまった。彼らが一斉に牙を剥けば、大国とて無事では済まない。


 だから今回の事件は渡りに船でもあったわけだ。


 俺は少し離れた小屋に入って、その時を待つ。もう一つやることがある。


「ぎゃは、は、は。まさか騎士団が来るなんて」


 外から聞こえてきたのは団長の声。


「だが生き延びた! あいつらは死んだが、まあいい。あんな雑魚共なんて、またいつでも集められる。それより、俺が逃げることの方が重要だ」

「久しぶりだな」


 息も絶え絶え、小屋に入って来た団長をしかと見据える。


「お前は――」

「俺はジョーカー。復讐者だ」

「ジョーカーだと? ふざけた名前を。なんでここにいる!」


 俺は信じていた。彼の実力なら、騎士団の包囲すらも脱して、突破することを。

 俺は信じていた。土壇場で仲間を見捨て、自分だけ生き残る選択をすることを。

 俺は信じていた。こいつは逃げる前、必ず逃亡用の荷物と財産を取りに、隠し金庫のあるこの小屋に来ることを。


「どうだ? 大事に培ってきたものが一瞬にして崩れ落ちる気分は。手を伸ばせば届きそうだった目標が、光の速度で遠ざかっていく気持ちは」

「てめぇの仕業か! こんなことして、なにになる! 古巣を壊してまで、お前は何がしたい!?」

「お前が俺にしたことをやり返しているだけだ。あの日、俺が傭兵団を抜けた日、自分が何をしたか覚えているのか?」

「う、うそだろ……たったそれだけのことで。だいたい、あれは愛人のやつに頼まれて。俺は、俺たちは世界一になるはずで……」


 たったそれだけ。そうだろうな。そう思うような人間だから、簡単に人の彼女を奪えるんだろう。

 もう十分だ。こいつが狼狽し、放心する様子は見れた。

 最後に、もう一つ。彼には味わってもらうことがある。


「アンジェリカとの交尾は楽しかったか?」

「覚えてねえよ。あんな奴」

「人生の最後に、果てるまで交尾させてやるよ」


 豚とな。


 俺は興奮剤や媚薬、精力剤やら様々な成分が入った液体を、団長の喉に流し込む。

 精神に異常をきたし後遺症が残るレベルの摂取量だが、別に問題ない。


 飲んだ瞬間、団長の目が蕩けるように滲んだ。頬はだらしなく垂れ下がり紅潮している。


「ほら、最後の同衾相手だ。大切にしろよ」

「ぐひ」


 俺は農家から盗んできたメス豚を団長に放り投げ、ナイフでベルトを断ち切った。

 団長は鬼気迫る顔で下半身を露出させると、豚を抱き寄せ覆いかぶさった。


「騎士団に見つかるまでそうしとけ」


 これで二人目の復讐は終了だ。彼は全てを失い、豚と交尾をしながら死んでいく。万が一聴取をされても、会話できる精神状態でも脳みそでもない。


「さて、次」


二人目終了

残り二人の復讐もお楽しみください。また、例のごとく文字数不安定です。申し訳ありません。

序盤が短すぎたため、後程加筆するかもしれません

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