表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

閑話 サチ・レヴォンラット Ⅰ

「おかえりなさい」


 燃え盛るベルクローバー侯爵家の屋敷を背に、俺は拠点にしている古民家に帰った。

 まともな住民は一人も残っていない寂れた町の、くたびれた平屋。


「お前まだいたのか、サチ」

「いいでしょ。私もジョーカーの復讐が見たいのよ」

「邪魔したら殺すからな」

「分かってる」


 サチ・レヴォンラットと名乗る彼女は、俺の周りをうろつく色白の娘だ。

 住処を追われこの町に潜り込んだ頃、たまたま出会った。


 スラム街と化しているこの町で、整った容姿と美しい長髪の彼女は目立っていた。しかし不思議な雰囲気を纏っていて、何故か襲われることはない。

 サチは俺が復讐の準備をしていると知り、興味本位で俺の拠点に潜り込んできた。


 家事を率先してこなすから置いているが、信用はしていない。そもそも、俺はもう誰も信じることはできない。故に心を開くことはない。


「ねえねえ、侯爵はどうやって殺したの?」


 薄いネグリジェ一枚でベッドに寝転がる彼女は、そんなことを聞いてくる。


 なぜこいつが俺の復讐に興味を持つのかは分からない。

 ただの道楽か、不幸な男を見て楽しんでいるのか。


 過去のことはほとんど話していない。話したことはただ一つ。俺が4人の者に復讐しようとしていることだけ。

 なぜ復讐するのか、何をされたのか、どう復讐するのか。それは他人に話すことではない。話すことで満足してしまうのが怖かったし、全てを失った俺にとって、過去というのは何よりも大事なものだ。


 だが復讐が無事終わって、気分が高ぶっていたのだろう。


「目の前で妻と息子を殺して、屋敷を燃やしてやったよ」

「まあ、良いわね」


 聞かれるがまま、そう答えてしまった。


 サチはふふ、と透き通る笑い声をあげて、ベッドに腰かけた俺の肩にしだれかかる。甘い香りが鼻孔をくすぐった。


「きっと弟くんと妹ちゃんも、黄泉の国で喜んでるわ」


 どうだろうか。

 二人はきっと、復讐なんて望んでいない気がする。そう考えることすら、俺のエゴだけど。


 これは誰かのための復讐ではない。

 全て自分のためだ。俺の大切なものを理不尽に奪っていった奴らが許せない。


 不条理、不合理。そんなものは認めない。必ず報いを受けさせる。その後はどうなってもいい。


「あまりくっつくな」


 俺の足に太ももを乗せ、首筋をそっと撫でる。


「ねえ、いいでしょ。私、ずっと待ってたのよ」

「待ってくれと頼んだ覚えはない」

「もう、つれないんだから」


 無理やり腕を引かれ、押し倒された。唇に暖かいものが押し付けられて口内に何かが侵入してくる。


「ジョーカーの腕で、私も壊して欲しい。今日はとっても良い顔してるもの」


 憎しみ以外の感情は失っても、肉欲はまだ残っているらしい。

 俺は一片の愛情もないまま、欲望のままにサチの身体を貪った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 妻と子供は、殺した後にオブジェにしてご対面。だから、目の前で殺してはいないっすね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ