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四人目 再会

「あ……」


 彼女と再会したのはアルフレッドの企てによって騎士団を追放された数日後だ。

 かき集めた身銭と少しの着替え、手に馴染んだ剣だけを持って国を出た俺はとある街に滞在した。そこで、彼女とばったり会ったのだった。


 アンジェリカは傭兵団を抜けていて、大衆酒場で働いていた。

 以前のような明るさはどこかに消え代わりに言葉の節々に毒が潜むようになっていた。


 それでも俺が彼女とまた関わることを選んだのは、彼女の手首にあの頃と同じ革のブレスレットがついていたからだ。

 住む場所がなく、地位を失ったことで自暴自棄になっていたことも、彼女の存在に縋りたくなった理由の一つだ。


「あの、ごめんなさい。ずっと謝りたくて」


 招かれた彼女の部屋で、開口一番謝られた。

 余計な物がない整頓された質素な部屋は、前の部屋と同じ雰囲気でどこか懐かしい。


「あの時のこと、ずっと後悔してた」


 白々しい、と思わないでもない。

 しかし痩せこけた彼女が大声を上げて泣き崩れるのを見て、俺は抱きしめずにはいられなかった。一度裏切られただけ。それも、あいつに無理やり奪われただけでアンジェリカには罪はない。そんな風に自分に言い訳して、彼女と夜を共にした。


 久々に触れた彼女の身体は弱々しくて、少し力を入れれば壊れてしまうような儚さを感じた。

 二人の間にはあの頃と同じ暗黙の了解があった。言葉はいらない。


 ずっと努力して積み上げてきた騎士団の地位を理不尽に奪われ、生きる目標がなくなっていた俺にとって、彼女の存在は神からの天啓に等しかった。もう一度、彼女を守るために生きよう。今度こそ、幸せになろう。何かから逃げるように、その道を選んだ。


「なんか逞しくなったね」

「ああ。騎士団にいたからな」

「ふーん」


 俺の肩に顔をうずめて、擦り付けた。布団の温もりと彼女の確かな重みが心地よい。


 それから俺たちは自然に生活を共にした。

 俺には騎士団時代の給料があったから、金に困ることはない。天下の騎士団、それも本部の上層部にいたのだ。慎ましく生きれば十年以上食べていける。


 二人が恋人だった時に戻ったかのようだった。あの日から止まっていた時間が動き出したように、俺たちは互いを求めた。


「アンジェ、俺と結婚して欲しい」

「喜んで」


 あの頃言えなかった言葉。それがすんなり口から出てきたことに、言った本人が一番驚いていた。

 初めて思いを告げた時と同じ笑顔で、彼女は頷いた。


 ずっと胸に引っ掛かっていた何かが外れたようだった。


 結婚に複雑な手続きは必要ない。騎士団にいた時ならばともかく、俺たちが夫婦だと認識すれば、それで済む。


 これを機に、俺たちはもう少し広い家に引っ越すことにした。

 選んだのは4部屋もある立派な平屋だ。少々年季が入っているから補修は必要だが、立地も良くて治安も良い。


 彼女が荷造りをして、俺が運ぶ。そういう手筈だった。


 大きな家具を運び終わり、彼女が住む小さな賃貸に戻ると――


 アンジェリカは全財産が入ったカバンと共に、姿を消していた。


『夫婦になったんだから、お金は一緒にしよ。私の給料もここにいれるね』


 疑うことなく、騎士団時代の給料は全てアンジェリカに預けていた。

 騙された。そう判断するまでに長い時間が必要だった。


 俺は部屋をひっくり返してカバンを探すが、当然見つからない。

 部屋を飛び出して、街中を駆け回っても彼女の姿はなかった。


 またか。また、俺の手からは幸せがこぼれ落ちていくのか。

 絶望の中で、なんとか手を伸ばした小さな光さえも、俺を置いてどこかに消えるのか。


「あ゛あ゛あぁああああああ」


 往来の真ん中でうずくまり、全てに絶望した。

 そして、俺は全員に復讐することを誓った。


 今まで俺を不幸にしてきた奴、全員に言ってやるのだ。「ざまあ見ろ」と。


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