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三人目 追放

 歯車が狂い始めたのは、騎士になって五年目の秋だ。

 そのころ俺は警備隊の副隊長に。そしてアルフレッド・ダイヤモンドは隊長になっていた。


 彼が隊長になった理由は簡単だ。アルフレッドの方が強くて、何より華がある。

 無骨な俺の剣では、先頭に立つには相応しくない。


 騎士団本部に呼ばれるのは、アルフレッドが先だろう。誰もがそう思っていた。本部に行けば街の警備ではなく(もちろんそれも大事な仕事だが)貴族や王族などの要人警護を任せられるようになる。当然給料も良いし、騎士団の花形だ。


 しかし、先に声がかかったのは俺だった。

 たまたま暴漢から助けた少女が、ある有力貴族の子女だったのだ。運が良かった。


 本部に行くことを伝えた時、アルフレッドは自分のことのように喜んでくれた。


「俺もすぐ追いつくからな!」

「おう。待ってる。隣はお前じゃないと」


 そう言って拳を合わせた。

 彼の笑顔の裏に、わずかばかりの闇が生まれたことに気づかずに。


 当然、実力のあるアルフレッドはすぐに騎士団本部に上がって来た。

 と思った次の年には、早々と実績を上げて俺を追い抜いていった。俺も必死になって追いかけた。


 思えば、この頃からアルフレッドを相棒というより競争相手として見ていた気がする。それはそれで悪くない関係性だったし、当時はそれが楽しかった。どちらが勝っても恨みっこなし。相手を素直に認める。そういう勝負だと思っていた。


 抜いて、抜かれて。上司になったと思えば部下になって。俺たちはひたすら上を目指し続けた。


「聞いたか? そろそろ騎士団長が引退を考えているらしい」

「やっとか。ついに世代交代だ」

「くぅー、俺が騎士団長か。緊張するなぁ」

「抜かせ。団長になるのは俺だ」


 決して驕りではなく、俺たちは団長の座を狙える位置にいた。

 その日から、より一層鍛錬と業務に励んだ。貴族たちや名誉騎士(引退した元騎士)からの覚えも明るく、現騎士団長からも目をかけられていた。

 騎士団長は騎士団を統率する立場にあるだけでなく、一代限りではあるが爵位を得ることができる。騎士ならば誰もが憧れる役職だった。


 そんな中、一歩先んじたのは俺だった。

 運。俺を優位に立たせたのはまたしても運だった。王女殿下が見学にいらしたその日、たまたま手の空いていた俺が案内の役目を仰せつかった。普通の対応しかしていないが、いたく気に入られ後から礼状が届いた。


 それだけで昇格が決まったわけではない。だが確実に一歩近づいた。

 その日から、アルフレッドと顔を合わせる頻度が減った。最初はタイミングが合わないだけかと思っていたが、どうやら避けられているようだった。


 ある日そのことを問い詰めようと、アルフレッドが本部に帰って来た時を見計らって会いに行った。


「アルフレッド、どうして俺のことを避けるんだ?」

「どの口が言うんだ。自分の胸に聞いてみたら? 俺はお前のことを信じていたんだけどね。見損なったよ」

「なんの話だよ」


 ふん、とそっぽを向いて俺を通り過ぎていった。

 彼が言っていた意味が分かったのは、次の日だった。騎士団長からの呼び出しを受けて、団長室に入った。そこには騎士団長とアルフレッドがいた。


 騎士団長は数枚の書類を机に並べ、残念だ、と一言だけ言った。


「これは――!」


 その書類には、俺が傭兵団にいたこと。いつどこの戦争に参加し、どのような悪事を働いてきたか。

 そのようなことが、詳細に書かれていた。


 だが、内容のほとんどは出鱈目だった。傭兵団にいたことは事実。そして、参加した戦争もいくつかは正しい。だがこの国に攻め入ったことなどないし、裏切った経験もない。村で略奪行為はおろか、粗暴な行いもなく良好な関係を気づいていた。窃盗や強姦も覚えがない。


 だというのに、まるで俺の過去を知っているかのように事細かく書かれていた。

 立ち寄った町や村。傭兵仲間の名前。関わった人々。犯罪行為だけはでっち上げられたものでも、それ以外は真実だった。


「アルフレッド……」

「僕はさー、お前がまっとうな傭兵団にいたって言うから、それを信じてたんだ。でも念のため調べてみたら、ぽろぽろと犯罪行為の証拠が出てきたよ。騎士の誇りとして、たとえ相棒でも報告しないわけにはいかない。いや、友だからこそ、道は正さないと」

「出鱈目だ! 俺は犯罪なんてしてない!」

「しらばっくれても無駄だよ。証拠は出揃っているんだ」

「違う!」

「ははは、一応今は騎士なんだから、潔く認めたらどうなの? まったく、犯罪者のくせに騎士になって、あまつさえ団長の席を狙うなんて。君を団長になんてしたら、騎士団の歴史に傷がつく」


 アルフレッドの据わった目を見て、俺は確信した。嵌められた。こいつは自分の出世のために、俺を蹴落としたんだ。


 騎士団長は、俺の弁解に耳を傾けることはなかった。騎士団は人手が余っている。たとえ真実とは異なる部分があっても、曰く付きの男を置いておく理由はない。

 俺は国外追放処分となった。これまでの功績を鑑みて、処刑は免れた。


 俺はその日のうちに荷物をまとめ、国を出た。

 最後に見た、アルフレッドの薄ら笑いが脳裏にこびりついていた。


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